2015 Fiscal Year Research-status Report
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26620047
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
砂田 祐輔 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70403988)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 金属ナノシート / 環状ケイ素化合物 / 鋳型分子 / 触媒 / 平面状分子 |
Outline of Annual Research Achievements |
ナノサイズのシート状化合物は特異な機能を有することが期待され、基礎から応用まで幅広い研究が行われている。有機化学の分野においては近年、グラフェン等の有機ナノシートの研究において、それらのモデル化合物として見なせる様々な平面状ナノカーボン分子のボトムアップ型合成法が開発され、それらの精密設計に基づく高機能化が飛躍的に展開されている。対照的に含金属ナノシートの科学は、依然として従来法であるトップダウン型合成法に基づく試行錯誤型の研究に留まっており、精密設計性に乏しい不均質な科学となっている。本研究では、最近我々が開発した有機ケイ素部位をリンカーとする金属ナノシート分子の合成法を拡張し、多様な金属ナノシート分子のボトムアップ型自在合成法の確立と、それらの特異な機能開発を行うことを目的としている。 これまでの研究で、複数のSi-Si結合を有する平面状有機ケイ素化合物を金属を集積する鋳型分子として用いて、Si-Si結合への金属種の挿入を利用することで、金属ナノシート分子を合成できることを見出している。また、金属種としては、低配位パラジウム錯体である”Pd(CNR)2”が、最も効果的にSi-Si結合への挿入を起こし、対応する金属ナノシートを与えることがわかっている。そこで今年度は、前年度までに得られているパラジウムナノシート分子を用いて、異なる置換基Rを持つイソシアニド配位子の導入による骨格変換を基軸とする新たなパラジウムナノシート分子の構築への展開を行った。その結果、置換基Rとしてmesityl基などのようなかさ高い芳香環を持つものを用いることでナノシート内の原子配列・骨格変換を誘起することが可能であり、新しいナノシート分子を合成することが可能であることを見出した。また予備的ではあるが、得られたパラジウムナノシート分子の還元触媒としての機能などの触媒活性についての評価も行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
これまでの研究によって、複数のSi-Si結合を持つ有機ケイ素化合物を鋳型分子として用いることで鋳型分子の構造を転写した金属ナノシート分子の合成が可能であることを見出した。さらに、配位子交換という簡便な操作のみで、平面状構造を保ちつつ、ナノシート内の金属配列を変換できることが明らかとなった。配位子交換においては、原子配列のみならず、置換基Rの電子的性質を反映した異なる電子状態を持つナノシート分子を構築することが可能であることから、構造・電子状態を柔軟に制御可能な金属ナノシート分子の自在構築法の確立に向けた研究基盤がほぼ整ったといえる。また一連の研究において、NMRスペクトル等に加え、紫外可視吸収スペクトルによるHOMO-LUMOギャップの評価、単結晶X線構造解析による分子構造解析、さらには理論的アプローチによるナノシート内の特異な構造・電子状態に関する系統的な理解が可能となり、多様な金属ナノシート分子の精密合成と、それらの構造・電子状態・機能の精査を可能にする研究基盤もほぼ確立することができた。以上を勘案すると本研究は、概ね順調に進展しているといえる。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの成果を受けて、今後はまずは合成した一連の金属ナノシート分子の触媒機能の開発を目指す。特にパラジウムナノシート分子は、広い比表面積を持つのに加え、配位不飽和なパラジウム中心から構成されていることから、高い触媒活性を示すことが予想される。そこでまずは最も基本的な触媒反応であるアルケンやアルキンの水素化をプローブとして用いることで触媒活性についての系統的な評価を行う。特に金属核数や金属配列・電子状態と触媒機能との相関について精査し、触媒機能を発現する最適な構造・金属配列・電子状態を持つ金属ナノシートの設計・合成指針を確立する。その後、その他のより高難度な反応開発へと展開し、金属ナノシートに特異な反応の開発を目指す。 これまでの研究においては第10族金属を用いた検討を重点的に行なってきたが、本年度はこれらに加えて、第7~9族金属への展開も併せて検討する。特にMn, Fe, Coなどの第一周期遷移金属を適用することができれば、より高い反応性を示す金属ナノシートへの展開が可能になることが期待されるため、これらの検討も併せて行う。特に鉄を用いた検討としては、最近我々が開発した、低配位鉄イソシアニド活性種”Fe(CNR)3”の発生と利用を基軸として、複数の鉄から構成されたナノシート分子の開発と、アルケンやアルキンなどの触媒的水素化に代表される触媒反応への展開を行い、これらの特異な機能の発現を目指す。
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Causes of Carryover |
本年度は、様々な金属ナノシート分子の合成に基づくライブラリー化とそれらの構造・電子状態評価を主な目的の一つとした研究を行ってきた。当初は様々な配位子を持つ金属前駆体の合成と、これらと有機ケイ素化合物との反応による一連の金属ナノシート分子の構築を想定していたが、研究途上において、これまでに開発した金属ナノシート分子に対し直接的に配位子交換を行うことで、金属配列・電子状態等を変化させることが可能であることを見出した。そのため、金属ナノシート分子のライブラリー化を簡便に行うことが可能となり、必要とする試薬・消耗品等が当初見込みより少ない額で行うことができた。本手法により、様々な構造を持つ金属ナノシート分子の合成を予定通りに行うことができたが、特に今年度前半の実験部分において物品・消耗品費等に余裕ができ、次年度へと繰り越し、次年度の消耗品費として使用し、次年度の実験をより加速することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
これまでの研究において、特に第10族金属を用いた一連の金属ナノシート分子の開発とそれらの構造・基礎物性の評価についての基礎的な知見が概ね固まったことから、次年度はこれらの特異な触媒機能の開発を行う予定である。特にパラジウムから構成される金属ナノシート分子は様々な触媒機能を持つことが期待されることから、これらを高機能性触媒として活用した物質変換法の開発を行う。併せて、紫外可視吸収スペクトルや単結晶X線構造解析による構造・電子状態解析と、得られた結果に基づく触媒機能との相関についても精査する。これらの研究を遂行するにあたって、主に金属錯体前駆体や鋳型となる有機ケイ素化合物、ならびに各種イソシアニド等の配位子合成における試薬等の消耗品、得られた金属ナノシート分子の触媒性能評価を行うための実験用機器や様々なガラス器具等の消耗品の使用を重点的に行う予定である。
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Research Products
(3 results)