2014 Fiscal Year Research-status Report
セルロースとの共熱分解による無機塩化物のスプリッティング
Project/Area Number |
26630400
|
Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
林 潤一郎 九州大学, 先導物質化学研究所, 教授 (60218576)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | セルロース / 無機塩化物 / アルカリ金属 / アルカリ土類金属 / 有機酸 / 熱分解 / 塩酸 / 水熱分解 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は,セルロースと金属塩化物混合物を加熱することによってセルロースの水素および塩化物の塩素から塩酸・有機酸を生成し,同時にセルロース含酸素官能基への金属カチオンの固定(アルカリ水溶液源生成)による「塩化物スプリッティング」が可能かどうかを検証することを主目的とし,炭素資源を利用する酸・アルカリ製造の科学の開拓を目指すものである。本研究では,当初,セルロースとNaCl混合物の不活性雰囲気における加熱(熱分解)を実施したが,期待されたHClの生成・揮発は顕著には進行しなかった(この反応系は,分析法等に問題がある可能性があり,次年度に再度検討の予定)。そこでセルロースとNaClの接触に限界,制限がある可能性を踏まえ,NaCl水溶液中でセルロースを加熱し,その時に起こるセルロース変換反応を調べた。 セルロースを熱水(180°C~220 °C,加圧)に加熱したところ,水溶液中のNaClはセルロースの加水分解(単糖,多糖生成を伴う溶解)と溶解物の炭化物への再析出を著しく促進することが判った。水溶液のpHは,2あるいはそれを下回る値にまで低下した。CaCl2水溶液の場合にはpHは1.5未満に低下した。このようなpHの低下は,同定・定量済の有機酸の生成のみによって説明することが難しく,HClの生成,さらには,ClイオンのカウンタイオンであるCa2+,Na+が析出固体(炭化物)中になんらかの化学形態で取り込まれた可能性が示唆された。NaCl水溶液中でセルロースを加熱すると,単糖・多糖から数種の有機酸およびフラン類が生成したが,なかでもレヴリン酸の生成は顕著であり,その収率は20%(炭素基準)を超える条件も見出された。水熱条件下のレヴリン酸生成はすでに知られているが,高収率を得るためには比較的高価な触媒が必要である。本研究は安価・簡便な方法によるレヴリン酸の製造が可能であることを示した。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
研究実績概要に述べたように,本研究では当初計画したセルロース・金属塩化物混合固体の熱分解とは異なり,金属塩化物水溶液(熱水)中でセルロースを加熱する反応系に関して新知見を得た。当初の研究目的に照らせば,金属塩化物のスプリッティングの可能性を示唆する実験事実(有機酸の生成のみでは難しい水溶液のpH低下等)を既に得ている。平成27年度は,反応生成物の分析(有機酸,フラン・ケトン類,固体のキャラクタリゼーション)を検討する計画であったが,これらはいずれも実施し,特に析出固体に関しては迅速熱分解,固体NMRを含めた詳細な分析と構造評価を実施することができ,反応機構の解明(平成27年度)の準備が整った。一方,塩素と金属イオンの挙動に関しては,十分な知見を蓄積できていないので,平成27年度に固体の分析,とくに金属イオンの固体への取り込みを調査する。加えて,固体熱分解によるHCl生成について再確認のための試験・分析を実施する課題が残った。塩素イオンのカウンタイオン種に関しては,計画を前倒ししてCaCl2,MgCl2のセルロース水熱分解促進効果を調べ,NaClを超える顕著な効果を見出している。 以上の進捗状況を踏まえると,当初想定した固体混合物の不活性雰囲気中の熱分解とは異なるが,新反応系,すなわち熱水における有機酸生成に対する金属塩化物の顕著な触媒的作用,HCl 生成によると考えられる水溶液の低pH化を明らかにすることができた。さらに,高付加価値有機酸であるレヴリン酸の高収率・高選択性合成という重要な知見を得たことは予期せぬ重要な成果である。上述した検討課題への取り組みは平成27年度に問題なく実施できると考えている。このように,本研究は。1年を経過した時点で概ね順調に進捗しており,当初想定しなかった新知見も得ている。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成28年度は,以下の研究を実施し,当初計画(あるいは相当する新計画)全てを実施,目標を達成する。 1. NaClを溶解した熱水中のセルロース転換特性・機構の解明:新知見を得た昨年度の研究をさらに展開する。まず,生成物(有機酸,フラン類,糖類,析出炭素化固体)を全て同定・定量し,炭素収支を満足したうえで,レヴリン酸あるいは他の有機酸の収率を最大にする条件を見出す。 2. 塩素および金属イオンの行方を明らかにし,水溶液の低pH化の原因がHClの生成(カチオンの固体への取り込みと塩素・金属イオンの分離)であるか否かについて結論を得る。 3. 有機酸生成,水溶液低pH化に対する金属イオン種の影響,ならびに金属塩化物濃度の影響を明らかにする(濃度の影響は,NaClに関しては既に明らかにしており,水溶液中の塩化物量とセルロース水酸基の間に重要な関係があることを見出している)。 4. MgCl2,CaCl2を反応促進剤とした場合の有機酸生成量最大化に挑戦し,安価・安全なケミカルズを用いた有機酸製造プロセスを提案する。 5. 塩素の挙動は十分に解明できていなかった固体混合物(セルロース・金属塩化物)熱分解を新たな生成物回収系を開発,適用して実施し,固体反応系における金属塩化物スプリッティングと有機酸生成の程度を明らかにする。
|
Causes of Carryover |
本研究は,当初目的を達成するために,主たる反応系を気固系から加圧熱水系へと変更した。水熱反応系は,耐圧・耐蝕性反応容器や周辺設備が必要であり,生成物の分離,回収,分析にもより多くの消耗品,経費が必要となる。そのため,平成26年度研究ではこれらの経費を可能な限り抑制し,より多くの実験的検討と分析が必要になる平成27年度研究に当初よりも多くの経費を使用する計画を作成した。そのために,平成16年度の当初経費の一部を平成27年度に繰り越しした。
|
Expenditure Plan for Carryover Budget |
経費の多くは,水熱反応実験と生成物分離・回収・分析に必要な消耗品費に充てるが,固体混合物の熱分解反応実験に必要な経費(消耗品費)も計上する。また,期間を限定して研究補助員を雇用(二ヶ月以内)し,計画する多くの実験・分析を完了できるように工夫する。
|