2014 Fiscal Year Research-status Report
アンチドット型光格子中のボース凝縮体による量子乱流の生成
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26610125
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
木下 俊哉 京都大学, 人間・環境学研究科(研究院), 准教授 (80452259)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 動的不安定性 / ボース・アインシュタイン凝縮 / アンチドット型光格子 / 超流動 / 量子渦 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究では、アンチドット光格子系全体を高速で振動させて、ボース凝縮体をシェイクし、量子渦による超流動の崩壊・散逸を観測、量子乱流の生成を試みることを当初の目的としていた。これまでに臨界速度は観測されていたが、量子渦の観測には至っておらず、散逸の機構の詳細は未解明であった。 H26年度は、まず光格子系をより高速かつ大振幅で振動できるよう改良した。これにより、振動の速度領域も拡大し、振動中やその直後の光格子形状のゆがみも極めて小さく抑えられ、より安定して散逸の観測が可能となった。さらに、振動回数も1回あるいはそれ以下にまで減らすことができたので、振動直後に全トラップを切って原子波干渉パターンを観測し、散逸の開始を運動量分布というより直接的な物理量で観測することが可能となった。 この手法で実験を行ったところ、光格子の高さが低い場合には、反跳速度のおよそ半分を超えたあたりで、干渉パターンのうち振動方向にある第1ピーク強度が急激に増大した。これは、動く格子に対してフリクションが生じ、格子間隔と同じ空間周期の密度分布が生じたためであり、散逸の開始を示している。次に、光格子の高さを上げて同様の実験をすると、臨界速度は下がり始め、原子波干渉の第1ピーク強度は変化せず、代わりに0次スポットの周りにインコヒーレントな運動量成分が生じ始めた。格子をさらに高くしても本質的に同じ現象が生じるが、振動速度を上げると、両方の効果が同時に現れ複雑な様相を呈する。1次元光格子の実験・理論の先行研究の結果と比較して考えると、障壁の高さが低い領域では動的不安定性によって、高い領域ではエネルギー不安定性(おそらくフォノンの生成)によって散逸が始まる様子が、クリーンに観測できたのではないかと考えている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
量子渦や量子乱流を生成することが本来の目的であるが、単にアンチドット型光格子を高速振動させるのみでは、散逸はおこるものの、量子渦生成には至らない可能性が高い。しかし、アンチドット型格子内で量子渦が生成されうることを示す実験結果は得ている。エネルギー極小が多重連結したアンチドット内では、一見すると原子の局在は起こらないように見えるが、ドットの障壁を反跳エネルギーの350倍程度まで高くすると、極小線の交点付近に局在が起こる。局在の直前では、各交点付近にほぼ局在したボース凝縮体間が互いにわずかにカップルした状態を作り、各凝縮体間に大きな位相揺らぎが誘起されうる。実際、揺らぎ方によっては、局所的に複数の渦がある確率で生成されていることを示す原子気体のイメージも得ている。この量子渦生成の機構の詳細は未解明であるが、原子が入り込めないドット領域があって位相の欠陥を生じさせやすい格子構造であること、さらに何らかの原因で気体がかき乱されたことが深く関与していると考えている。このことから、例えばアンチドットを直線的に振動させるのではなく、格子内で気体自体を回転させる、あるいは気体の回転と格子の振動を組み合わせることを考えている。 量子乱流生成を目指すには、方針の変更が必要であるが、動的不安定性やエネルギー不安定性による散逸を観測できたことの意義は大きく、今後も興味深い新たな展開が期待できる。
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Strategy for Future Research Activity |
交差型双極子トラップの底の位置は、わずかではあるが存在する磁場勾配によるアンチトラップとのバランスによって決まるので、2次元面内に加えている磁場を時間変化させることにより底の位置を面内で回転させることができる。量子渦や乱流の生成に向けては、この方法によって原子気体に回転を加えることを試し、量子渦の生成が可能であるか、生成に最適な状況を探索する。あるいは系そのものを2次元化させると、温度領域によってはコスタリッツ・サウレス相に入り量子渦が自動的に生成される。最初から量子渦を作っておき、その後光格子を導入する方法なども新たに行いたい。 動的不安定性やエネルギー不安定性による散逸についても、その詳細な機構を解明する計画である。そのためにまず、有限温度領域で測定を行う。先行研究によれば、エネルギー不安性による散逸には、ボース凝縮していない熱的原子気体が必要であるとされている。我々の実験はほぼ絶対零度で行われており、機構が異なる可能性もあるので、有限温度の効果は検証すべきである。散逸には、障壁の高さと温度のほかに、原子数密度(相互作用の強さ)も関与するので、これらを制御よく変えながら散逸機構の詳細を解明する予定である。一方、これらの研究には、理論面からのサポートも必要となる。通常の1次元光格子系に対しては散逸に関する数値計算が行われているものの、アンチドット型格子での理論計算はない。国内外の理論グループとの共同研究も進めたいと考えている
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