2014 Fiscal Year Research-status Report
対流するマントルと外核を一つの系として扱う新しい数値シミュレーションモデルの開発
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26610144
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Research Institution | Japan Agency for Marine-Earth Science and Technology |
Principal Investigator |
吉田 晶樹 独立行政法人海洋研究開発機構, 地球深部ダイナミクス研究分野, 主任研究員 (00371716)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | マントル / コア / 外核 / 熱対流 / 二層対流 / 数値シミュレーション / 粘性率 / 熱膨張係数 |
Outline of Annual Research Achievements |
マントルと外核の熱対流運動システムを、粘性率が異なる二層対流システムとして扱うことが可能な新しい数値シミュレーションプログラムの開発を実施し、完了した。 数値モデルは、二次元極座標モデルとし、高粘性のマントル領域(厚さ2891 km)と低粘性の外核領域(厚さ2259 km)に分けた。数値モデルの計算解像度(格子間隔)は、動経方向には最小約3 kmとし、水平方向も同程度とした。外核領域はマントル領域よりも格子間隔を細かくした。地表面と内核・外核境界(ICB)の境界条件は、力学的には不透過、自由滑りとし、熱的には固定温度とした。 マントルと外核の密度差は、実際の地球における密度差を与えた。マントルの基準粘性率は実際の地球のマントルの粘性率(η_m=10**22 Pa s)を固定して与え、外核の粘性率(η_c)、つまり、外核とマントルとの粘性率比(Δη_c=η_c/η_m)を自由パラメーターとして扱った。二層対流システムを実現するため、運動方程式の浮力項に、マントルの相変化の計算で用いられる有効熱膨張係数を考慮した。クラペイロン勾配は、完全な二層対流になる-50 MPa/K以上を与えた。 プログラムの開発が完了した後、予備シミュレーションを実施した。予備シミュレーションでは、Δη_cを10**{-1}、10**{-2}、10**{-3}、10**{-4}、…、というように1桁ずつ下げていき、数値的な安定性が維持できるΔη_cの下限値を調査した。その結果、実用的な計算時間の範囲内で計算可能なΔη_cは10**{-3}であることが分かった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度に開発した数値モデルは二次元極座標モデルとし、高粘性のマントル領域と低粘性の外核領域に分けた。当初は余力があれば三次元球殻モデルへの拡張も視野に入れていたが、二次元極座標モデルでマントルと外核のカップリングを考えることは第一近似として妥当であるという結論に至った。なぜなら、実際の地球では、これまでのダイナモシミュレーションで示されているように、粘性率が極めて小さい外核では、コリオリ力が効くため柱状の流れが卓越し、その場合、二次元極座標モデルは地球の赤道断面の対流運動をシミュレートしていると考えてよいからである。 本研究では、CMBに人為的な境界条件を課さず、マントルと外核を粘性率の異なる二層対流システムとして扱うことが可能な新しい数値シミュレーションプログラムを開発した。相変化を伴うマントル対流計算を行うときに使われる“相関数”(密度の異なる相における浮力差を与える関数)を使用し、非常に大きな負のクラペイロン勾配を与えることで、完全な二層対流系を実現することに成功したことは、本研究の実現可能性を大いに高める結果となった。 粘性率が大きく異なる二層対流の数値シミュレーションを行った研究例はこれまでになく、チャレンジングな研究と考えていたが、本研究で開発したモデルで最も懸念されていた数値計算の安定性を克服し、また、実用的な計算時間の範囲内で計算が可能なパラメーターを決定できたことは大きな収穫であった。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度では、①マントル対流が非定常な場合における外核内の対流の振る舞い、②CMBでの熱的・力学的カップリングの程度、③地表面、CMB、ICBにおける熱流量の時間変化の相関関係-の三点を特に詳細に調査する。 ①については、外核内の温度は外核全体でほぼ一様になるのか、それとも、ICBとCMBのそれぞれから細かい上昇プルームと下降プルームが発生し、積極的な熱循環が行われるのかどうか確認する。また、もし、外核内の対流が一層と二層を繰り返すような現象が確認されれば、それは、マントルと外核の二層対流システム特有の物理現象、つまり、CMBを介した熱・物質交換の影響なのか、それとも、外核の粘性率が極端に小さい(つまり、レイリー数が極端に高い)場合の特有の物理現象なのかを調べる。 ②については、マントルと外核の各深さの水平方向の温度異常(つまり、各深さの平均温度からのずれ)の時間変化を解析し、CMB近傍でどの程度の熱的交換が行われているかを調べる。また、計算で得られた速度場から、マントルと外核の各深さでの鉛直応力と水平応力の時間変化を解析し、CMBを挟んだマントル側と外核側での応力のカップル・デカップルの程度について調べる。 ③については、地表面、CMB、ICBの各境界における熱流量の時間変化の相関関係を見ることで、マントル対流が非定常で複雑な振る舞いをする場合に、外核の対流の振る舞いがマントル対流の変動にどう追随するのかを定量的に評価する。例えば、一定の時間周期を持つ物理現象が外核で観察されれば、世界中で実施されているダイナモ数値シミュレーションの結果と併せて、地球磁場の変動や地球表層環境の変動との関係に関する考察を行う。
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