2014 Fiscal Year Research-status Report
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26610111
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
中島 千尋 東北大学, 原子分子材料科学高等研究機構, 助教 (40599122)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 統計物理学 / 素因数分解 / 相転移 / モンテカルロ法 / 計算量理論 / スピングラス |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、計算機科学の分野で『難しい』(解くための計算量がかさむ) とされる素因数分解の問題を統計力学の模型として定式化し、問題の平均的な計算困難さの度合いの評価および難しさの起源をエネルギー地形の特徴の観点から説明することを目的としている。 大きな2つの素数からなる合成数に対象を絞りつつ、多数の合成数における解探索過程の平均的な振る舞いを調べた。レプリカ交換モンテカルロ法による解探索を行うときの状態空間のサンプリングのされ方を調べ、シミュレーション温度の変化にともなって、状態空間内におけるサンプリングされる領域の劇的な変化が2度にわたって起こることを見出した。これはNP完全問題や巡回セールスマン問題に対応する統計力学模型には見られないタイプの振る舞いである。 またモンテカルロ法と多ヒストグラム最重法を併用した数値計算により、サンプリングされる領域の変化の詳細を熱力学量と状態密度の両面から調べ、正しい因数の状態が支配的になるまでに、広いレンジのシミュレーション温度にわたって剰余1の状態のみが支配的になる領域があることなどを明らかにした。 この報告を論文Statistical Mechanical models of the integer factorization problemとしてまとめ、Physical Review E誌のrapid communication投稿中である。現在、上記の2度の劇的な変化が相転移であるか、特に低温での変化が熱力学相転移に対応するかの調査を行っている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
初年度の計画は、多くの合成数に対して物理量や状態空間サンプリングの様子を網羅的に調べ、その平均的な振る舞いを明らかにすることだった。この点を順調に達成し、結果を論文にまとめて投稿した。論文の掲載決定にはまだ至っていないが、その一方で、次年度からの研究計画に含まれる量子アニーリングに対する振る舞いを調べるためのプログラム等の準備を済ませることができた。そのため、総合的にはおおむね順調に進んでいると判断する。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度は、レプリカ法やスピングラスの研究に基づく相転移と平均計算量の関係の知見を用いて、H26年度に得られた状態空間サンプリングの特徴的な変化と素因数分解の計算困難さの関係を明らかにする。
またそれと並行して、用意したプログラムを用いて素因数分解問題の量子アニーリングをシミュレートし、その振る舞いを調べる。特に古典で見られたサンプリング領域の変化に対応する特徴的な振る舞いを見出すことに注力する。
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Causes of Carryover |
計算機(Apple社製 MacPro 3.5GHz 6Coreモデル)の購入を予定していたが、発注したところ製品の在庫が無く、納期が間に合わないと判断したため年度内の購入を断念した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
新年度に同じ型の計算機をあらためて発注する予定である。
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Research Products
(4 results)