2014 Fiscal Year Research-status Report
失われゆく石蔵の歴史的、技術的特徴と再生活用に関する研究
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26630286
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Research Institution | Waseda University |
Principal Investigator |
柏木 裕之 早稲田大学, 総合研究機構, 招聘研究員 (60277762)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 石造建築 / 石蔵 / 大谷石 / 採石場 / 石工 / 石造技術 |
Outline of Annual Research Achievements |
平成26年度は凝灰岩系、花崗岩系それぞれの石材について、採石場の現況調査および工具の資料収集、石蔵等の石を用いた建造物の調査を行った。 凝灰岩系の石材では、北関東から東北地域を中心に、大谷石(栃木県宇都宮市)、院内石(秋田県湯沢市)、房州石(千葉県富津市)等について現地調査を実施した。特に宇都宮では大谷石を用いた石蔵や石塀が集積する上田地区を対象に集落の悉皆調査を行った。この調査はNPO大谷石研究会と共同で進められたもので、これまでに同じ宇都宮市内の西根地区および上田原地区で石蔵調査を実施してきた。大谷石建築が面的に残る3地域の基礎的なデータを得ることができ、それぞれの成立事情や石蔵の技術的な共通点、相違点を比較する環境が整った。大谷地域は現在も石の産地として知られており、宇都宮市も「石のまち」を前面に出した地域の活性化を目指しているが、海外の安価な石材に押され、石材産業は活況を呈しているとは言い難い。特に職人の高齢化が問題となっており、傷んだ歴史的な大谷石建築の修復を行う技術者が不足している。現在、職人の養成を目指した取り組みが進められており、講師の一人として本研究の成果を伝えた。また大谷地区では閉山した地下採石場の陥没事故や産業廃棄物の不法投棄が社会問題となっており、跡地利用は喫緊の課題である。各地の採石場の現状や跡地利用の取り組み事例を収集するとともに、比較資料として廃坑となった鉱山施設の利活用や産業遺産としての整備について、常磐炭田の事例などを整理した。このほか、凝灰岩石材を用いた石蔵の技術的研究も進め、院内石を用いた秋田地方の石蔵、深岩石および大谷石による古河地域の石蔵などを現地調査し、組積技術の地域的な相違点を検討している。 花崗岩系の石材については、瀬戸内地域を中心に調査を実施した。特に小豆島の花崗岩について現地調査を実施し、古文書の分析や小道具の実測等を行った。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
日本国内の採石場を訪ね、現況調査を行っている。凝灰岩系の採石場を優先的に進め、これまでに現役で稼働する国内の主要な採石場を訪ねることができた。これは石材専門誌「月刊石材」の代表者の協力が大きく、各地の石材関係者を紹介していただき、研究をスムーズに進めることができている。また石垣保存協議会を通じて花崗岩の採石業者や伝統的な組積技術者と連絡を図ることができ、聞き取り調査などを進める環境が整いつつある。そのため研究は概ね順調に推移していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
採石から運搬に至る一連の技術と工具類の使い方について、特に柔らかな石材である凝灰岩を中心に、地域的な相違点に着目して研究する計画である。また石材を用いた建造物の一つとして石蔵に注目し、その組積技術の地域的な特徴を提示する計画である。 石材の産地では石蔵が多数作られたが、生活様式の変化に伴い、建造当初の役割を終えた石蔵も少なくない。先の東日本大震災では軽微な被災にもかかわらず、こうした理由で多くの石蔵が取り壊された。法規上の制約で石蔵の新造が事実上不可能な今、現存する石蔵は貴重な遺産であり、再生の可能性や手法を広く提示する計画である。 採石場に残る鑿痕は、岩山に人が素手で立ち向かった痕であり、迫力のある魅力的な場所である。石材の切り出しや搬出のための諸設備も含め、採石関連施設を産業遺産として活用するための方策を、鉱山史跡等の類似事例を参照しながら検討する計画である。
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Causes of Carryover |
冬季に計画していた採石場および石蔵の調査が、日程および悪天候などの理由により延期となり、購入を予定していた機材および調査予算を次年度に繰り越したため。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
凝灰岩採石場および石蔵の調査を6月から7月にかけて実施する計画である。
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