2014 Fiscal Year Research-status Report
車輪駆動により粉体層内に誘起される応力鎖構造とテラメカニクスの基礎物理
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26610113
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Research Institution | Nagoya University |
Principal Investigator |
桂木 洋光 名古屋大学, 環境学研究科, 准教授 (30346853)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 光弾性 / 粉体 / 締め固め |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は本研究の基礎となる光弾性円盤を用いた粉体層についての実験技術の確立と,その締め固め現象への応用に集中した.大小二種類の直径を持つ光弾性円盤を2次元的にランダムに配置し,それを垂直に立てることにより自重のかかった2次元的粉体層を作成した.この2次元粉体層に手動タッピングや加振器により制御されたタッピングを加え,締め固めが起こる様子を光弾性効果を用いて定量化した.まずは,光弾性効果により各円盤に生じるフリンジ(縞)パターンを接点力に読み替えるために必要なキャリブレーションを1次元鉛直鎖構造を用いることにより行った.続いて,2次元粉体層において充填率を計測する画像解析手法を確立し,タッピングにより充填率が増加し締め固めが確かに起こっていることを確認した.締め固めが起こっている2次元粉体層内部でどのような応力分布が実現されているかを計測するために,光弾性効果の解析により定量化された応力鎖構造をセグメント(分枝)に分解し,セグメントの長さ分布や光弾性円盤1個当たりに加わっている力の分布を調べた.その結果いずれの分布も指数関数的分布に従うことが分かり,先行研究と調和的結果を得た.さらに,締め固めが進行するにつれて光弾性円盤1個当たりに加わる力の平均は上昇するが,セグメント長さの分布はほぼ変化しないことが分かった.これは,締め固めにより粉体層が強化されるのは主に既存の応力鎖の強化に起因しており,新たな応力鎖構造が作られることによる寄与は小さいことを意味している.また,内部応力は締め固めが進むにつれて増大するが,その効果が特に粉体層の比較的深い部分で顕著となることも実験により新たに分かった.これらの知見は,粉体層締め固め現象に特有の物理の詳細を明らかにする新たな知見である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度研究で実施した項目は,年度当初に提出した平成26年度の研究実施計画に則ったものであり,おおむね計画通りに研究を実施できた.とくに実験系の構築とキャリブレーションについては様々な計測手法等について系統的に行い,光弾性を用いた実験におけるコアとなる技術要素をしっかりと確立することが出来た.この点については応力成分の分解やキャリブレーション手法など当初研究計画時点の予想を越えて進展した部分もある.一方で,締め固めの物理の理解については,実験を実施することにより多くのデータを取得するには至ったが,その物理的解釈はまだ十分に進んでいない面もあり,その点は計画より少し遅れているかもしれない.しかし,これは実験の実施により次々と予想以上の新たな知見が得られたことに起因しており,本研究のトピックが当初の予想以上に豊かな物理を含んでいることを示している.例えば,粉体層内部の平均的内部応力構造が連続体で見られる静水圧構造とは異なる性質を示すことが本実験で明らかと成ったが,それは従来用いられたモデル(ヤンセン効果)で簡単に説明することは不可能であり,その説明にはより詳細な解析が必要となる.その他にもいつくかの点で新たな知見の発見があったが,その詳細の解明には来年度の研究で取り組みたいと考えている.以上のように当初目標に比べて進展を見せている部分と新たな展開を見せている部分があったが,当初の目的として挙げた光弾性実験技術の確立は十分に達成することができたので,おおむね順調に進展していると判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
本年度実施した基礎実験により,光弾性円盤を使った粉体実験の技術的要素の習得は十分達成できた.また,タッピングによる締め固めに関するデータ取得もおおむね順調に実施できた.ただし,実験を実施していく中で,当初想定した以上に多くの不思議なデータや新規現象が新たに見つかっており,その解釈は十分に進められていない.当初計画では来年度は車輪駆動により誘起される粉体層内部の応力構造について取り組む予定であったが,その前に,これらの新たに発見された現象等の理解を行うことが必要であると考えるに至った.車輪駆動のようにトルクをかける系では力の境界条件がより複雑になるので結果も複雑となることが予想される.しかし本研究によりそのような複雑な系でなくとも締め固めのような極めて単純な系でさえ,その物理の理解が不十分であることが浮き彫りになったといえる.物理としては拙速に複雑な系に進むより単純な系の理解をしっかりと積み重ねることが重要である.そのため,よりシンプルな系に注力するのが良いと判断し,来年度は特に締め固めから派生した系の応力鎖の構造の詳細について更に詳細の物理理解を進めたいと考えている.具体的には以下の項目の詳細研究を進める予定としている.(i)従来の(ヤンセン)モデルで説明の難しい粉体層内部応力構造の理解,(ii)応力鎖構造の締め固めによる変化の定量化,(ii)粒子分散度と結晶的秩序構造の応力鎖による定量化.いずれの項目も本年度に確立した光弾性効果を用いた2次元粉体層の特徴付けの実験技術を用いて実現可能なものであり,得られる成果も粉体物理にとって重要なものと言える.
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Causes of Carryover |
実験に必要な機材の一部を共同研究等により調達が可能であったことで経費に余裕が発生したが,研究の進行状況から次年度の研究遂行に多くの経費がかかることが予想されたので,所属大学内や近隣地域での学会・研究会へ主として参加し,無理して予算を執行することはしなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
来年度は,機械的振動印加系における締め固め実験の新規実施と詳細解析に注力する予定としているので,そのための実験装置開発に経費が必要となり,前年度余剰分はそれに充てる予定としている.また,現時点で当初予定より基礎的で普遍性が高いと考えられる成果を多数得られており,結果を複数の論文としてまとめる準備も行っている.海外の国際学会での発表も予定しており,発表等にかかる経費は当初予定より多くなると考えられる.そのため.予算の許す限りで学会や論文等による対外発表も積極的に行う.
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