2014 Fiscal Year Research-status Report
アリにおける集団運動モードと集団機能の自律的発生機構の解明
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26610117
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Research Institution | Hiroshima University |
Principal Investigator |
西森 拓 広島大学, 理学(系)研究科(研究院), 教授 (50237749)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
秋野 順治 京都工芸繊維大学, 生物資源フィールド科学教育研究センター, 教授 (40414875)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 自己組織化 / 社会性昆虫 / 群れのダイナミクス / 集団運動 |
Outline of Annual Research Achievements |
代表者はこれまでアリの採餌行動の数理模型を構成し、アリ集団の中に極端にフェロモンへの走性が弱く化学走性に基づく採餌行動で間違いを生じるような「強鈍感アリ」を正常アリ集団中に一定数混ぜることで、 集団としての採餌効率が増加することを示して来た。本年度の研究では、さらに「鈍感アリ」 の混入のさせ方について、(上記のように)極端な「強鈍感アリ」を正常アリ集団の一部に混入させ る「2極集団」のみが常に最適でなく、給餌環境を系統的に変化させることで、中間度 の化学走性を持つ「弱鈍感アリ」のみで構成された「一様弱鈍感集団」が最適集団となる 場合も生じることを明らかにし、国際会議(AROB 20)で発表し、会議録にも採録された。並行して、代表者と分担者は、上記数理模型を構築する際に用いたアリの走行に関する基本ルールの一つ---時々刻々の進行方向の決定に関しての化学情報(フェロモン)優と視覚情報の優先度の切り替え---についての実験的な検証結果を欧文著書の一章として執筆した。 これらは、アリ集団のダイナミクスと採餌という機能を関連させる問題に,「ゆらぎ」という概念を付加し、さらに、集団における「ゆらぎ のあり方」の問題を考察することにあたる。アリが「社会的昆虫」の代表例として種々の 複雑な機能を発現する際、リーダー無しの自発的・可塑的な役割分担が重要であるという 観点の研究は近年多くなされてきたが、アリの集団採餌において、有効な「ゆらぎのあり方」、いいかえれば、集団内の「ゆらぎに関する役割分担」が論じられたことは、申請者が知る限り過去になかった。その一点においても、本研究の意義は大きい。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
アリ集団の採餌行動におけるゆらぎの利用(集団内にフェロモン感受性の鈍感なアリを混入することの効用)について、数理模型によって集団のダイナミクスを表現し、その数値計算と理論解析を通じて、アリ集団における「ゆらぎの役割」の説明をすることに成功した。さらに国際会議と会議録を通じて海外に発信したことを、順調な研究の進展と考えた。また、上記模型を構築する際に用いた、アリの走行に関する基本ルールの一つ--走行方向の決定に関しての化学情報(フェロモン)優先と視覚情報優先の切り替え--についての実験的な検証結果を欧文著書の一章として執筆したことも、一定の研究の進展と見なした。一方で、アリの集団行動の実証研究はまだ十分でなく、27年度から、アリに微小チップを貼付け、個体行動を自動計測し長期間データを継続的に蓄積する技術を導入し、定量的な考察を行う計画である。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、次の2つの内容を中心として今後の研究を推進する。
1.アリの社会行動の自動計測システムの構築: アリの行動の 定量的分析実験を本格的に始める。具体的には、長時間一定環境下で少数系のビデオ撮影 を行い、画像解析と組み合わせ行動記録をデジタル化し行動様式を同定する。 また、代表の西森と分担者の秋野が技術協力関係を結んだ民間企業で開発中の世界最小レベル(一辺0.5mm)微小RFIDチップ(普通サイズのものは、カード型定期券などに組み込まれている)と、情報の読み取りアンテナ、PCを連動させることで、大量のアリの個別行動履歴を追跡しデータ化できる個別自動計測システムを新たに構築する。RFIDチップやアンテナなどは企業側の開発となるが、アリの行動に合致した様々な実験プロトコルの設計、個別のアリへのチップ貼付、計測ソフトの開発や最適化など、多くの技術的課題を克服する必要がある。並行して、我々が現時点で保有する、明視・暗視の動画記録・画像解析技術を現時点より進化させ、その後、全体を総合して、アリの役割分化の実験・自動測定システムを組み上げ,アリの組織行動研究に関する実データ収集の手法に、大きなな進化をもたらす。
2:生きていない自己駆動要素の集団運動の解析と生き物の群れとの比較: 生物の群れ行動の特徴の中には、全体として一見非常に複雑に見えても、比較的単純な運動機構しか持たない要素の集団により再現できるものがある。我々は、水に浮かべた樟脳粒などの自己駆動粒子系を使って、単体では発生しないが、群れになることで初めて励起される間欠運動や、場への過去の運動状態の埋め込みなどに成功している。今回の研究では、生きていない単純な要素からなる系で、生きている動物の複雑なダイナミクスをどこまで模倣できるかを検証する。
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Causes of Carryover |
下の仕様計画に具体的に記すように、研究の進展の状況を考慮し、比較的大きい予算のかかる実験的検証を中心とした研究を27年度に移動したため、次年度使用額を増額した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
今後の研究の推進方策の欄に記したように、RFIDチップをとセンサーを使ったアリの個別行動の自動計測システムを世界に先駆けて構築する。システム構築の際、高額(一台約10万円)のセンサーを一つでも多く使用するために、センサーの購入費に繰り越し費用の多くを充当していく計画である。
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Research Products
(9 results)