2015 Fiscal Year Research-status Report
励起高スピンダイナミックスの時間領域シミュレーションとスピン偏極
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26620071
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Research Institution | Osaka City University |
Principal Investigator |
手木 芳男 大阪市立大学, 大学院理学研究科, 教授 (00180068)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | スピンダイナミックス / スピン偏極 / 量子混合状態 / 時間領域シミュレーション |
Outline of Annual Research Achievements |
研究項目(1)の「実在系の光励起高スピンπラジカルの励起状態ダイナミックスの測定」に関しては、昨年度の知見に基づき、ナフチルイミド-X-フェルダジルラジカル系からアントラセン-X-フェルダジルラジカル系に変更して、実際にXとしてジフェニルアセチレンを用いた系の合成に成功し、その励起状態ダイナミックスを時間分解ESRにより測定した。これまでのアントラセン-安定ラジカル系をは異なり、励起四重項状態に加えて基底状態が励起状態を介してスピン偏極したと思われる信号が観測された。レーザー照射による励起状態の測定前後で通常のESR測定を行ったところ、ラジカル種の分解が同時に起こっていることが判明したので、得られたスピン偏極した基底状態は、本研究の達成目標である励起高スピン状態(あるいは量子混合励起状態)を経由する特異な動的電子分極機構によるものか、化学反応により誘起されたCIDEPによるものかのさらなる検証が必要であるが、前者であるとすると目標達成への重要な知見が得られたことになる。また、アセン類であるペンタセンを挟んでラジカルを2個つけた系の時間分解ESR測定により励起状態を介して基底状態がスピン偏極した信号の観測を試みたが、昨年度に報告したピレン系の場合と異なり信号が観測されなかった。これは、励起状態の失活が速くなりすぎた結果だと推察される。 研究項目(2)の「励起高スピン状態の時間変化解析の方法論の開発」に関して、申請計画どおり平均ハミルトニアン理論を用いた手法に本年度も取り組んだが、昨年度明らかになった問題点である量子混合状態から高スピン状態に連続的に移行できないという問題点は、まだ十分には解決できていない。現在、引き続きこの問題に取り組んでいる。また、計算の効率を上げるため並行してプログラムの並列処理に取り組み、それには一定程度成功した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
(1)励起三重項部位と安定ラジカル部位を離した系の合成に成功し、またその系の低温での時間分解ESR測定で一定程度の知見はえられた。この知見をもとに本研究課題の到達目標の1つである量子混合によるスピン偏極した基底状態の生成が期待できる系として、もう1段階エチニル基を挟んだ系の合成に着手したが、途中の段階で非常に収率が悪く合成に難航している。 (2)申請計画どおり平均ハミルトニアン理論を用いた手法に本年度も取り組んだが、昨年度明らかになった問題点である量子混合状態から高スピン状態に連続的に移行できないという問題点は、まだ十分には解決できていない。現在、引き続きこの問題に取り組んでいる。 (3)学内のHe液化器の故障が復旧したのが予定より大幅に遅れて10月末にずれ込んだ。復旧までは液体窒素フローでの実験が可能なようにシステムを変更したりして、しのいできたが、現有の研究室の液体窒素フローシステムでは、連続実験が可能な時間や到達温度等の問題で十分なデータの集積に遅れが生じている。
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Strategy for Future Research Activity |
研究の遅延理由の(1)に関しては、まずは問題となっている合成経路の収率の向上に取り組む。 研究の遅延理由の(2)に関しては、計算の効率を上げるためのプログラムの並列処理にある程度成功したので、その点では今後は研究の進展速度が加速されると考えられる。この方向で、並列化を併用しながら研究を進める予定である。 研究の遅延理由の(3)に関しては故障前の半分程度の能力ではあるが学内のHe液化器の故障は復旧したので、問題点の(1)が克服できれば、この点の問題は何とかクリアできる予想である。
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Causes of Carryover |
学内のHe液化器の故障が復旧したのが予定より大幅に遅れて10月末にずれ込んだ。復旧までは液体窒素フローでの実験が可能なようにシステムを変更したりして、しのいできた。クライオスタットや真空系、He回収ラインのテストを終了して順調に低温実験が可能になったのは、1月からであり、そのために当初より実験が遅れ気味であり、寒材として予定していた分を次年度十分な実験が可能になるように繰り越した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
ラジカル系の合成と、遅れを取り戻すための低温実験に使用する予定である。
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Research Products
(2 results)