2015 Fiscal Year Research-status Report
分子生物学と構造解析の融合によるロドプシンの究極の長波長化への挑戦
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26620005
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Research Institution | Nagoya Institute of Technology |
Principal Investigator |
井上 圭一 名古屋工業大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (90467001)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ロドプシン / 赤外分光 / 光遺伝学 |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度は本研究で作製した、最も長波長に吸収を持つロドプシン(GR NDQ λ = 607 nm)を含む成果をJ. Biol. Chem誌に報告した(Inoue et al., J. Biol. Chem. (2016))。さらにこの論文の中では、ロドプシンのレチナール周辺のアミノ酸残基を変異することで、Na+ポンプ型ロドプシンをH+およびCl-ポンプ型ロドプシンに、またCl-ポンプ型ロドプシンをH+ポンプ型ロドプシンへと容易に機能転換できることを示した。この事は本研究で目標とする、長波長吸収型機能性分子の作製に向けて、大きな知見を与える。一方でこれらと逆方向の三種の機能転換(H+→Na+ポンプ、H+→Cl-ポンプ、H+→Na+ポンプ)については、それぞれにより多くのアミノ酸変異を導入しても機能の転換が見られなかった。これら機能転換の成否と、三種類のロドプシンの進化的な関係の相関を見たところ、機能転換が転換されたのは全て進化を逆行する方向のものであり、進化を進める方向の機能転換がとても困難であることが示された。この事は祖先の分子の機能に重要な構造的エッセンスは、そこから派生した分子の中にも保持されており、アミノ酸変異によって容易に過去の機能が呼び起こされるのに対し、自然界において新機能獲得のためにはより多くのアミノ酸変異が必要であること示唆していると考えられる。これらについてはロドプシンの機能決定メカニズムの解明だけでなく、自然界におけるより広範な分子の進化に対する知見を与えるものであると考えられる。 今年度はこれらを含めロドプシン研究についての成果を7報の論文と2報の解説、11件の招待講演などで発表した。また本年度研究代表者の井上は、ロドプシンのメカニズム研究について「第8回分子科学会奨励賞」および「日本化学会平成27年度進歩賞」を受賞し、本研究の注目度の高さが示されている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究で607 nmという極めて長波長に吸収を持つロドプシンの構築には成功したが、そのままでは機能が消失してしまうという問題があった。これに対して、今年度オプトジェネティクスへの応用性を示した(Kato et al., Nature (2015))、Na+ポンプ型ロドプシンについて、新たに10種類以上の細菌の持つ分子をスクリーニングしたところ、従来研究に用いていたKR2よりも25 nm程度長波長に吸収を持ち、さらにイオン輸送活性を持つ分子の同定に成功している。すでに昨年度までに、KR2の変異体について同様の吸収を持つものが見つかっているが、今回新たに発見された分子は自然界における野生型のものとして、この領域に吸収を持ち、より高い安定性を持つことが期待される。 一方今年度は新たにCl-ポンプについて、長波長化を試みたところ、真正細菌型のCl-ポンプ型ロドプシンの持つ特徴であるNTQモチーフを、H+ポンプ型ロドプシン・GRに導入した変異体は567 nmに吸収を持ち、通常のCl-ポンプ型ロドプシンよりも40 nm以上長波長化することに成功した。しかしこの分子についてもまだイオンの輸送活性は見られていないため、更なる変異導入により長波長光でのイオン輸送を実現する。 またこれまでの研究で、我々は数残基のアミノ酸変異によって、Na+→H+、Na+→Cl-、Cl-→H+3つについて、ロドプシンの機能転換が達成されることを実証した。これに対し、それぞれの逆方向の機能転換については、まだ成功していない。そこで今後はこれまで用いていたロドプシンに加え、進化的に異なる位置に存在する分子に新たなものに変異を加えることで、6パターンの全ての組み合わせの機能転換について、達成することを目指す予定であり、現在アミノ酸変異体の遺伝子構築をほぼ完了している。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの研究により、野生型のNa+ポンプで、従来のKR2よりも大幅に長波長の光で駆動するロドプシンを見つけることに成功した。しかしこの新規Na+ポンプ型ロドプシンはイオン輸送能がKR2程高くはないため、フォトサイクルのターンオーバー速度を速くするための変異などを網羅的に探索する。フォトサイクルのターンオーバー速度についてはフラッシュフォトリシス法で容易に決定することができるが、律速過程に関係している中間体について、さらに赤外分光法などを使って、その分子構造を調べることにより、機能向上のための知見が得られると期待される。 また現在アミノ酸変異をもとに吸収波長の長波長化に成功した分子については、輸送機能の実現を目指す。すでにJ. Biol. Chem.誌に発表した機能転換実験により、各機能のロドプシンにどのアミノ酸が重要なのかについては多くの知見が得られている。従って最終年度はこれらの残基を中心に変異を導入することで、長波長吸収能を保持しながら輸送能の実現を目指す。またフラッシュフォトリシス法や赤外分光法を用いることで、機能発現を妨げている反応プロセスを明らかにすることで、より論理的に新たな変異導入法の検討を行う。 そして本研究で我々が新たに達成した、異なる種類のポンプ間での機能転換については、まだ達成が困難である三種の組み合わせ(H+→Na+、H+→Cl-、Cl-→Na+)を含めた、完全な機能転換技術の達成を目指す。このためには従来鋳型として用いたH+ポンプやCl-ポンプについては、進化的距離や変異を導入した際のタンパク質の発現量などに多くの問題があった。そこでゲノム解析により、公的データベースに新規に報告された分子をもとにすることで、これまでできなかった組み合わせの機能転換を達成する。
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Research Products
(62 results)
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[Journal Article] Structural basis for Na+ transport mechanism by a light-driven Na+ pump2015
Author(s)
H. E. Kato, K. Inoue, R. Abe-Yoshizumi, Y. Kato, H. Ono, M. Konno, S. Hososhima, T. Ishizuka, M. R. Hoque, H. Kunitomo, J. Ito, S. Yoshizawa, K. Yamashita, M. Takemoto, T. Nishizawa, R. Taniguchi, K. Kogure, A. D. Maturana, Y. Iino, H. Yawo, R. Ishitani, H. Kandori*, O. Nureki*
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Journal Title
Nature
Volume: 521
Pages: 48-53
DOI
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Presentation] Mechanisms of two different function on KR22015
Author(s)
M. R. Hoque, S. Hososhima, K. Yoshida, T. Ishizuka, K. Inoue, H. Kandori, H. Yawo
Organizer
The 38th Annual Meeting of the Japan Neuroscience Society
Place of Presentation
Kobe Japan
Year and Date
2015-07-28 – 2015-07-31
Int'l Joint Research
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