2014 Fiscal Year Research-status Report
エネルギー依存スピン分極率の人工的デザイン技術の開拓
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26630123
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
大矢 忍 東京大学, 工学(系)研究科(研究院), 准教授 (20401143)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | スピントロニクス / 分子線エピタキシー / 共鳴トンネルダイオード |
Outline of Annual Research Achievements |
本年度はp型Ge基板上へのMgOのエピタキシャル成長に関しての詳細な実験を行った。成長条件の微妙な変動により、結晶性が大きく変わることが分かってきた。基板上のボロン(B)ドープGe(B:Ge)の成長は、以前の研究より、良好な表面平坦性が得られることが分かっている200℃という低い温度で行った。高速反射電子線回折(RHEED)は良好なストリークを保っており、極めて高品質でかつ原子レベルで平坦なB:Ge薄膜が成長することが分かった。次にMgOを分子線エピタキシー装置内で様々な条件で電子ビーム蒸着法を用いて堆積した。成長温度を極力下げ、成長レートを極めて遅くことにより、結晶性の高いMgOが得られる傾向があることがRHEEDの解析から分かった。また、Geに対して面内45度回転した角度でMgOが製膜されることが分かった。さらに成長後のアニールも効果があることが分かってきた。MgO上のFe層はMgOの結晶格子からさらに面内に45度回転しており、Ge格子と同じ角度で成長が進むことが分かった。RHEEDはストリークであり、高品質な薄膜が得られていることが分かった。一方で、高品質な単結晶へテロ構造が得られるため、従来本研究室で利用してきた強磁性半導体GaMnAs量子井戸構造の研究も参考実験として行っているが、本研究でも新たな発見があった。通常GaMnAsにおいては2回対称の磁気異方性が得られるが、GaMnAs量子井戸においては、共鳴トンネル伝導が起こるエネルギー帯においては4回対称性が支配的になることが明らかになった。このような現象の報告例は、強磁性材料全般においても、世界的に報告例がない。本結果は、近年のゲートによる磁化制御の技術と組み合わせることにより、磁気異方性を人工的に制御するという新たな道を切り開く可能性があり、将来の省電力エレクトロニクスの実現につながるものと期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
GeとMgOの成長条件を制御することにより、本研究室では全く経験がなかったGe基板上へのMgOの製膜に成功した。さらに、その上にFe層がエピタキシャルに成長できることが分かった。成長温度を下げるほど、また成長レートを極力遅くすることにより、RHEEDのストリークが明瞭に観測されるようになり、より良い結晶性が得られることが分かった。これは、おそらくMgOの酸素欠損が低減されるためでだと考えられる。一方で、格子不整合の関係で、良質な膜質を保った状態では、数10 nm以上のFe層の製膜は難しいことも明らかになった。良好なエピタキシャルFe薄膜を得るためには、Fe層を非常に薄くすることが重要である。このような一連のことは、本研究室では初めて明らかになったことであり、今後のスピン依存伝導素子の作製において極めて重要な知見である。これらの発見は研究を遂行する上で大きな進展であったと考えている。 一方で、従来本研究室で利用してきた強磁性半導体GaMnAs量子井戸構造において観測された共鳴トンネル効果に誘起された磁気異方性の変化は、全く予期していなかった極めて興味深い現象である。本発見はバンドエンジニアリングにより、スピン分極率の制御だけでなく、磁気異方性も制御できることを意味しており、この技術は極めて今後のスピントロニクス分野において重要である。今後、発現機構の詳細を明らかにすることにより、この現象を様々な材料に応用していく道を模索する必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
Ge基板上の素子に関しては、アルゴンミリングを利用した素子加工の技術の確立に向けて研究を進めている。これらの技術を駆使して、まずは、BドープGe上のMgO単一障壁へテロ接合デバイスにおけるMgO膜厚依存性を調べ、障壁高さの見積もりを行う。この際に、デバイスの素子のサイズを系統的に変えて、リーク電流の有無についても詳細に検討を行う。Bのドープ濃度も変え、ショットキーバリアの存在の有無についても調査を行う。その後、ヘテロ構造を作製し、量子サイズ効果の実現を目指す。その際に、本研究において重要となる共鳴トンネル効果の急峻さに対する注入電極のフェルミ面の大きさの影響について調査を行う。これはB濃度を変えて共鳴トンネル効果を系統的に測定することによって明らかになると期待される。このような実験を行う中で、スピン依存共鳴トンネル効果の明瞭な発現を狙う。 また、強磁性半導体GaMnAs量子井戸を利用した共鳴トンネルデバイスに関しては、理論的な側面から磁気異方性の変化が起こる機構を明らかにしていきたい。特にこのような現象はスピン軌道相互作用により誘起されている可能性が高いと考えられるため、過去の強磁性体におけるスピン軌道相互作用の影響に関する文献などを調査し、論文化することを検討している。
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Research Products
(6 results)