2014 Fiscal Year Research-status Report
バレンススキップイオンを含む物質における電荷近藤効果と超伝導発現機構の微視的解明
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26610102
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
椋田 秀和 大阪大学, 基礎工学研究科, 准教授 (90323633)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 超伝導 |
Outline of Annual Research Achievements |
Pb1-xTlxTe系においてx>0.003で超伝導(Tc~1K程度)が発現するが、その常伝導状態では近藤効果に似た電気抵抗の上昇が超伝導の発現するドープ量において観測されため、Tlイオンのバレンススキップ現象に由来する電荷近藤効果およびそれらの縮退が関連した新しい超伝導機構の可能性が提唱されている。その起源を明らかにする目的で、TeサイトのNMR実験によるKnight shiftおよび核スピン緩和率(1/T1)測定を行った。まず実験を行ったx=0.006多結晶粉末では通常金属で見られるコリンハの関係が見られ、とくに低温での電子状態に異常は見られなかった。しかし、実際に近藤効果的な振る舞いが見られている単結晶試料(x=0.01)では、核スピン緩和時間の空間分布が著しく大きいことがわかった。より詳細を調べていくと、ブロードなTe-NMRスペクトルの高周波側では、緩和時間(T1)がとても短く、低周波側では比較的長いことを突き止めることができた。つまり、Teの局所電子状態が試料全体では一様でなく、おそらく、わずかにドープされたTlに近いところのTeサイトは緩和時間が短く、比較的遠いところのTeサイトの間では長いということを示唆している。今のところ原因は不明であるが、Tlがバレンススキップイオンであることを考えると、1価と3価状態が縮退して揺らいでいることによる何らかの揺らぎがTl近傍で局所的に起こっていることと関連している可能性がある。特に、良質な単結晶でそのような傾向が顕著に見られることは驚きであり、電気抵抗の上昇の原因を今後ドープ量の異なる単結晶試料において比較しながらミクロな視点から突き詰めていく。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度予定していた、x=0.006多結晶粉末および単結晶試料(x=0.01)のTeサイトのNMR実験を実行できた。その中で、想像しなかった新たな困難な点として、単結晶試料の核スピン回復曲線は非常にきれいに測定でき、精度よくT1を決定できているにもかかわらず、重要な低温での1/T1Tのデータにばらつきが見られることが浮上した。この原因の特定には少し手こずったが、そのような困難な状況で測定精度を上げるため、単結晶を粗く砕いて信号強度を増し、精度よい測定でやり直したところ、特筆すべき大きな違いとして、抵抗上昇が観測されているx=0.01の単結晶試料では、x=0.006の多結晶に比べ1/T1Tの絶対値が劇的に大きいことがわかった。僅かなドープ量の違いがこれほどの変化を生むことは驚きであった。このように予想外なことが起こったが、測定において注意すべきことが明確になり、逆にこの物質の特徴がわかったことは大きな進展であった。
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Strategy for Future Research Activity |
現在は、Tlドープによる電子状態とその変化をミクロスコピックに追究するため、スペクトルの共鳴位置と緩和時間の関係についてさらに詳細を詰めていく実験を続けている。今後、超伝導を示さない単結晶試料では、それがどのように見えるのか、比較をしながら違いを観察したい。これらの局所状態の分布は今回のNMR実験で初めて明らかになったことであり、バレンススキップ元素が電子状態において何らかの影響を与えているミクロスコピックな証拠になると期待される。
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