2014 Fiscal Year Research-status Report
不活性sp3炭素-水素結合の選択的切断と結合生成の為の新方法論の創出
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26620087
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Research Institution | Osaka University |
Principal Investigator |
神戸 宣明 大阪大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (60144432)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 炭素―水素結合切断 / 炭素―水素結合官能基化 / カルコゲン / 触媒 |
Outline of Annual Research Achievements |
炭素―水素結合の切断を経る官能基化反応は近年大きく発展しているが、主な検討対象は炭素―炭素結合形成反応であり、分子の官能基化の観点から必要不可欠なヘテロ原子団の導入を実現する炭素―水素結合官能基化反応の創出が必要不可欠である。そこで、研究開始にあたっては、sp3炭素-水素結合よりも難易度の低いsp2炭素―水素結合の切断を経るヘテロ原子団導入反応の開発から着手した。触媒探索の結果、パラジウム触媒を用い、配位性官能基としてピリジンおよびピリミジンを利用することにより、アレーンおよびヘテロアレーンの炭素―水素結合の選択的切断を伴ったスルフェニル化およびセレニル化反応が進行することを明らかにした。本反応では、入手容易なジスルフィドおよびジセレニドを官能基化試薬として利用可能である。さらに、元素戦略の観点から更なる触媒探索を推進した結果、安価なニッケルおよび銅触媒により、類似の反応が進行することを明らかにした。 これらの研究成果をもとに、より難易度の高いsp3炭素-水素結合の切断を伴う官能基化反応を検討した結果、配向基を利用する事により銅触媒によるsp3炭素のスルフェニル化反応が銅触媒により円滑に進行することを見出した。 萌芽的研究の趣旨から、配向基を活用する従来型の手法を超えた新規な方法論の創出を目指した研究を開始した。超分子認識による基質の固定化と位置選択的な炭素―水素結合の切断は、基質の自由度の観点から配位性官能基を利用する手法に比べて大きな優位性があることから、アルカン包接能を有する環状オリゴ糖であるシクロデキストリンに金属触媒への配位部位を導入した配位子の合成を行った。比較的過酷な反応条件を必要とする炭素―水素結合官能基化反応へと利用する為に、配位部位として含窒素複素環カルベンおよびシクロペンタジエニル配位子を選択し、その合成とロジウムとの錯体合成を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画に従い研究を推進した結果、パラジウム、ニッケルおよび銅触媒による炭素―水素結合の切断を伴った高周期酸素族官能基の導入反応の開発に成功した。これらの触媒系は容易に入手可能なジスルフィドおよびジセレニドを利用することが可能である。また、ニッケル触媒系ではジスルフィドが酸化剤としての役割を担うことから、一般的な炭素―水素結合の切断反応で必須の金属酸化剤を加える必要が無いことも今回見出した反応の特徴であると言える。さらに、高難易度のsp3炭素-水素結合のスルフェニル化反応についても銅触媒系を利用可能であることを明らかにした。これらの触媒系を利用する事により、アリールチオ基およびアリールセレノ基を有する芳香族化合物の簡便な合成が可能になり、電子的、光学的に優れた機能を有する共役系分子の開発に貢献できると期待される。 超分子認識能を有する配位子を新たに設計・合成しその錯形成挙動を明らかにした。これらの配位子系は遷移金属と炭素―水素結合の切断に必要な高温条件に耐え得る強固な配位結合を形成可能である。超分子機能を有する基質としては、天然にも存在し、毒性の無いシクロデキルトリンを利用し、その包接作用を活用する事により、安全で汎用性の高い触媒反応系の構築につながると期待される。既に、金属に対して高い配位能を有する官能基をシクロデキストリンに結合させることに成功しており、研究は着実に進んでいる。 上記のように、当初目的の配位性官能基を足掛かりとするsp3炭素-水素結合の官能基化反応の開発は順調に進展しており、また、超分子認識能を有する錯体触媒の合成も十分な進展が見られた。
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Strategy for Future Research Activity |
本研究は、sp3炭素-水素結合の官能基化に焦点を当て、遷移金属錯体を利用することにより炭素-水素結合を選択的かつ効率的に切断する新しい手法を開発し、これを既に大きく発展しつつある遷移金属触媒反応に結びつける事により、炭化水素を基質とする直截的次世代型分子変換手法を開発する事を目指している。上記の如く、初年度には配向基を活用するsp3炭素-水素結合の切断反応系の開発や、超分子機能を有する配位子の合成など、目標達成に向けて着実に成果が得られた。そこで、平成27年度には配位性官能基を利用したsp3炭素-水素結合の切断を経る官能基化反応を継続して推進する。近年、sp3炭素-水素結合の切断反応に関する報告例は増加しているものの、ヘテロ原子団の導入反応に関しては今なお反応形式は限られている。そこで、酸素族原子団の導入を中心にsp3炭素-水素結合の官能基化について更なる検討を行う。 また、平成26年度に開発した超分子認識能を有する錯体触媒によるsp3炭素-水素結合の位置選択的官能基化反応についても検討を行う。超分子機能を有する官能基としては、シクロデキルトリンの他にオリゴチオフェンやカリックスアレーン等の環状構造を有する新規化合物の合成も試みる。また、配位部位の構造としては、N-ヘテロサイクリックカルベンやシクロペンタジエニル基のような、π-共役系分子を活用する。触媒として利用する金属としては、第1周期の遷移金属の応用の可能性を検討する。
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Causes of Carryover |
当初本研究の一部を担当する予定であった外国人研究員が急遽本国でのポスト取得に伴い帰国することとなった。そのため、実験担当者の選定作業に数ヶ月を要したため、当初検討予定であった脱水素反応を利用するsp3炭素-水素結合の官能基化反応を含めて一部の研究を次年度に実施することとした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
配位性官能基を利用するsp3炭素-水素結合の官能基化および超分子認識能を有する錯体触媒によるsp3炭素-水素結合の位置選択的官能基化反応について十分な進展が望めることから、上記二つの課題について研究資源を集中し、更なる発展を目指す。 研究費は、有機合成用試薬類および反応溶媒、遷移金属触媒等の消耗品の購入に充当する。
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Research Products
(9 results)