2015 Fiscal Year Research-status Report
太陽追尾が不要で高効率な集光型太陽光発電のための要素技術の研究
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26630499
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Research Institution | Ritsumeikan University |
Principal Investigator |
藤枝 一郎 立命館大学, 理工学部, 教授 (90367996)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 蛍光 / 液晶 / 色素 / 異方性 / ディスプレイ / コントラスト |
Outline of Annual Research Achievements |
H27年度は,液晶材料と蛍光体色素を含むLuminescent Solar Concentrator (LSC)に関わる3つの課題(1. 蛍光体の近傍に反射構造を配置する構成,2. 発光の異方性の定量化,3. ディスプレイ応用の基礎検討)に取り組んだ.具体的には以下の通りである. 1の反射構造の目的は,蛍光がLSCの透明基板の端面に到達する確率(導光効率)を1に近づけることである.光の損失の一因は “escape cone”の存在である.これは基板材料と空気の屈折率の差で決まるため,基板の断面をV字状にすることにより解決できる.実験では蛍光体色素クマリン6を含む液晶セルの表面に断面がV字状のアクリル部材(傾き45°)を密着させ,セルの端面に到達する蛍光の強度が約2倍に増加すること,セルへの印加電圧により導光効率が変化することを確認した.この成果は応用物理学会秋季学術講演会で報告した. 2については,昨年度に色素を含むanti-parallel (AP)配向の液晶セルを評価した.H27年度はtwisted nematc (TN)配向の液晶セルを用いて同様の実験を繰り返した.TNセルでは表面から放射される蛍光の偏光状態が90°回転する点が異なる.この成果は応用物理学会春季学術講演会で報告した.但し,印加電圧への依存性を含むTNセルの発光の現象はAPセルよりも複雑で,これを説明するモデルの構築は今後の課題である. 3については,発電機能付きの表示装置の構成を考案した.強度を変調したレーザー光をLSCに入射することにより画像表示する.発光が異方的な液晶/色素セルを用いれば,印加電圧により表示と発電に用いる蛍光の量を調整できる.従って,例えば電子看板として,夜間は表示,昼間は発電を優先するといった使い方が可能になる.但し,外光により表示のコントラストが劣化する.液晶/色素セルの基礎的な特性を評価した実験結果を2月にSan Franciscoで開催されたSPIE Photonics Westで報告した.また,3月には国内での特許出願を完了した.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究の目的は,集光型太陽光発電への応用を念頭に置いて,1. 蛍光材料の発光方向を制御する技術と,2. 太陽光の入射方向の時間変化を勘案した光学系に関わる技術を創出することである. 目的1についてはH26年度に大きく進展した.即ち,第一の手段(色素を含む液晶セルの技術)に関して,セルへ印加する電圧を変化させると発光の異方性が変化することを実験で確かめ,電気双極子に基づくモデルを考案して実験結果をほぼ再現できた.H27年度には,第二の手段(蛍光体の近傍に反射構造を配置する構成)の有効性を実験により確認した.また,異なる配向方式の液晶セルについて試作と特性評価の実験を繰り返し,液晶/色素セル技術に関する理解を深めた.更に,液晶/色素セル技術のディスプレイや照明としての応用を考える過程で「発電装置および発電システム」の発明に至った.以上より,目的1の技術がLSCの効率低下の一因であるescape coneの課題について有効な解決策であることを実証できた.尚,この課題はLEDやOLEDにも共通なので,これらの素子にも適用可能と思われる. LSCの効率低下のもう一つの原因は,色素自体が蛍光を吸収する現象(自己吸収)である.このため,量子ドット等の材料研究が盛んである.本研究課題では,この種の材料科学ではなく光学的なアプローチにより自己吸収の課題を解決する.そこで,目的2の光学系の研究が重要になる.残念ながらH27年度にはこれには殆ど取り組めなかった.その原因は,前述の「発電装置および発電システム」の発明に至り,その基礎実験を優先したためである.目的2に関しては,過去の関連の成果(T. Kamimura, et al., Proc. SPIE 8821, 88210E, 2013)を適用してH28年度中に達成できると考えている. ディスプレイ応用の発明と基礎実験に関しては予定を上回ったが,目的2の実験の先送りを勘案して,「概ね順調」と捉えている.
