2015 Fiscal Year Research-status Report
走査型プローブ顕微鏡を応用した固体表面上1分子の電荷状態変化の測定
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26630330
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Research Institution | Japan Advanced Institute of Science and Technology |
Principal Investigator |
富取 正彦 北陸先端科学技術大学院大学, マテリアルサイエンス研究科, 教授 (10188790)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 走査プローブ顕微鏡 / 表面・界面物性 / 電荷移動 / エネルギー散逸 / 分子計測 |
Outline of Annual Research Achievements |
走査型プローブ顕微鏡(SPM)を利用して、独自開発の技術(SPM探針と試料間の距離および印加電圧に対する両者間の相互作用力・電流・エネルギー散逸の高感度計測技術、探針の先鋭化・清浄化技術)を基に、SPM探針先端と試料表面の間に挟持されている1分子の電気伝導インピーダンス特性、とくに電気容量の変化と電荷移動に伴う過渡電流をナノ力学的に高感度(aF (10-18ファラッド) )・高速で計測する手法を開拓することが、本研究の目的である。本年度、室温動作の超高真空(1×10-11 Torr)非接触原子間力顕微鏡(nc-AFM)(SPMの一種、原子分解能を持つ)2台を利用して実験を進めた。一方は、ピエゾ抵抗Siカンチレバーを力センサーとして利用したnc-AFM、他方は、音叉型水晶振動子を力センサーとして利用したnc-AFMである。前者では、相互作用力、およびトンネル電流、エネルギー散逸の同時測定、後者では高速チャージアンプを利用した変位電流応答の同時測定を前年度に引き続いて行った。前者で、トンネル電流が検出されない程に探針と試料表面が離れているときは、静電気力による力センサーの共振周波数の変化がエネルギー散逸に比例すること見出した。この関係を、古典的電極モデルに基づき、エネルギー散逸が試料と探針の間の静電容量によってもたらされると仮定し、定式化することができた。また、トンネル電流が流れ出すと、エネルギー散逸に特異な現象が現れることを見出した。現在、その原因を検討している。後者では、探針と試料間の高さを一定に保つnc-AFMのモードで、また印加電圧は0Vで探針を走査して、チャージアンプの出力にSi(111)7×7表面の原子像が観察されることを確認した。接触電位や試料探針間の静電容量を考慮したモデルをAPEX誌に発表し、注目論文(Spotlights)に選定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
原子分解能を達成している自作の2台の超高真空nc-AFMを基盤に、それぞれの特長を活かして、静電容量に係わるSPM計測の可能性を広げた。エネルギー散逸測定では、電流を流すことによって加熱できるピエゾ抵抗Siカンチレバーの特長を活かした。具体的には、カンチレバーを600℃程度に加熱し、振動子として持つカンチレバーのQ値を大幅に高めることができた。これによって、エネルギー損失の探針―距離依存性測定の感度を高くすることができた。また、高ドープされたSiの電気伝導性がトンネル電流などの電気特性測定に有効であった。この処理によって、Si探針先端が清浄化される利点も有効であった。 接近した2電極としての探針―試料系のモデル化も進め、相互作用力、エネルギー損失の関係を簡素に説明することができた。 一方、高速チャージアンプの出力を新たな計測量として原子を観察する手法の確度も高まった。古典静電気学的なモデルを検討し、この信号の解釈を明確にすることで、既報のケルビンプローブ力顕微鏡の原子像および報告されている数値と対応させることができた。具体的には、探針と試料の高さを一定に保ちつつ適切に高速走査すると、チャージアンプの出力を2次元マッピングすることによって原子像が観察され、この原子スケールのコントラスト変化が原子スケールの接触電位差の変化に対応することがわかった。その効果として、探針の走査方向を逆にすると、交流アンプとしてのチャージアンプの応答時間に応じた原子コントラストの位置シフトを観察した。一方、探針の試料表面上の位置を固定したまま、力センサーを振動させながら探針を試料に接近させたときの高速応答を測定し、積分することによって、探針と試料の静電容量の変化を推量できることがわかった。チャージアンプは、原子スケールの接触電位差や容量の精密測定に応用できることを明確にした。
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Strategy for Future Research Activity |
nc-AFMが開発された当初から、エネルギー散逸量を2次元マッピングすることによって原子コントラストを示す像が得られ、その応用計測が注目されてきた。しかし、nc-AFMそのものを含めて、原子像の再現性が必ずしも無く、また、解釈が難しいという点があり、広範囲な計測には応用されていなかった。一方で、原子分解像を液中や大気中でも観察できる顕微鏡としてnc-AFMは近年、注目を浴びている。今後の新奇なデバイス応用や原子スケールの電子状態測定を実現するうえで、nc-AFMを用いた多角的な原子スケール計測の道を開くことは重要である。前述したように、通電による自己発熱で加熱できるピエゾ抵抗Siカンチレバーで測定することによって、再現性や感度が上昇した本研究の成果を広めるためには、その解釈をさらに進化させることが必要と考える。とくに、原子像が得られるほどに接近させた探針と試料表面の間で起きる現象は、量子力学的な効果が原因しているのか、不可思議な挙動を取ることがある。この挙動の解析を実験的にもさらに進め、併せてモデルを構築する。探針と試料間の静電容量に注目しながら、相互作用力、トンネル電流とエネルギー損失の関係を詳細に調べる。一方、チャージアンプを利用した計測手法の可能性を広げるため、チャージアンプの出力に現れるノイズの低減化を図る。また、nc-AFMではなく、走査型トンネル顕微鏡(STM)を用いて探針と試料の高さを一定に保ちながら走査して、特定の周波数帯域を持つチャージアンプにどのような過渡応答が現れるかを調べる。試料として、水素やアンモニアなどの分子で終端したSi表面を調製して本手法を適応することによって、本手法の可能性を広げる。
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