2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26630124
|
Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
半那 純一 東京工業大学, 像情報工学研究所, 教授 (00114885)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
|
Keywords | 有機半導体 / 液晶 / 強誘電性 / 電荷注入 / キラルスメクチックC |
Outline of Annual Research Achievements |
前年度のTerphenyl骨格を持つ強誘電性液晶物質(FLC-TPFF)と同等の化学構造を持つ強誘電性を示さないラセミ体のTPFF誘導体との混合系の検討から、強誘電性液晶に観測される電荷注入促進効果が強誘電性液晶物質の示す残留分極の大きさには依存せず、混合系においても大きな電荷注入促進効果を示すことを明らかにした。この結果は、強誘電性液晶物質にみられる電荷注入促進効果が、強誘電性に起源をもつものとの予想に反するもので、本結果から、電荷注入の促進効果は分極した電荷輸送性材料が電極近傍に配向することにより誘起される現象である可能性が指摘された。 この一般性を明らかにするため、骨格の異なる、分子長軸に大きな双極子を持つBenzosinnoline骨格を持つ物質を合成し、その液晶性と電荷輸送特性、電荷注入効果について検討した。合成したPhenylbenzosinnoline誘導体の中で、二つのDialkyl誘導体は150oを超える広い温度領域においてSmC相を発現した。まず、この物質を精製し、Time-of-flight法により電荷輸送特性を検討したところ、60oC~200℃付近までの温度領域において、移動度は強い温度依存性を示し、10-5cm2/Vs~10-3cm2/Vsまで2桁にわたって変化した。一方、移動度には電場依存性は認められなかった。予備的な結果であるが、ITO電極を用いた電流―電圧特性の測定から、非分極性の液晶物質に比べ、桁で異なる大きな暗電流が観測された。ここで観測されたBenzosinnoline誘導体の電荷輸送特性はその特性から不純物の混入によるイオン伝導の可能性を排除できないため、Benzosinnoline誘導体の液晶相における本来の特性を反映したものであるかどうかを慎重に検討する必要が生じた。現在、その確認のため、合成したBenzosinnoline誘導体のカラムクロマトフラフィー、および、異なる溶媒からの再結晶を繰り返し、試料の精製を行い、その確認を進めている。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
前年度の成果は、本研究課題で取り上げた強誘電性液晶における電荷注入促進効果は、当初の残留分極の大きさに対応して誘起される現象であるとの予想を裏切り、分極した電荷輸送性の分子が電極近傍に配向することによって引き起こされる、強誘電性液晶物質に限定されない、より、一般的な現象である可能性を指摘したものであった。 この結果は、本現象が強誘電性液晶性物質に限定されるものではなく、つまり、強誘電性の発現に不可欠なSmC*相の発現を必要とせず、分子長軸に垂直な大きな双極子を持つ電荷輸送性の液晶における基本的な現象である可能性を示しており、当初の予想とは異なるものの、むしろ、有用性は広く、様々な電荷輸送性液晶物質がこの現象を示すと期待できる。本年度、この理解の確認を行うため、合成し、特性を評価しているBenzosinnoline誘導体の測定された特性がこの物質本来の特性であることが確認できれば、前述の本現象が誘起される本質的な原因の大筋が解明されたことになると判断している。
|
Strategy for Future Research Activity |
本研究は、強誘電性液晶物質に限らず、無機強誘電体においても誘起される現象であることを期待し、実験計画を立てていたが、現象の発現に関わる本質が強誘電性の発現が必須ではない可能性が高まった。そこで、先ず、研究の計画を変更して、液晶物質における本現象の本質を明らかにすることを優先して進める。先ず、Benzosinnoline誘導体の精製を進め、電荷輸送特性の伝導機構を明らにし、この現象が不純物の混入による効果ではなくこの物質のSmC相本来の特性であることを確認する。次に、Benzosinnoline誘導体においては、側鎖構造を変えることにより、異なる液晶相を発現できるものと考えられることから、本現象がSmC*相、あるいは、SmC相固有の特性ではないことを、他の液晶相で確認する。また、Benzosinnoline 誘導体に類似の骨格を持つ液晶物質を合成し、液晶相と電荷輸送特性(電流―電圧特性)を調べることにより、電荷注入促進効果の一般性を確認する。これらの結果を比較検討することにより、本現象の起源を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
時間的制約から、予定した研究計画に遅延が生じたことに加え、前年度の成果をもとに、予定した研究内容を一部変更し、新規に合成した液晶材料の評価を進めた。この際、材料の電荷輸送特性の評価に必要な高純度を得るための精製に時間を要したため、研究の遅れから、研究期間を平成29年3月まで、1年延長することにしたためである。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
前述の通り、高純度に精製した試料の電荷輸送特性の評価に加え、SmC相以外の液晶相における電荷注入の促進効果を確認するために、新たにBenzosinnoline誘導体の合成を行う予定である。 研究費はその材料費、および、評価のための試料作製のための消耗品等に支出予定である。
|