2014 Fiscal Year Research-status Report
ヴィトルヴィオ著、ダニエレバルバロ翻訳+註「建築十書」に関する図形科学的研究
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26630284
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Research Institution | Kumamoto University |
Principal Investigator |
植田 宏 熊本大学, 自然科学研究科, 准教授 (00117334)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ヴィトルヴィオ / ダニエレ・バルバロ / アンドレア・パッラーディオ / ヴィンチェンツォ・スカモッツイ / テアトロ・オリンピコ / 建築十書 / スカエナエ・フロンス / 透視図法 |
Outline of Annual Research Achievements |
ヴィトルヴィオ著、ダニエレ・バルバロ翻訳+註「建築十書」には建築家アンドレア・パッラーディオが作成したとされる数多くの図版が挿入され、その中にはパッラーディオが設計したテアトロ・オリンピコを髣髴とさせる、奥行きある舞台背景とみられる劇場の図版が含まれている。平成26年度は第五書第六章の劇場平面についてバルバロの翻訳・註釈を和訳、検討し、日本建築学会九州支部研究報告会において次の結論を報告した。1)ヴィトルヴィオを翻訳する際の訳語の違いからバルバロ書籍内の挿入図において、平面を決定する円の考え方、サイズが森田慶一訳註「ウィトルーウィウス建築書」(東海大大学出版会、1969)などの解釈と異なり、オルケストラ直径を基にした舞台奥行きが2倍になったこと。2)パッラーディオによる挿入図と、テアトロ・オリンピコの楕円形の平面を円として捉えなおし、画像処理ソフトを用いて変形させた場合の図とを比較した場合に、よく似た舞台奥行きや袖壁を有していること。3)バルバロの挿入図の舞台奥行きの決定に当たって、パッラーディオのローマ遺跡調査やセバスティアーノ・セルリオの著書内にあるローマのマルケルス劇場平面図の影響の可能性があること。 現地調査に関しては、平成26年9月、南フランスの調査を実施した。ヴィトルヴィオが建築書を著したローマ時代の劇場建築として、リヨン、アルル、オランジュを調査、また、バルバロらの時代イタリア・ルネサンスの絵画をアヴィニョンにおいて調査した。そして、オルケストラ内の平面・断面計画、および舞台奥行きについて、バルバロの解釈と類似の例としてリヨンの劇場を上記報告会において指摘した。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
対象書籍の第五書第六章から第八章が劇場平面、立面、舞台背景に関する記述であり、この部分の翻訳・解釈が研究の中心となっている。これまでに、同部分の現代イタリア語への翻訳作業は終了し、日本語訳については最終章が進行中である。また、ヴィンチェンツォ・スカモッツイの註釈についてはこれからの作業となる。そして、研究の結果に関しては「研究実績の概要」に記した、第六章内のヴィトルヴィオの文章のイタリア語翻訳文章、バルバロによるコメント文章、および挿入図を他文献と比較することで劇場平面の構成法について、バルバロとパッラーディオの解釈に他と異なる部分があるが、当時の文献や調査に基づいたコメントであるとすれば、理解できることとして報告を行なった。第七章については日本建築学会大会(関東)へ投稿中であり、9月に発表予定である。そこでは、舞台正面(スカエナエ・フロンス)の構成に関して、ヴィトルヴィオの提唱した正面プロポーションに対する文章に基づいて、当該書籍内挿入図、および、パッラーディオ設計のテアトロ・オリンピコ正面図(近年の調査を基にした図)との比較を行っている。これら二つの報告により、劇場内の舞台広さ、奥行き、オルケストラ、観客席等の平面要素、また、舞台正面における立面的要素に関しての構成法の比較については一応の結論を得たことになる。また、テアトロ・オリンピコ平面図の変形させた図を作成し、類似性を指摘したことで、パッラーディオが当該書籍に対し深い関心を持ったかかわり方をしていたことにも言及した。 以上が、(2)おおむね順調に進展していると判断した理由である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度には第五書第八章、およびスカモッツィによる註釈の中で必要部分について、26年度と同様現代イタリア語への変換、日本語抄訳、および他の書籍の図版と比較・検討する。また、パッラーディオが描いたとされる同書内の図版を画像処理ソフトにより調整し、文章との整合性、図版の有効性や精度について検証する。特に、ラテン劇場の図に関しては、バルバロの翻訳・註釈と森田やルチアーノ・ミゴット(Marco Vitruvio Pollione “De Architectura”, traduzione di Luciano Migotto, Pordenone, 1990)らの翻訳と比較検討を行う。悲劇、喜劇、諷刺劇の3種類の古典演劇については、当該書籍の直後にバルバロが著した「透視図法の実際」(Daniele Barbaro,“LA PRATICA DELLA PERSPETTIVA”, Venezia, 1569)、およびセルリオ著「建築論」(Vaughan Hart & Peter Hicks編Sebastiano Serlio, ON ARCHITECTURE, Vol. 1 & 2, Yale Univ. Press, 1996)に見られる挿入図との関連を透視図法構成要素との関連から検討する。 実空間との関連では、当該書籍における挿入図を作成する際にパッラーディオが参考にしたローマ時代の劇場に関して、北部イタリアのアオスタ、ブレシア、ヴェローナ、トリエステ、中部イタリアのフィエゾレ、グッビオ、ローマについて、遺跡の状況や行程等を考慮して行程を決め、調査する予定である。また、観客席中央ではなく、左右からの視覚像を確認するために、北部イタリアのヴィチェンツァのテアトロ・オリンピコ、透視図法に関連してフィレンツェのウフィツィ美術館、科学技術博物館等の調査も予定している。
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Causes of Carryover |
26年度の外国旅費について、日程調整の不具合があり、調査可能な期間が短かくなった。そこで、移動にかかる時間を考慮した南フランスに的を絞った行程としたため、想定予算を下回る支出となった。また、学会発表の場の一つである日本建築学会九州支部報告会が地元熊本で開催されたので、国内旅費についても支出していないことが大きな理由である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
27年度の調査においては、円安、燃料費の値上がりなど想定以上の費用が掛かることが予想されるが、前年度の繰り越し分をそれに充て、2週間程度の調査を予定している。国内旅費については、東海大学湘南キャンパスでの建築学会大会、九州における研究報告会での発表のための使用を予定している。物品費としては関連書籍の購入のみを計上し、消耗品費については建築詳細の撮影用レンズの他は予定していない。謝金等、その他については、研究書籍の複写等を予定している。各費目について、全体経費の90%を超えることはない。
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