2014 Fiscal Year Research-status Report
放射性ステンレス微粒子を含む原発汚染水の浄化をねらう磁気分離技術の研究
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26630377
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Research Institution | Niigata University |
Principal Investigator |
岡 徹雄 新潟大学, 自然科学系, 教授 (40432091)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 磁気分離 / 高温超電導 / 浄水 / 冷凍機 / 極低温 / 磁性 / 磁化率 / 磁気力 |
Outline of Annual Research Achievements |
東京電力福島第1原発内や周辺の環境水の放射性ステンレス微粒子に対して高度な浄水技術を開発する。既存技術で大量処理された汚染水をさらに清浄化して、飲料用に再利用可能な高度な浄水を目的とし、初年度の基礎的研究を実施した。汚染水は制御棒や燃料棒など配管類の金属成分やその錆を含む混合水であり、鉄やニッケルを含む金属片や粒子は放射化された可能性がある。通常のステンレスや鉄分は環境や人体に悪影響を及ぼさないため廃棄に問題はなく排水基準はない。しかし、ここで、放射化した鉄の半減期は3年、ニッケルは90年であって、放射化されれば低濃度であっても人体に内部被ばくをもたらす可能性がある。 本研究の初年度である平成26年度の取組では、ニッケルを含有する種々のステンレス微細粉末を試料として3種類のステンレス粉末を用意し、その一部を熱処理して磁性を変化させ、その初期ならびに加工・環境履歴によって変動する磁気特性を実験的に把握した性質を評価した。次いでこれらが簡便な磁気分離装置によって磁気分離法による吸着分離・除去の可能性について評価した。 実験の結果、磁性をもつ材料はそれぞれ異なった磁気特性をもち、SUS430で最も強い飽和磁化と透磁率をもち、粉末状態に加工されたSUS304がこれにほぼ匹敵する強い飽和磁化を示した。オーステナイトの安定なSUS316では熱処理の有無によって飽和磁化は分散したが、ほぼ上記2つの試料の1/3程度の弱い飽和磁化をもつことが確かめられた。磁気分離実験については、流量が低く処理速度の遅い領域においては、解放勾配磁気分離OGMSに対する高勾配磁気分離HGMSの優位性が明確となったが、SUS304で84.0%、SUS430では98.9%の、いずれも高い分離性能が示された。とくにHGMSでの5分間の実験ですでに99%以上の飽和現象がみられた。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年計画の当初からの初年度項目に計画どおりの成果が得られている。 初年度は①各種ステンレス微細粉末の磁気特性の把握と、②磁極吸着現象の簡便な評価という2項目を行った。 ステンレス粉末の諸性質を明確にするための実験的評価を実施した。試料SUS304の体積磁化率(初期)は0.00613、平均粒径r(μm)は8.451、平均体積Vpは3.16E-10m3、透磁率μ0は1.26E-06、最大磁気力場は72.9T/m2、磁気力の評価は0.000112Nとなった。最大1.55Tを発生する超電導バルク磁石の左極のみを使用した解放勾配磁気分離OGMSによる実験を行った。実験溶液2L、流量2L/minで分離時間10minに最大分離率72.05%の高い分離性能が得られた。バルク磁石を1.9T(左)、2.2T(右)としたところ、OGMSでは分離率79.37%、HGMSでは分離率99.58%の非常に優秀な分離性能が得られた。これによってHGMSの著しい有用性が示され、OGMSではより大きな磁場と時間が必要となる課題が明らかとなった。 ステンレス3種類(SUS304,SUS430,SUS316)とこれを熱処理した2種類の磁化率の測定と磁気分離を実施した。SUS304は冷却管などに使用される。SUS316は非磁性だがNiを増して耐食性の向上がなされ、Mo添加されている。文献によるとオーステナイトがSUS304より安定である。熱処理されたステンレス試料については、600℃の1時間加熱をSUS316に、850℃の1時間加熱をSUS316に対して実施した。SUS316は体積磁化率が他二つと比べて飽和磁化と磁化率が共に低く、熱処理で変化しやすい。SUS430は磁化特性が他と明らか異なり、強磁性体特有の性質をもつことがわかる。ここから、非磁性のSUS316の高勾配磁気分離HGMSを行った。
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Strategy for Future Research Activity |
