逆分極性金属種による二酸化炭素の新規活性化と合成化学的利用

2014 Fiscal Year Research-status Report

• Project/Area Number: 26620088
• Research Institution: Nara Institute of Science and Technology
• Principal Investigator: 森本 積 奈良先端科学技術大学院大学, 物質創成科学研究科, 准教授 (10324972)
• Project Period (FY): 2014-04-01 – 2017-03-31
• Keywords: 二酸化炭素 / 合成化学 / 触媒・化学プロセス

Outline of Annual Research Achievements

本研究では、従来の二酸化炭素（O=C=O）の活性化における反応型式とは逆の“金属と炭素と結合する”型式をもたらす、遷移金属－ケイ素種、遷移金属－ホウ素種などの逆分極性金属反応種M(-)E(+)を利用した二酸化炭素C=O結合の切断法を創出する。
１．化学量論量のロジウムホスフィン錯体、二酸化炭素、酸素原子と優先的に作用し得るケイ素化合物の一つ、ヒドロシランとの反応より、低収率ながらロジウムカルボニル錯体が得られることを見出した。他に炭素源が存在しないことから、二酸化炭素からカルボニル配位子（CO）へ脱酸素化していることが分かった。次にこの反応をベースに、逆分極性金属反応種M(-)E(+)を発生させ得る酸素受容剤および配位子の探索を行った。その結果、種々のケイ素化合物の中でもヒドロシラン類Si-Hが優れた酸素受容能を有することが分かった。さらに、ロジウム金属上に電子受容能の高いニトロシル基（NO）を配位させることにより、二酸化炭素からの脱酸素過程が進むことを明らかとした。
２．バイオマス由来の糖類を水素源とした二酸化炭素の水素によるギ酸合成を検討した。ロジウムホスフィン錯体触媒存在下で、二酸化炭素とグリセリンとを反応させたところ、低収率ながらギ酸が得られることを見出した。ギ酸を、二酸化炭素およびグリセリンといった未利用資源より合成できる本手法は、二酸化炭素の新しい有機資源化技術となるだけでなく、クリーンエネルギー源である水素エネルギーのキャリアを提供できる有望な新触媒技術となる。

Current Status of Research Progress

2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.

Reason

当初の計画通り、遷移金属錯体の中心金属上での化学変換により、二酸化炭素から酸素原子１つのみを脱離させる手法を達成した。金属上の電子状態を配位子により制御できること、脱酸素剤（酸素受容剤）としてケイ素化合物が有効であることを明らかとした。

Strategy for Future Research Activity

１．上述の成果は、いずれも化学量論反応での結果となるため、その触媒化が必要となる。今後は、以下の点に重点を置き、反応の触媒効率の向上を目指す。
(1)酸素受容剤の探索：今年度検討したケイ素化合物（Si-HやSi-Si）に加えて、同様に酸素との親和性の高いホウ素化合物（B-HやB-B）を用いて、二酸化炭素からの脱酸素化を検討する。ケイ素、ホウ素原子上の置換基の立体的・電子的影響を系統的に調査し、酸素との親和性を向上させ、逆分極有機金属種M(-)E(+)の高効率な発生を促進する。
(2)金属錯体、配位子の探索：ロジウム中心を逆分極的に二酸化炭素の炭素原子と作用させるため、ニトロシル配位子に加えて、電子的要因の異なる様々なリン化合物から最適なものを探索し、逆分極有機金属種M(-)E(+)の高効率な発生を促進する。
２．１の二酸化炭素の新活性化技術を基に、二酸化炭素を炭素源とした様々な有機化合物合成の新手法として開発する。申請者の以前の研究成果より、炭素－炭素三重結合と二重結合を併せ持つエンイン類の環状ケトン誘導体への環化カルボニル化反応において、ホルミル化合物がカルボニル単位供給源として有効に働くことが分かっている。まずは、この環化カルボニル化反応をモデル反応として取り上げ、上述の二酸化炭素活性化法をカルボニル化反応におけるカルボニル供給源として利用することを実証する。必要に応じて、二酸化炭素の活性化と基質へのカルボニル単位の導入を別々の容器で実施し、それらを連結したカルボニル化システムも検討する。

Causes of Carryover

学会や学術論文での研究の成果が未発表のため、旅費・参加登録費・英文校閲料などへの支出が不要となった。

Expenditure Plan for Carryover Budget

計画通り、研究遂行に必要な装置・器具・薬品に充てるとともに、今年度の成果を今年度中に学会や学術論文にて発表する予定であり、その旅費・参加登録費・英文校閲料・成果印刷代として使用する。