2014 Fiscal Year Research-status Report
ポリ(ADP-リボシル)化による細胞運動の制御とがんの浸潤・転移克服への応用
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26640109
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Research Institution | Japanese Foundation for Cancer Research |
Principal Investigator |
清宮 啓之 公益財団法人がん研究会, がん化学療法センター分子生物治療研究部, 部長 (50280623)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | ポリ(ADP-リボシル)化 / 細胞運動 / 細胞分裂 / がん / 浸潤 / 転移 |
Outline of Annual Research Achievements |
ポリ(ADP-リボシル)化(PAR化)は蛋白質に大きな物性変化を与える翻訳後修飾であり、DNA修復や転写などに関与する。PAR鎖はヘテロに分岐し、厳密な修飾コンセンサス配列が不明なため、PAR化蛋白質の同定やその制御機構の解明には技術的困難が伴ってきた。我々は、タンキラーゼとよばれるPAR化酵素(PARP)のankyrin領域に結合する蛋白質がPAR化を受けることを見出してきた。本研究では、タンキラーゼのankyrin領域に結合し、PAR化を受ける蛋白質TBP-1(tankyrase-binding protein-1)のがん浸潤・転移への寄与とその分子機構、さらにはタンキラーゼによるPAR化の影響を解明することを目的とする。今年度はまず、ヒト線維肉腫HT1080細胞もしくは子宮頸がんHeLa細胞において、TBP-1を枯渇させると細胞運動が亢進すること、逆にTBP-1を過剰発現すると細胞運動が鈍化することを見出した。この現象を説明する分子機構として、TBP-1の発現の増減が、アクチン骨格形成を制御するRho-ROCK-LIMK-コフィリン経路の活性に影響を与えていることを突きとめた。一方、TBP-1の免疫沈降複合体について質量分析を行ったところ、アクチンフィラメントの動態制御因子Xが同定された。そこで個別の免疫沈降実験を行ったところ、Xは細胞内でTBP-1と複合体を形成していることが確認された。これらの結果から、TBP-1はアクチン骨格分子に直接相互作用することにより、細胞運動を制御することが明らかとなった。本研究は、TBP-1の発現異常が細胞運動を亢進させ、がんの浸潤・転移を促進する可能性を示唆するものである。今後はタンキラーゼとの相互作用による影響やがんの病態との関連について検討を進める予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今回、TBP-1による細胞運動の制御とそれに関わるシグナル経路、さらにはTBP-1の結合分子として新たにアクチンフィラメントの動態制御因子Xを見出すことが出来、TBP-1によるがん転移・浸潤の可能性を検証するための基盤データを確立することが出来た。特に、バイアスフリーな質量分析で、機能的に細胞運動と密接に関係するXを同定出来たことは大きな前進と捉えている。以上より、本研究は概ね順調に進展していると判断される。
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Strategy for Future Research Activity |
PARP不活性型およびTBP-1非結合型のタンキラーゼ変異体、タンキラーゼ非結合型のTBP-1変異体などを用い、今年度と同様の実験を行う。TBP-1の枯渇による細胞運動の亢進がタンキラーゼの枯渇や阻害剤によって抑制されないか調べる。タンキラーゼ阻害剤としてはXAV939などの特異的阻害剤を用い、対照としてOlaparibなどのPARP1/2阻害剤も用いる。影響が認められた場合、免疫染色と免疫沈降によりPAR化シグナルの細胞内局在とTBP-1のPAR化レベルを調べる。これらの検討により、タンキラーゼとTBP-1による細胞運動制御の分子機構を明らかにする。一方、今回用いたTBP-1枯渇細胞および過剰発現細胞について、Matrigel浸潤能を比較解析する。さらにマウス経尾静脈転移モデルを用い、これらの細胞株のin vivo転移能を調べる。また、これらの形質に対してタンキラーゼ阻害剤が抑制的な効果を発揮するか、あわせて検討する。さらに、ヒトがん細胞パネルJFCR39においてタンキラーゼおよびTBP-1の発現量とそれぞれの細胞運動能や浸潤能がどれだけ相関するか検証する。これにより、タンキラーゼ・TBP-1による細胞運動制御は多くの細胞で認められる普遍的なものか、特定のプロファイルを有するがん種に限られる事象なのかを明らかにする。最後に、書面で同意を得た臨床がん患者由来の組織切片を用い、腫瘍部位におけるタンキラーゼおよびTBP-1の発現を調べる。統計解析を実施し、これらの発現様態とがんの病理学的特性の相関関係を明らかにする。
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Research Products
(4 results)