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Strategy for Future Research Activity |
H28年度は,目的2の実験に着手する.太陽光の入射方向は時角と赤緯で決まり,これらが変化すると集光スポットは双曲線を描く.この事実は建築分野等では日影曲線としてよく知られている.この軌跡の上にのみ蛍光体を配置して太陽光を吸収し,発生した蛍光を透明基板の端部に設置した太陽電池へ導く.この構成により蛍光体の自己吸収の課題をほぼ解決できる.具体的な実験の進め方は次の通りである.アクリル基板の表面を切削して双曲線状の溝を形成し,粉末あるいは液状の蛍光体を埋め込み,UV硬化樹脂で固定する.これをレンズと組み合せたモジュールを試作し,蛍光体にレーザー光を入射させ,基板を伝搬する蛍光の強度と角度分布を評価する.最初の実験では結果の解釈が容易になるように双曲線は1本とする.最終形態のモジュールでは365/4=91本の双曲線が必要となり,自己吸収が課題となる可能性がある.これについては次の課題とも関連するため,理論解析として独立させて実施する. 目的2の実験と並行して,当初は予期していなかった発明の「発電装置および発電システム」の研究に取り組む.これまでに基礎実験として,AP配向の液晶セルを試作して表示のコントラストと分解能を評価したが,TN配向やIn-Plane Switching (IPS)配向の液晶セルの可能性を検証する.また,これまでの基礎実験により,自己吸収の現象により分解能が劣化する兆候が見られる.量子ドット等の材料研究によりこの課題が解決できればよいが,尚,LSCの自己吸収の理論解析としては2014年に発表されたOtmar M. ten Kateらの先行論文がある(Appl. Opt. 53, 5238-5245, 2014).これは円筒状の透明基板の内部に蛍光体を一様に分散させた構成に限定されている.LSCの自己吸収は重要な課題にも関わらず,理論解析ですらほぼ未踏の分野である.
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Causes of Carryover |
発明「発電装置および発電システム」の特許出願は予期していなかったが,費用は大学が負担した.これはLSCに表示あるいは照明の機能を付加する技術で,電子看板のような大型ディスプレイから携帯機器用のディスプレイまで幅広く適用できる.類似の特許出願はなく,もし成立すれば基本特許になる.但し,外光が蛍光体に入射して発生するノイズ成分が表示画像のコントラストをどの程度劣化させるかが未知だったため,一刻も早く基礎実験を実施して懸念事項を解消する必要があった.そこで,この基礎実験を優先し,目的2の実験をH28年度に実施することにした.基礎実験では,保有している機材(レーザー,パワーメータ,分光器,素子の固定具,等)を使用して,表示性能のコントラストと分解能を評価したため,主な購入品は接触液や導電ペースト等の消耗品であった.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
研究費は,目的2の実験を実施するための機材や消耗品の購入に充当する.具体的には,双曲線状に配置した蛍光体にレーザー光を正確に入射させるための固定具,端面に到達する蛍光の強度分布を効率よく測定するための検出器,という機材に加えて,蛍光体,UV硬化樹脂,接触液,などの消耗品を購入する予定である.また,発明に関する基礎実験を継続するために必要な物品も適宜購入する.具体的には,液晶セルを試作するための消耗品(E.H.C社の「評価セル」やMerck社の液晶材料)が主な購入品になる.また,自己吸収の現象の理論解析の結果は実験で検証する必要がある.もし量子ドット等の蛍光材料が入手可能になれば購入して,現在使用中の色素(クマリン6)と比較して知見を重ねる.更に,応用物理学会の講演会や San DiegoやSan Franciscoで開催される光学関係の国際会議(SPIE)で成果を発信するための旅費に充当する.
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