2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26610138
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
桜庭 中 東京大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (50345261)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 境界要素法 / 波動伝搬 / 流体実験 / 自励振動 |
Outline of Annual Research Achievements |
弾性媒質中に埋め込まれたシート状の流路を粘性流体が流れるときに発生する振動を計測するための予備実験をおこなった。アクリル水槽にジェランガムの溶液を流し込み、水平方向に 45 cm 四方、深さ 20 cm のゲルの層を作成した。この中央部に、厚さ 4 mm で幅 100 mm の板状の流路を鉛直に作り、下から上へプルラン溶液(粘度 170 mPa s)を流した。不安定を起こすのに必要と見積もった数 cm/s 程度の流れをつくり、ゲル媒質の光弾性を利用して流路の変形のようすを水槽の横から光学的に観察しようとしたが、期待される振動は見出されなかった。このような予備実験を3回おこなった。 不安定を起こすのに必要な流速は、無限に広がる板状の流路に対する線形理論に基づいたものであったが、有限の大きさの流路に対して正確な値を与えるかどうかはわからなかった。そこで、断面が有限で、流れ方向には無限に長い流路に対して同様の線形計算をおこなった。流体運動に対してはストークス近似(低レイノルズ数で慣性項が無視できるという近似)を適用し、境界要素法をもちいて離散方程式を得た。計算コードを作成し、過去の類似研究(たとえば無限に長い流体楕円柱に沿って伝わる表面波の分散関係)を再現することを確認した。いくつかのパラメータに対する計算の結果、たとえば断面が楕円の場合、波長が楕円長径にくらべて小さければ、以前の線形理論が適用できて、臨界流速が波長に反比例するが、波長が長くなって楕円長径に近くなると、不安定が生じなくなることがわかった。したがって、波長(流れ方向の流路の長さ)を長くとればいくらでも低い流速で不安定が起こる、という単純な考えが成り立たないことがわかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
理論予想のもとにおこなった予備実験がうまくいかなかった。その原因を明らかにする目的で、これまでの理論計算をやり直し、あらたに境界要素法による数値計算をおこなった結果、臨界流速の見積が甘かったことがわかった。当初の予定では、2014年度中に室内実験を成功させ、さまざまなパラメータで、臨界流速や発生する振動のスペクトルを計測することとしていたが、それができなかった点で、達成度は低い。しかしながら、予備実験の失敗の原因をあきらかにするためにおこなった数値計算は成功し、現在その結果をまとめているところであり、その点では、本来次年度におこなう予定であった数値計算に基づく研究を先取りしたものと言える。全体として見れば、まだ実験装置の構築が予備段階に留まっていることから、やや計画よりも遅れていると判断する。
|
Strategy for Future Research Activity |
2014年度の研究は、流路の厚さや幅を適切に設計すれば、期待される自励振動が起こりうることを示唆している。そこで今回得られた線形計算の結果をもちいて、流路の大きさやゲル媒質の剛性等を調整し、また安定に流れを維持するための電動ポンプを導入して、実験を再開する。実験によって変えられるさまざまなパラメータを検討・試行し、振動の発現をとらえることが目標である。とくに流量を広いレンジで変え、さらに脈動のない安定な流れを作り出すために、より高性能のポンプを導入する。 申請当初の予定では、2015年度では、実際の火山下のダイクに似た、より現実的な形態をもった流路を粘性流体が流れる際の自励振動を、非線形フェーズでのふるまいも含めて数値シミュレーションで再現することとしていたが、実験が遅れているため、その実現可能性は低い。しかしながら、すでに2014年度で、断面が楕円形等の任意の形状の流路の振動に関する線形計算を実行しており、その結果をまとめることで、理論面での研究は補完されるものと考える。
|
Causes of Carryover |
予備実験が予定通り成功することを見越して、本実験で必要となるポンプや計測機器の購入のための前倒し請求をおこなったものの、実験が失敗した。その後、失敗の原因を知るために、理論計算をやり直し、当初想定していた流速では不安定が起こらないことがわかった。計算のやり直しに時間を要し、年度中に本実験を再開することができなかった。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
前年度導入予定であったポンプを購入する。流量を広いレンジで変え、また安定して脈動のない流れをつくりだすために、当初想定したよりも、より高性能のポンプを購入する。さらに振動を計測する機器として、レーザー変位計がうまく使えることがわかれば、それを購入する。
|