2014 Fiscal Year Research-status Report
アミロイドβタンパク質のモノマーとオリゴマー動態がシナプス機能を調節する
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26640023
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Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
落石 知世 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (30356729)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
角 正美 茨城県立医療大学, 保健医療学部, 助手 (30646261)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | アルツハイマー病 / アミロイドβタンパク質 / GFP / トランスジェニックマウス / オリゴマー / シナプス / 行動解析 / 長期増強 |
Outline of Annual Research Achievements |
アルツハイマー病(AD)の病因因子であるアミロイドβタンパク質(Aβ)は容易に大きな重合体を形成することから、生きた細胞内でのモノマーやオリゴマーの機能の解析が困難であった。申請者らは神経細胞内にAβオリゴマーを発現し、その分子動態をGFP との融合タンパク質として生きた細胞内で観察可能な新規モデルマウス(Aβ-GFPマウス)を開発した。本研究ではこのマウスを利用して、シナプス内部におけるAβオリゴマーの機能の詳細を、形態学的・行動学的・電気生理学的および生化学的に解析し、さらにシナプス内部のAβの動態を1~数分子の状態から観察し、重合状態と毒性との関連を明らかにすることを目的とする。本年度は行動学的・電気生理学的解析、およびAβ-GFP分子の詳細をNMRと電子顕微鏡で解析した。その結果、Aβ-GFPマウスは比較的若い月齢で、既に空間認知能力が同腹の野生型より劣っていることが確認された。また、上記と同じ月齢のマウスの海馬スライスを用いた電気生理学的解析でも、Aβ-GFPマウスは長期増強(LTP)が野生型に比べて有意に低下していることが明らかとなった。またNMRおよび電子顕微鏡による解析では、Aβ-GFP分子はオリゴマーのみを形成することも明らかとなった。これらの結果は、本研究に用いているAβ-GFPマウスがADの発症初期あるいは発症前に既に起こり始めているとされる、オリゴマーによるシナプス障害を解析する有効なモデルであり、このマウスを用いてシナプス領域における様々な変化を解析することはADの発症予防法の開発に非常に有意義であると考えられる。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究で用いたAβとGFPの融合タンパク質分子そのものの特性をより正確に把握するため、大腸菌より精製したAβ-GFP分子を NMRや電子顕微鏡を用いて解析し、合成したAβペプチドそのものや、Aβに変異を導入し、重合を阻害することが可能なAβmut-GFP分子と比較した。その結果Aβ-GFP はオリゴマーしか形成できないことが明らかとなった。超解像顕微鏡を用いて細胞内のAβ-GFP分子を観察した結果、電子顕微鏡で観察された分子と同様の形態のものが観察された。また、Aβ-GFPマウスを用いて、モリス水迷路等の行動解析を行った結果、老齢マウスではなく、生後2~3ヶ月齢の若いマウスで、既に空間認知能力が同腹の野生型より劣っていることが確認された。上記と同じ月齢のマウスの海馬スライスを用いた長期増強(LTP)の解析では、Aβ-GFPマウスは野生型に比べてLTPが有意に低下していることが明らかとなった。これらの結果は当初の計画以上に進展していると考えられる。しかし、生体内でオリゴマーとモノマーの機能を比較検討するために作成中であるAβ-GFPモノマーマウスについて、GFPの蛍光が明確に見えるマウスが今のところ得られていないことから、当初の予定より進捗が遅れている。従って全体としておおむね順調に進展していると考える。
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Strategy for Future Research Activity |
Aβ-GFPマウスはAD発症初期のシナプス機能の解析に有効であることから、シナプス内部でどのようなタンパク質が実際にAβを関わっているのかを解析する。具体的にはシナプス領域でAβと結合する新規分子を見つける目的で、Aβ-GFPマウスのシナプトソーム画分を作成し、GFPを利用した免疫沈降を行い、Aβに結合するタンパク質を選んで質量分析にて解析する。また、超解像顕微鏡を使用してAβ-GFPマウスのシナプス部におけるAβの局在や、電気刺激を加えたときの動態変化を詳細に解析する。更に、生きた個体で、細胞内のAβの状態変化を2光子顕微鏡で観察する。また、Aβ-GFPモノマーマウスの開発を成功させ、Aβ-GFPマウスとの行動や電気生理学的違いを解析する。
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Causes of Carryover |
研究の進捗状況から、国際学会での発表は時期尚早と考え演題を出さなかったため、外国旅費を使用しなかった。また、動物飼育費として考えていた経費について、運営費交付金で全額を賄うことができたため、その分の余剰が生じた。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
通常の消耗品費の他、次年度は研究成果を国際学会で1回、国内学会で2回発表するため演題を登録し、その旅費として使用する。また、タンパク質の質量分析のため外注分析費として使用する。論文の投稿および掲載費用として使用する。
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Research Products
(3 results)