2014 Fiscal Year Research-status Report
バイオ医薬品の活性維持を目的とした凍結タンパク質水溶液のin-situ評価
Project/Area Number |
26630066
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
高松 洋 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (20179550)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藏田 耕作 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (00368870)
福永 鷹信 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), その他 (60591196)
WANG Haidong 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (30729405)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 凍結保存 / バイオ医薬品 / ラマンイメージング / タンパク質変性 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は,実験装置を製作し,変性しやすい生体高分子の探索と計測するピークの測定および試料水溶液の凍結速度の測定を行った. 本研究では,凍結条件がタンパク質や酵素などの生体高分子水溶液の機能の失活に及ぼす影響とそのメカニズムを明らかにし,効果的な凍結法を提案することを目的としている.このことは,凍結状態の生体高分子水溶液を方向性凝固ステージとレーザーラマン顕微鏡を組み合わせた独自のシステムを用いて氷,溶質,未凍結濃縮液の分布をラマンイメージングで可視化するとともに,生体高分子の変性を定量化する手法を開発することで達成できると考えられる.そこでまずは測定に用いる試料および観察するピークの探索を行った.物質量および主要な二次構造の割合が異なる4つの生体高分子試料(アルブミン,リゾチーム,β-ラクトグロブリン,キモトリプシノゲン)において,溶液pHを変化させた状態,溶液状態,凍結状態にて測定を行ったところ,生体高分子の二次構造(α-helixおよびβ-sheet)に関連するピーク位置やスペクトル強度が変化していることが確認できた. 試料の凍結速度は,方向性凝固ステージをレーザーラマン顕微鏡に組み込んだ装置を製作し,観察チャネル内の試料の凍結の様子を動画撮影することで測定した.撮影した動画からフレーム毎に画像を切り出し,凍結界面の移動量を測定することで,凍結速度を算出した.リゾチームと凍害防御剤として用いられているトレハロースの混合水溶液を試料として用い,温度調節ステージ間の温度差を30 Kとして測定を行ったところ,トレハロースの濃度が高くなるにしたがって凍結速度が遅くなった.これは同じ質量分率ではトレハロース水溶液の方がリゾチーム水溶液よりもモル濃度が高くなること,トレハロースの水和力が高いことが原因だと考えられる.
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は,方向性凝固ステージとレーザーラマン顕微鏡を組み合わせた実験装置の製作を行い,①実験に用いる生体高分子の探索と計測対象となるピークの決定,ならびに②実際の試料の凍結速度を測定する予定であった. ①について,質量および基本構造が異なる4種類の生体高分子を選定し,水溶液を調製してラマン計測を行った.凍結過程で溶質の凝集によってpHの変化が生じると考えられるので,これを想定した実験を行った.その結果,タンパク質の二次構造 (α-helix,β-sheet)に由来する1650 cm-1付近のAmide Iバンドのメインピーク位置がシフトすること,また,α-helix構造に由来する930 cm-1付近のピーク強度が減少することが確認できた.繰り返し凍結解凍実験においてはこれらピーク変化を確認することはできなかったが,1620 cm-1付近のβ-sheetのピーク強度に変化が認められた.これらのことから,生体高分子の二次構造に関連するピークを中心に探索を行うことで,生体高分子の変性判断に使用できるピークを同定できることが分かった. ②については,製作した方向性凝固ステージをレーザーラマン顕微鏡に組み込み,観察チャネル内の試料の凍結界面を動画撮影することによって,試料の凍結速度を計測することができた.試料にはリゾチームと凍害防御剤として用いられているトレハロースの混合水溶液を用いた. 以上のように,当初の計画通りに研究を遂行することができた.
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は,方向性凝固低温ラマン顕微鏡システムを用いて凍結実験を行い,氷やタンパク質の分布に及ぼす凍結条件の影響を明らかにするとともに,タンパク質変性の定量的評価を行う. 実験方法は次の①~④の通りである.①試料を置いた両側のステージを0℃以上に保った後,片側のみを所望の温度まで冷却する.②植氷用チャネルに氷結晶またはヨウ化銀を一滴落として凍結を開始させる.③凍結完了後,その状態をレーザーラマン顕微鏡で観察する.一視野で観察できる範囲は限られているので,凍結開始位置から凍結終了位置まで顕微鏡のステージを移動させて,全範囲の観察を行い,ラマン分光データを取得する.④急速加熱によりステージ温度を5℃まで上げて解凍し,速やかに通常の明視野像を記録する. 得られた結果より次の①~③の解析を行う.①解凍水溶液の明視野観察像より,凝集物の有無およびその分布を明らかにする.②ラマンスペクトルを解析し,氷,水溶液,タンパク質に対応するピークを検出してラマンイメージング像を得るとともに,得られたデータの定量化を図る.その方法としては(1)ピーク部分からそのベースを除いた面積を求める方法,(2)予め基本ピークを登録しておき,それらの重み付き重ね合わせで得られたスペクトルの分布を近似し,その重みを指標とする方法,(3)スペクトル分布を波長(波数)で微分したものについてそのピーク面積を求める方法,のいずれかを用いる.③氷,タンパク質の分布およびタンパク質変性に及ぼす凍結条件の影響を定量的に明らかにする.
|
Causes of Carryover |
研究の進捗具合と工夫によって,当初の予定より消耗品の使用を節約できたために未使用額が生じた
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度の購入予定消耗品の化学物質(タンパク質等)や顕微観察用の石英ガラス等の購入に充て,使用する.
|
Research Products
(3 results)