2014 Fiscal Year Research-status Report
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26640046
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Research Institution | Nagoya City University |
Principal Investigator |
澤本 和延 名古屋市立大学, 医学(系)研究科(研究院), 教授 (90282350)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ニューロン新生 / 血流 / 二光子イメージング |
Outline of Annual Research Achievements |
我々は、脳組織の再生過程において、新生ニューロンが血管に沿って移動するという現象を発見した。血管の動的な働きとニューロン新生の間に、機能的な連関があるかどうかは不明である。従来の固定標本や脳スライスの培養を用いた実験では、血流とニューロン新生の関係を研究することは不可能である。こうした状況を打破するためには、生きたマウスの脳内における血流とニューロン新生を同時に観察する新しい実験が必要である。そこで本研究では、二光子顕微鏡を用いたin vivoライブイメージングなどによって、1.血流とニューロンの移動、2.血流とニューロンの定着、の二点について解析することを目的としている。 生きたマウスの嗅球における新生ニューロンを観察するために、嗅球内の特定のニューロンが蛍光で標識されたマウスを用いて実験を行った。嗅球を覆う頭蓋骨を薄く削り、同じ嗅球ニューロンを一ヶ月間隔で繰り返し観察した。 血流を可視化するために、血管内に緑色の蛍光色素(fluorescein dextran)を注入し、血漿成分を染色した。二光子顕微鏡を用いて、血管に沿ってライン状に高速スキャンする方法(ラインスキャン法)により、血球の影を追跡して速度を算出する技術を確立した。 これらの実験により、新生ニューロンの定着と細胞死は、いずれも血管の付近で起こりやすい傾向があることが示唆された。また、血流の多い血管の付近に新生ニューロンが定着しやすいことも観察された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究では、血流と新生ニューロンの移動や定着に何らかの機能的な関係があるという仮説を検証することを目指したものである。この仮説を検証するためには、第一に、血流速度と新生ニューロンを同時に観察することのできる実験系の確立が重要であった。新たなトランスジェニックマウスの導入や血管の可視化技術、ラインスキャンの方法などの検討に時間を要したが、信頼できる安定した実験系を確立することができた。 さらにこれらの技術を用いて、血流と新生ニューロンの定着頻度の間に何らかの相関があることを示唆するデータが得られた。 本研究は技術的・概念的にチャレンジ性が高い課題である。一年間で試行錯誤の結果、目的達成に役立つ新たな技術を開発し、成果が得られたことから、概ね順調に進展していると評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
以前の研究によって、嗅覚入力によって新生ニューロンの定着が促進されることが明らかになっている。よって、嗅覚入力が血流増加を介して、新生ニューロンの定着を促進している可能性が考えられる。この仮説を検証するため、今後、嗅覚刺激装置を用いた嗅覚刺激実験や、血流を人為的に調節する実験が必要である。 脳内の幹細胞は発生・発達期に活発にニューロンを産生するが、その能力は老化や脳の疾患によって低下する。ニューロン新生と血管系の相互作用の仕組みを理解することによって、成体脳の可塑性の新たなメカニズムが明らかになることが期待される。さらに、内在性の再生機構を維持・活性化することが可能になり、侵襲が少なく安全性の高い再生医療の新しい方向性を示すことも可能であると考えられる。血流によるニューロン新生の調節機構の解明は、血管新生促進または人工血管などを用いた神経再生促進方法の開発につながる。また、感覚入力による神経再生を促進する機構は、リハビリテーションの効率を高める方法に役立つ可能性がある。
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Causes of Carryover |
・研究成果が整ってから翌年度以降に発表した方がよいと判断したため予定より出張の機会が少なく、論文投稿料などの支出も少なかった。 ・搬入予定のサンプルの準備が整わなかったため運搬費を使用しなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
物品費(薬品、実験器具、実験動物)105万円、海外旅費(北米神経科学学会にて研究成果を発表予定)25万円、国内旅費(日本神経化学学会・日本再生医療学会にて研究成果を発表予定)10万円、研究成果発表費用(論文投稿料など)30万円、運搬費(サンプルの輸送など)6万円
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Research Products
(11 results)