2014 Fiscal Year Research-status Report
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26630302
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Research Institution | The University of Tokyo |
Principal Investigator |
溝口 照康 東京大学, 生産技術研究所, 准教授 (70422334)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 非晶質材料 / ガラス / ドーパント / 収差補正透過型電子顕微鏡 / 原子分解能計測 / 第一原理計算 / 材料設計 |
Outline of Annual Research Achievements |
本申請研究ではナノ計測と理論計算を複合利用して,SiO2ガラスに代表される非晶質材料ガラス内におけるドーパントの分布や,分相をナノレベルの空間分解能で明らかにすることを目的としている.具体的には,系統的にHAADF-STEM像観察と像シミュレーションを行い,非晶質中の元素を可視化するための最適条件(試料厚さ,電子線収束角,HAADF結像角,フォーカス,原子番号差など)を決定する.さらに,複数の元素を添加した系について原子分解能ELNES測定を行い,重元素だけではなくAlやPなどの軽元素の分布も原子分解能で明らかにするとともに,ELNESの微細構造のシミュレーションを用いて軽元素と重元素間に働く相互作用を調べる. 平成26年度においてはSiO2ガラス中の種々のドーパントの構造解析とHAADF像シミュレーションを行い,ガラス中のドーパントを可視化するための観察条件を系統的に解析した.特に,ガラスに添加されて広く使用されているEr,U,Nb,Fe,Ge,Biについて解析を行い,重元素と軽元素ともに可視化するための条件を明らかにした.さらにSTEM-EELS測定を行い,ガラスの分相をナノレベルで可視化した. さらに,本研究で確立された材料中ドーパント可視化法と組成分布可視化法を用いて他の材料に適用した研究を行った.まず,シンチレーターとして用いられている結晶材料中の発光中心元素の可視化を行い,結晶の場合においてもその分布が非周期になっていることを明らかにした.さらに,ガラス化過程の知見を得ることを目的として,溶融塩のSTEM-EELS解析を行った.その結果,高いエネルギー分解能を用いた単色化EELS法を用いることで原子の振動構造の解析に成功した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
当初計画における平成26年度の目的は1)非晶質材料内の添加元素を可視化するための最適条件の探索と,2)軽元素分布のナノレベル計測である. 実際に1)については,電子ビームの収束角,HAADF結像角を変えた実験とSTEM像計算を系統的に行い,焦点深度―空間分解能―元素識別能を最適化した非晶質材料解析のための最適条件を決定した.特に,ドーパントとしてU,Nb,Fe,Ge,Biを選択し,解析を行った.その結果,重元素はよく可視化できるのに対し,原子番号がSiに近くなるにつれその可視性が悪くなることが分かった.さらにシミュレーションを系統的に行い,通常の条件では可視化することが困難な軽元素ドーパントを可視化するための条件を明らかにすることができた. また,2)については,HAADF-STEM法では検出が難しい元素番号が母相とほぼ同じ組成のガラスについて電子分光法を併用した解析を行った.具体的にはSiO2とAl2O3のガラスを用いて,その分相状態をSTEM-ELNESによって解析した.その結果,数nmほどの微細な分相を明瞭に可視化することに成功した. 以上のように当初の目的である上記の1),2)がほぼ達成されていることから「おおむね順調に進展している」といえることができる.
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度においては,平成26年度に得られた結果を学術論文や学会等で発表していくとともに,これまでに得られたELNESスペクトルを第一原理計算により解析し,添加元素近傍の結合状態と重元素との相互作用を明らかにする.本解析により,化学結合(共有結合性,イオン結合性等),配位環境(4配位,6配位等)に関する詳細な情報を得ることができると期待される.さらに,重元素ドーパントから取得されるELNESを解析することにより,遷移金属やランタノイドの価数やスピン状態に関する情報を取得できる.また,母相のSiO2領域から計測されるSi-L2,3端も解析する. これら得られた実験的なELNESと,ELNESの理論解析を用いることにより,母相-ドーパント相互作用を高い分解能で明らかにし,非晶質材料設計のための指針を確立することを目指す.
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Causes of Carryover |
本申請研究ではHAADF像を定量的に解釈するための像シミュレーションが重要な役割を果たす.当初の予定では,非周期構造は複雑であり,信頼性のある像シミュレショーションのためには大規模な非晶質モデルを用いた計算が不可欠であると判断したため,平成26年度に既存計算機のメモリ増設を予定していた.しかしながら実際に研究を進めた結果,シミュレーションで用いたスライスを反復利用することで,モデルのサイズを大きくすることと同等の結果を得ることができることが明らかにした.同手法を用いることで,計算速度が飛躍的に向上するとともに,メモリ消費を大幅に抑えることができた.その結果,当初予定していた像シミュレーション機に対するメモリの増設は行わなかった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
その一方で,ELNESスペクトルの理論計算については,当初予定していた300原子程度の計算では非晶質材料から取得される実験スペクトルを再現できないことが平成26年度に行った予備的な検討で明らかとなった.つまり,今後は当初予定してなかったELNESスペクトル用計算機の増強を行う必要がある.そこで,平成27年度において平成26年度から持ち越された予算をELNESスペクトル用計算機の増強に用いる予定である.
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Research Products
(14 results)