磁気分離によって有効な浄水効果が、ステンレス微細粉末に対して有効であることが原理的、実験的に立証された初年度の取組に続き、鉄分やステンレスの様々な磁化の状態によって、その有効性を評価実証する必要があり、最終年度の取組は、実際に種々の材料の磁気特性や物理性質と分離性能の体系的な整理を行う。また、通常の永久磁石での効率的な回収は困難と予想されるが、電磁石による分離性能についてもその性能の有効性の有無を調査する。当初の予定に従い、小規模で可搬型の新規システムを構築するための検討を行うが、本技術の守備範囲の明確化と実際の適用課題の洗い出しを行う。本件の独自技術として、大型の超伝導磁石に比べて小型で安価に強磁場が発生できる超伝導バルク磁石装置を用いることで、設置場所を選ばない、生活圏に密着した、近未来型の産業創出が期待できるかどうかという課題に対して、分離性能だけでなく、浄化した後の浄水の性質についてもICP等の分析を通じて確認していく。 基礎的な分離性能を明らかにした前年度の実績と知見に立ち、磁性フィルタを使った高勾配磁気分離を、各種さまざまな磁性をもつステンレス微細粒子の、連続的に処理できる磁気分離装置による磁気性能を評価する。この処理水量に対する磁性物質の分離性能を評価する。 他方、特許の充実を図って、将来の事業化への見通しについて検討を加え、新たな競争的資金の獲得に向けた活動を進めていく。この過程で、ステンレス微細粒子のスラリー化と濃縮状況を測定して、磁気分離による除去の効果を評価する。本実験の成果による環境水の浄水効果を明らかにして、「飲める水」をめざした分散設置型の浄水技術としての実用上の見極めを行う。
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Causes of Carryover |
実験進捗が早かったため、平成27年度予定の「連続・間欠・磁気分離装置」の製作に目途が立ち今年度中に完成することから、平成27年度予定の移動機構部品の前倒し執行が必要となった。加えて磁極の着磁に必要な実験費の新規発生により、平成27年度予定の着磁治具を今年度に執行する必要があった。それに際し実験作業等が増えるため一部の人件費に前倒して使用した。磁気分離装置の完成を受け、技術調査と成果報告の必要から技術調査旅費と学会発表が必要になり、来年度予定の共同実験出張、産学連携での調査出張、磁場形成に関する学会発表に一部の執行が必要となった。これに伴う管理業務の増加により間接費を前倒し使用した。次年度の実用性調査と先進性の確保を間隙なく実施するため、着磁治具と移動機構部品の物品費ならびに、上記出張旅費を前倒しして実施した。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
平成27年度予算の前倒しによって、平成26年度はおもに装置の早期完成と、技術調査や成果公表の早期実施が望めるため、年度当初から連続的に処理できる3Tの強磁場による磁気分離装置による処理水量に対する磁性物質の分離浄化の性能評価を行う。汚染水と環境水を磁気分離してその浄水効果と微細粒子の濃縮効果を評価するが、バルク磁石材料などの材料改良による強磁場化も志向する。前年度に基礎的な分離性能の明確化が完了し、磁性フィルタによる高勾配磁気分離の目途がつくことから、処理水量に対する分離性能など総括的なシステム性能の評価が可能となりこれを行う。浄水技術としての実用性の見極めを年度早期に行って、協力企業との研究体制を構築していく。前倒しによって、最終年度の平成27年度末を待たずに基本的な実験を終了するため、まとめの時期の人件費の一部や間接費の予算は上述のように早期執行により若干減額して執行する。
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[Journal Article] Magnetic separation technique using high temperature superconducting bulk magnets and application to plating liquid waste treatment2014
Author(s)
T. Oka, H. Fukazawa, N. Yoshizawa, Y. Takayanagi, J. Ogawa, S. Fukui, T. Sato, M. Ooizumi, M. Tsujimura, K. Yokoyama,
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Journal Title
J. Jpn. Soc. Powder Powder Metallurgy
Volume: 61
Pages: S164-166
Peer Reviewed
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