2014 Fiscal Year Research-status Report
細胞表層設計に基づいた希土類金属の高度分離のための新規吸着剤の開発
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26630394
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
後藤 雅宏 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 教授 (10211921)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
久保田 富生子 九州大学, 工学(系)研究科(研究院), 助教 (60294899)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | レアメタル / 金属吸着 / 吸着材 / 金属分離 / バイオソープション / 細胞吸着 / 希土類金属 / レアメタルリサイクル |
Outline of Annual Research Achievements |
バイオソープションは、従来の溶媒抽出法より環境への負荷が小さいため、金属回収法の新たな方法として注目されている。特に大腸菌は、次世代型の金属吸着剤としての応用が期待されている。しかし、大腸菌をそのまま用いると、吸着量や選択性がその細胞膜の組成に大きく依存する。そこで、本研究では、その吸着能力と選択性の向上を目的とし、本年度は、大腸菌細胞膜上の官能基の化学修飾を行った。 本研究では、このジグリコールアミド酸型の配位子を大腸菌へ化学修飾することで、希土類金属に対して高い選択性を有するバイオ吸着剤の開発を試み、その金属吸着能を評価した。各種希土類金属 (ネオジム (Nd3+)、ジスプロシウム (Dy3+)、ルテチウム (Lu3+))を含むモデル水相を調製し、化学修飾大腸菌および未修飾大腸菌を用いて、吸着率に対するpHの影響を検討した結果、未修飾大腸菌と比べ、pH 2~3における吸着率が著しく増加することが分かった。 次に、吸着剤の選択性を検討するため、希土類金属と一般金属の吸着挙動を比較した。未処理大腸菌を用いた場合、希土類金属の定量的な吸着が可能となるpHでアルミニウム (Al3+)や銅 (Cu2+)が80 %以上吸着されるため、これらの金属と希土類金属の分離は困難である。しかし、化学修飾大腸菌を用いた場合、希土類金属と一般金属の分離性能が大きく向上した。 さらに、未修飾大腸菌を用いた場合、Langmuir型の吸着等温線が得られ、飽和吸着量Qmaxはそれぞれ、30.9、32.7、43.8 mg/ gであった。しかし、化学修飾大腸菌の場合、吸着量は指数関数的に増加しFreundlich型の吸着等温線が得られ、吸着挙動が変化することがわかった。また、その希土類金属の吸着量は80 mg/ g付近で平衡状態に達し、未修飾大腸菌と比べて最大で約2.5倍増加することが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度の提案プランに従い、細胞表層に、希土類金属と特異的に相互作用する官能基を導入し、希土類金属をより高度に分離する新規吸着材の開発に成功した。 具体的には、希土類に対する吸着能力と選択性の向上を目指すことを目的に、大腸菌細胞膜上の官能基の化学修飾を行った。本研究では、最近溶媒抽出の新規抽出剤として注目されているジグリコールアミド酸型の配位子を大腸菌へ化学修飾することで、希土類金属(特にNdとDy)に対して高い選択性を有するバイオ吸着剤の開発を試み、その金属吸着能を評価した。 その結果、ジグリコールアミド酸型の配位子を化学修飾した大腸菌を用いた場合、未修飾大腸菌と比べ、pH 2~3の領域における希土類の吸着率が著しく増加することが明らかとなった。この成果は、大腸菌に希土類金属に強い親和性を有する官能基を表面修飾することにより、希土類金属の吸着能力を増強できることを示すものであり、今後希土類金属の高度分離剤の開発に有用な知見を与えるものと考えている。 以上のように、本研究は、おおむね順調に進展していると考えられる。
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Strategy for Future Research Activity |
ジグリコールアミド酸骨格の化学修飾により、大腸菌の希土類金属への選択性およびその吸着容量を改善することに成功した。さらに、大腸菌表層を適切に設計することにより、吸着剤としての性能を制御可能であることが示された。しかし、今回の化学修飾法において、反応条件が大腸菌細胞にとって厳しい条件であるため、最終的に得られる吸着剤の量が少量であることなどの問題点が生じた。そこで、今後は、目的金属に親和的な官能基に脂溶性分子を修飾し、脂溶性分子と細胞膜との相互作用を利用して、目的の官能基を大腸菌細胞にとって温和な条件で導入することにより、細胞表層設計に基づいた新規バイオ吸着剤の開発を検討する計画である。 また、大腸菌外膜タンパク質の細胞表面に位置するペプチド部分と、表面に現れるC末端側とを、金属の認識素子としてデザインすることによって、特定金属の細胞表面での吸着を可能とする。すなわち、ここに希土類金属に特異的に結合するペプチドを挿入することによって、大腸菌表面に希土類高選択的な分離場を構築する。 さらに、新規に調製した、吸着剤を用いて、モデル溶液を用いて希土類金属の吸着分離性能を検討する。希土類金属と一般金属の分離、希土類金属間の分離を行い、その性能を明らかにするとともに,吸着分離条件の最適化を行う。また、実溶液への応用も検討する。
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Causes of Carryover |
本研究計画を遂行するための主な装置・設備は,これまで研究室で蓄積した設備にて,ほぼ賄うことが可能であった。特に研究計画の初年度は、主に細胞表層の化学修飾を中心に研究を実行したため、実験操作に必要な物品費が従来から揃っており、高価な試薬や器具等の支出を必要としなかった。また、次年度に、遺伝子組み換え等高価な試薬を必要とする研究を行うために、意識的に次年度に繰り越しを行った。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
消耗品費は、本研究の特殊事情として,遺伝子組み換え用のDNAと培養および分析関連の試薬が必要となる。また、次年度は、金属分析のためのICP-AESにかなりのアルゴンガスを要するため,特別に計上する。あとは、その他合成試薬と種々金属塩、ガラス器具類が中心となる。 旅費としては、化学工学会、イオン交換学会および生物工学会などの年次大会での研究成果発表ならびに情報収集のための旅費を計上している。また、希土類金属親和的なペプチド配列を見いだすため、かなりのアミノ酸配列の合成を行う必要があるため、資料整理の要員と併せて人件費を計上した。その他,論文投稿の際の英文校閲費もあわせて計上している。
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