2014 Fiscal Year Research-status Report
多脚動物が示す巧みな脚間協調に着想を得た交通信号制御の新展開
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26630193
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Research Institution | Tohoku University |
Principal Investigator |
加納 剛史 東北大学, 電気通信研究所, 助教 (80513069)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
杉山 雄規 名古屋大学, 情報科学研究科, 教授 (20196778)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 交通信号制御 / 自律分散制御 / 四脚ロコモーション / 力積 / 脚間協調 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨今,交通渋滞は経済に深刻なダメージを与えており,大きな社会問題となっている.この問題の解決に際して,交通信号の制御はきわめて重要な役割を担う.交通信号を道路状況に応じて柔軟かつ適切に制御することができれば,交通渋滞の緩和につながると期待される. これまでの信号制御の常識は,「前もって得られた交通需要量のデータをもとに,『サイクル長』『スプリット』『オフセット』と呼ばれる3つのパラメータをそれぞれ個別に設計する」というものであった.しかしながら,従来の制御方策では,想定状況下ではある程度適切に機能するものの,予期せぬ交通量の変化に対応することは困難であった.これは,上記3つのパラメータの制御を個別に設計しなければいけないという固定観念が足枷になり,制御則設計にあたっての重要な本質が見落とされていたためと考えられる. 申請者はこれまで,四脚動物のロコモーションにおける脚間協調(環境や身体特性の変化に呼応して,各脚の接地・非接地のタイミングを自律分散的に調節すること)のメカニズムに着目し,内在する自律分散制御則の解明に取り組んできた.そして,床反力に応じて接地期間を調節する効果を取り入れた単純な位相振動子モデルにより,四脚動物が示す適応的な振る舞いの多くを再現してきた. 本研究では,この四脚動物の脚間協調のモデルと交通流の間に成り立つアナロジーに着目することで,上記問題解決を試みた.そして,四脚動物の脚間協調のモデルにおける局所センサフィードバック項が赤信号や車が後続車に与える「力積」に相当することを見出し,この力積が小さくなるように信号を切り替える自律分散制御方策を提案した.シミュレーションの結果,さまざまな交通状況に適応可能であることが確認された.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では,すでに四脚動物の脚間協調のモデルと交通流の間に成り立つアナロジーを明確にしており,四脚動物の脚間協調メカニズムから交通信号制御を考えるという斬新なアイデアをすでに形にしている.『サイクル長』『スプリット』『オフセット』と呼ばれる3つのパラメータをそれぞれ個別に設計するという従来の固定観念から脱却し,赤信号や車が後続車に与える「力積」という物理量に着目した点はきわめて独創的であり,また実に合理的である. 申請者は,碁盤の目かつ右左折なしという単純な道路状況下では交通量の変化にも適応可能であり,どの道路状況下においても他の制御則より車の平均速度が速くなることを,シミュレーションによりすでに示している.それゆえ,本手法は幅広い道路状況に適用でき,予期せぬ交通量の変化にも適応可能だと期待される. また,提案制御手法は,非平衡開放系においてシステムを適切な状態に維持するための一般的な設計論の確立にもつながると期待される.
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Strategy for Future Research Activity |
申請者はすでに,碁盤の目かつ右左折なしという単純な道路状況下では交通量の変化にも適応可能であり,どの道路状況下においても他の制御則より車の平均速度が速くなることを,シミュレーションによりすでに示している.しかしながら,より一般的な道路状況下においても提案制御則が適切に機能するかどうかについては依然不明である.今後はより一般的な道路状況下においてシミュレーションを行い,提案制御則の妥当性を検証する. また,提案制御則の実世界での妥当性を検証するため,マイコンで駆動される車や信号を自作し,交通網を実世界で再現する.そして,シミュレーション同様さまざまな条件下で実験を行い,提案制御則の効果を検証する. さらに,提案制御則の物理学的意味を深く考察する.「やってみたらうまく機能した」だけで留まっていたのでは,それ以上の何かを得ることはできない.しかしながら,理を深く追求し,現象の理解を深化させたならば,そこから普遍性のある原理を導き出すことができるはずである.一般的に,非平衡開放系の物理現象は「何らかの物理量(質量,運動量,電荷など)の流れ」として捉えることができる.交通信号制御を「流れの制御」として捉えることで,非平衡開放系における普遍的な自律分散制御の設計論の確立につながると期待できる.
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Causes of Carryover |
研究計画においては,提案制御則を検証するための実機プラットフォームを26年度内に作成する予定であったが,実機プラットフォームの作成は27年度に入ってから行うこととなった.そのため次年度使用額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額については,実機プラットフォーム作成に当てる.他は当初の計画通り,実機製作費および3Dプリンタ・樹脂カセット代,研究打ち合わせ旅費,成果発表,研究補助,外国語論文校閲料,学会誌投稿料に使用する予定である.
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