2014 Fiscal Year Research-status Report
超高効率を有する薄膜多重量子井戸太陽電池の研究開発
Project/Area Number |
26630107
|
Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
渡辺 健太郎 東京大学, 総括プロジェクト機構, 特任助教 (30523815)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 太陽電池 / 化合物半導体 / 多重量子井戸 / 超格子 / CPV / 薄膜III-V族セル / 集光型太陽光発電 / 低コスト化 |
Outline of Annual Research Achievements |
当該年度において、目標となる薄膜多重量子井戸太陽電池の製造プロセス開発を実施した。GaAs単接合p-i-n構造中のi層に、InGaAs/GaAsPからなる多重量子井戸(MQW)を導入した薄膜セル構造を、有機金属気相成長法によって形成することで、最大20層のMQWを内包したセルの結晶基板を得ることが可能となった。結晶成長過程において、InGaPエッチストップ層または、AlAs犠牲層を介してGaAs基板上へと成長を行い、Si支持基板上への薄膜セルの移載プロセスを試行した。Si支持基板への接合は、ベンゾジクロブテンおよび、ポリイミドからなる樹脂接着層を用いることで、後の基板除去、電極形成の過程を経ても安定した接合層が得られた。 さらに、セルの裏面に対して光散乱構造を導入することによって、セル内部での光閉じ込め効果を及ぼすことで、MQW中の光吸収を相対的に2倍程度まで増大することが可能となった。この結果、単接合MQW太陽電池セルの変換効率が18%から20%まで向上し、光閉じ込め効果の有効性が示された。 さらに、薄膜化セルに対する光学評価の工程に対して改善を試みた。従来のフォトルミネッセンス(PL)測定や、反射・透過率の測定では光散乱を含むセルに対しては不十分であるため、積分球を導入した光学評価によって、散乱光成分のみを分離して評価する方法を構築した。その結果、光閉じ込め効果を有効に発現するための散乱構造の設計指針を得ることが可能となった。光学評価のより有効な利用法として、PLおよび、エレクトロルミネッセンス(EL)光を定量的に評価することによって、光照射時におけるセル内部の疑フェルミ準位の分離度合いを定量化する手法を確立した。これによって、非接触の光学評価のみを用いることで、解放電圧などのセル特有の物理量を見積もることが可能となった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的である、MQW太陽電池の高効率化へ向けて、i)III-V族化合物半導体からなるセルの薄膜化、ii)光閉じ込め効果の有効な利用、の2点において、順調に研究が進められている。 i)の薄膜化セルの開発においては、安価なSi支持基板上にIII-V族化合物半導体の結晶成長によって得られたセルを移載するプロセスが確立された。このプロセスでは、InGaPエッチストップ層を用いてGaAs基板を除去する方法と、AlAs犠牲層を用いてGaAs基板を剥離する方法の2通りを試みた結果、エッチストップ層を用いた方法では安定して薄膜化セルの製造を行うことが可能となった。また、犠牲層を用いた基板剥離プロセスでは、AlAs層の結晶品質を高く維持することがセルの性能向上のために必要であることが明らかとなり、特に、結晶成長中の酸素汚染によって引き起こされるAlAs結晶の劣化を抑制することが重要な改善項目であると考えられる。 ii)の光閉じ込め効果の発現に関しては、セル裏面に光散乱を生じる構造を形成することで、効果的にMQW中での光吸収が増大することが示された。一般的なフォトリソグラフィを用いたプロセスによって光散乱構造を最適化することで、光吸収量は相対的に2倍程度に増大し、量子効率は50%程度まで向上することが示された。 また、光学評価の改善によって散乱光と直接反射光を分離して測定する手法を確立したため、散乱光が光閉じ込め効果に与える影響を評価することで、光閉じ込め効果の高効率化へ向けた指針を得ることが可能となった。さらに、PLおよびELの定量評価によって、光学的にセルの性能評価を実施することで、電極などの電気的プロセスによらない、セルを構成する結晶内部で生じる物理過程のみに対して評価を行うことができることが示された。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究課題の目標は、i)MQW太陽電池セルを用いてより高い変換効率を示すこと、および、ii)製造過程の低コスト化へ向けた指針を得ることである。これらの課題を達成するために、以下の方針で今後の研究を進める。 i)高効率化の面では、従来の非薄膜化MQWセルでは、40層のMQWを導入したセルで27%超の変換効率が得られているため、光閉じ込め効果を導入することで変換効率を30%超とする見込みは得られている。これを実現するためには、エッチストップ層または犠牲層を介した結晶成長において、得られるセル構造の品質を改善することが必要である。特に、薄膜化セルの場合では、酸素など不純物の汚染が与える影響が大きいと考えられるため、不純物を抑制する結晶成長プロセスの改善を実施することでセルの変換効率の向上を目指す。 ii)の低コスト化へ向けた方策は、薄膜化セルを製造する過程において、AlAs犠牲層を用いたいわゆるエピタキシャルリフトオフのプロセス安定化によってGaAs成長基板を再利用することが必要である。これに対しても、結晶成長の改善によってAlAs層およびセル層の品質を向上することで大規模面積に対してのエピタキシャルリフトオフを安定的に行うための条件を探索する。さらに、より高い光閉じ込め効果を与える最適化構造を開発することで、セル層の薄層化とそれに伴う省原料化を進めることにより、結晶成長時における低コスト化の方針を示す。
|
Research Products
(4 results)