2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26610114
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
阪上 雅昭 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 教授 (70202083)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 群れ / 定常状態 / 平均トーラス / 状態変化 / オプティカルフロー / 情報伝達 / 整列相互作用 / 渋滞 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では”群れの科学”を創るための端緒として魚群のダイナミクスを定量的に理解することを目的とする.そのため,動画解析と魚群モデルのシミュレーションという2つの定量的な研究手法を確立することを目指した. (1)トーラス形状の定量的研究と平均トーラスの存在 本申請で購入した水中カメラを用いて九十九島水族館において高画質あるいは高速度でのイワシ群れの水槽底からの動画を撮影した.イワシの数密度が高く重なりが頻繁に起こるので個体追跡は難しい.そこでOptical Flow という手法で速度場の測定する手法を開発した.とくにトーラス形状に注目し,その中心からの距離と回転速度の関係である回転曲線の計測を行った.トーラスは大きなゆらぎをもち絶えず変形するため,回転曲線も時間変化するが,60秒程度の時間で平均すると傾きがほぼ一定の直線になることがわかった.これを平均トーラスとよぶ.また60秒という時間が各個体がトーラスを一周する時間(動的時間とよぶ)であることも興味深い.さらに速度相関もこの動的時間スケールで収斂することが示された.絶え間なく大きくゆらいでいるが,動的時間で平均すると普遍的な構造が現れるという生物集団(イワシ群れ)に対する重要な知見が得られたと評価している. (2)魚群モデル提案とそのシミュレーション 上のように大きなゆらぎをもつにも拘わらず,平均トーラスのような普遍的構造が出現することを説明するための群れのモデルを検討した.整列相互作用,とくにその前後非対称性が重要と考えて数値シミュレーションを実施している.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本申請は”群の科学”という分野を創るための端緒としてイワシ群れに注目して生物集団の性質やダイナミクスを研究する手法を確立していくことを目的としている.対象を水族館のイワシ群れに限定しているという問題はあるが,動画の撮影とその解析に関しては手法がかなり整備されてきているので,上のような達成度と評価している. まずイワシ群れの動画撮影については,水槽底からの撮影が非常に有効であることが示されてきた.また水族館の水槽に私たちが潜水してカメラを設置することが許可されているので,目的に応じたセッティングが可能になっている. これにより得られる良質で大量の動画データを効率よく解析するための手法であるオプティカルフローによる速度場の推定も,その妥当性が検証され手法として確立されてきている.個体識別は出来ていないので魚の位置情報はあいまいである,3D動画ではないので縦方向の情報が欠落しているなど改善すべき点は多いが,水族館での魚群については,これまでには決して得られなかった力学的な情報が長時間にわたって取得可能になっている.またゆらぎは時間変化の激しい魚群の状態を平均トーラスという概念で特徴づけるなど群のダイナミクスを理解する概念も整理されてきている. このようは現状の判断から本研究の達成度を上のように判断した.
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Strategy for Future Research Activity |
(1)平均トーラスの回転曲線の示す普遍性の解釈 各個体が一回転する動的時間スケールで回転曲線に普遍的性質が出現することは非常に興味深い.群の中の各個体の運動を記述するミクロなレベルでこの普遍性を理解することを試みる. (2)前後非対称は整列相互作用によるイワシ群れの進化 イワシ群れのトーラス形状の特徴として,ゆらぎは大きく常にその形を変えているが,外部からの大きな擾乱などにたいしてもトーラス形状は保ち続ける.このロバストな安定性と整列相互作用とくにその前後非対称性との関連を明らかにしていく. (2)少数個体の追跡 オプティカルフローにより群の速度場の信頼できる情報が得られるようになった.しかし,各個体の群の中での位置とその変化も群の研究では重要な情報である.その第一段階として,小数個体にしぼり長時間にわたり個体追跡をする解析手法を解析する. (3)3D撮影とその解析 縦方向(深さ方向)の位置や速度の情報を得るためには3D撮影を行う必要がある.そのためのカメラと解析手法の開発を行う.
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