2014 Fiscal Year Research-status Report
光の波長に依存する粘弾特性を持つ機能性流体を利用した熱伝達制御に関する研究
Project/Area Number |
26630064
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中部 主敬 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (80164268)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
巽 和也 京都大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (90372854)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 対流 / 機能性流体 / 熱伝達 / 光制御 / 粘弾性 / 異性体 |
Outline of Annual Research Achievements |
分子構造にトランス体,シス体と呼ばれる異性体を有する2-メトキシ桂皮酸(OMCA)という塩は,光の波長が250nm~350nm程度の紫外線(UV光)を照射することでトランス体からシス体に不可逆的に変化する.また,臭化ヘキサデシルトリメチルアンモニウム(CTAB,陽イオン系界面活性剤の一種)とサリチル酸ナトリウム(NaSal)を純水に溶かすと紐状ミセルのネットワーク構造を水溶液中に形成する.そこで,前者のOMCAを後者のCTAB/NaSal水溶液に添加して作製したCTAB/NaSal/OMCA混合水溶液に注目し,それにUV光を照射することで紐状ミセルのネットワーク構造が変化するかどうか,あるいは,混合水溶液の粘弾特性がどのように変化するのか,について調べた.すなわち,作動流体としてこの混合水溶液を利用し,UV光照射による伝熱特性の制御可能性を探った. 本年度実績として,UV光照射に先立ち水溶液中のOMCAに占めるトランス体の含有率φの違いによる粘弾特性の変化を調べた.すなわち,OMCA濃度一定の条件下でφの値の異なる水溶液に対して粘弾特性をレオメーターで実測するとともに,極低温透過電子顕微鏡を利用して紐状ミセル構造を可視化観察した.その結果,φが小さい(トランス体の濃度が低い)程,弾性率がニュートン流体的な傾向を示すこと,ならびに,電顕画像をφ=0(OMCAのシス体のみ)の場合とトランス体を含む場合を比較することで紐状ミセルの領域の数密度や長さに顕著な差が見られること等が分かった.従って,混合水溶液の粘弾特性の変化を紐状ミセルのネットワーク構造の違いと関連づけることができた.同条件下で伝熱実験も行い,トランス体の含有率が高い程,ニュートン流体の場合に比して平均熱伝達率の値が向上したため,その主要因をトランス体の粘弾特性にあるとした.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
「研究実績」の欄で述べたとおり,CTAB/NaSal/OMCA混合水溶液におけるOMCAのトランス体含有率の違いによって熱伝達率が顕著に変化することを明らかにした.一方,OMCAがUV光照射によってトランス体からシス体に変化する現象は既知であるため,CTAB/NaSal/OMCA混合水溶液においてもこの現象はUV光照射によって生じるはずである.また,初年度の研究実績に基づいて,OMCAのトランス体だけを含ませたCTAB/NaSal/OMCA混合水溶液を作製することで,その水溶液へのUV光照射の影響がどの程度のOMCAトランス体含有率に相当しているのかを見積もることも可能と考える.次年度(最終年度)においてはこれらのことを実証した上で初年度と同様の熱伝達率測定を実施すればUV光照射による伝熱制御が可能かどうかを判定することができる. 以上のことから当該研究遂行の段階として現時点ではおよそ半分が達成できたものと考える.ただし,OMCAトランス体の含有率の100%から0%への変化する過程ひいては混合水溶液の粘弾性流体としての振る舞いがニュートン流体のそれに変化する過程がUV光照射時間の長さに正比例するかどうかは未知である.また,混合水溶液が伝熱区間に流れ込むまでの上流域において,トランス体からシス体への異性化を実現するための充分な時間が確保できるUV光照射領域を実験流路内に組み込む必要がある.実績の公表が国内会議に留まっており国際会議での発表やジャーナルへの投稿のための時間も別途確保する必要があることから,研究遂行を加速する予定である.
|
Strategy for Future Research Activity |
「現在までの達成度」欄に述べたようにCTAB/NaSal/OMCA混合水溶液へのUV光照射の強度,時間を変化させることでOMCAトランス体からシス体にどの程度の割合で変化するか,複素弾性率測定の結果と比較しながらトランス体含有率と対応づけることを至急行う予定である.そのためにはUV光の光源を新たに準備し,その発光スペクトルや実験流路の壁面と混合水溶液を透過する光のスペクトルが測定可能な光学系を構築する必要がある.また,伝熱区間の上流域でトランス体からシス体への異性化を実現するための充分な時間が確保できるUV光照射領域を作製して実験流路内に組み込む必要もある.光学測定や流路作製の手法はこれまでに研究室で確立されているため特に大きな支障なく研究を遂行できると考えている. ただし,初年度に用いたOMCAは炭素原子の二重結合によってトランス体,シス体の異性化が生じることから,異性化する速さは比較的緩慢である.また,異性化が不可逆的である.そこで異性化の高速性と可逆性を確保するためアゾ基等による異性体を有する物質を新たに試すことも目論んでいる.
|
Causes of Carryover |
初年度は手持ちの水銀ランプをUV光源に,また,紫外線強度計をUV光検出器に利用して簡便かつ迅速にOMCAの異性化を捉えた.これは研究遂行の布石として大きな成果となったが,どのようなスペクトルを持った光が照射され,混合水溶液を透過したのかは全く不明である.しかし,この点を明らかにするだけの時間的余裕はなく,また,それを後回しにしても初年度の実績は充分に得られた.そこで,次年度には発光源と光スペクトル測定系の性能を格段に向上させて整備する必要がある.また,トランス体⇔シス体の可逆的な異性化が迅速に行うことのできる物質を検討する必要もある.そのために初年度の使用額をできるだけ抑え,次年度の資金を確保することにした.これが次年度使用額の生じた理由である
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
「理由」欄で述べたとおり次年度に光源,光学系,異性化物質などを早急に揃えて実験を実施する必要がある.そのため,次年度使用額相当の額を当該年度前半に執行する計画である.また,当初から予算化されていた薬品類や化学部品類,光学フィルタや電子回路部品,鋼材等の購入は予定どおり執行する計画である.適宜,学会発表を行うための国内外旅,参加登録料,学術ジャーナルへの投稿料等も予定通り執行する予定である.
|