2014 Fiscal Year Research-status Report
遺伝子生物工学に基づくホタル生物発光の設計制御と定量計測
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26610081
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
秋山 英文 東京大学, 物性研究所, 准教授 (40251491)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
樋山 みやび 東京大学, 物性研究所, 研究員 (90399311)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 生物発光 / 酵素 / ルシフェラーゼ / ルシフェリン / 分光 |
Outline of Annual Research Achievements |
ホタル生物発光は、自然科学の中でも最も広く興味をもたれる現象の一つであり、高効率に進む生体内の酵素反応の典型として重要な意義を持つ。このシステムは微視的に見ると非常に複雑であり、従来、自然を根源的・統一的立場から演繹的に記述しようとする物理学からは遠い存在でしかなかった。本研究は、発展の著しい遺伝子工学・生物工学の手法を取り入れることにより、天然のホタル生物発光システムと変異体生物発光システムを光物性物理学の研究の題材として扱い、物理的記述に基づいた理解を得ることを目的としている。 タンパク質酵素ルシフェラーゼ内の発光分子オキシルシフェリン近傍のアミノ酸残基を置換し、オキシルシフェリン近傍の電荷・極性・親/疎水性を変えた複数の試料について、これまでに得た生物発光の効率及びスペクトルの温度依存性・溶媒依存性などを定量的に整理した。実験結果を系統的に理解するため、時間依存密度汎関数計算(Gaussian09)や、第一原理計算に着手した。タンパク質内のアミノ酸残基置換効果を環境電荷分布として気相を仮定した計算は直ちに可能だが、水和効果すなわち水分子の配置と水素結合の効果を取り入れることが、重要かつ最難関であることが解り、複数のアプローチの計算を試みた。 これまでの定量分光測定は、緑―赤色領域が中心であったが、様々な試料に対応するため青色領域に拡張した。標準的なルミノール化学発光試料を用いてその試用を行った。毎度の校正作業に甚大な労力がかかりすぎるので、絶対値較正を容易にする微弱発光標準ツールの開発と利用の実験を進めた。生物発光反応中のオキシルシフェリンの透過吸収、蛍光、時間分解蛍光などのその場分光計測を行うため、ケージドルシフェリンやケージドATPという人工合成された分子群が有効と考え、その基礎分光に取り組んだ。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
理論計算に関して、量子化学計算と分子動力学計算を組み合わせた計算により水和効果を調べた研究や、束縛非束縛全基底ベーテサルピータ方程式を初めて内核遷移に適用した第一原理計算研究など、理論家との共同研究が進んだことは期待以上の成果であった。ケージドATPは、紫外光照射によりATPが切り離されて発生するものであるが、入手が容易なNPEケージドATPの場合のATP発生は、光吸収に伴う超高速一次明反応と比較的遅い二次暗反応によりおこるため、生物発光反応の光トリガとしては時間分解能が悪いことが解り、新たな系を探す必要が出てきた。これらの点を除き、研究は計画に沿った形で順調に進んだ。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、さらに多くの遺伝子工学・生物工学試料に対して実験を進めるため、ウミホタル系試料、オワンクラゲ系試料開発の国内グループ、ホタル系試料開発の国内およびブラジル・ドバイなど国外のグループと共同研究打合せを、H26年度に行い実験準備を開始した。これらを実行し、人工的に準備した系統的な一連の生物系試料群に対して、光物性物理学・先端的分光学流の学理や定量的計測手法を適用し、ホタル生物発光の高効率性と発光色制御の物理機構の解明に役立てたい。
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Research Products
(23 results)