2015 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26640140
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Research Institution | Mukogawa Women's University Junior College Division |
Principal Investigator |
吉田 徹 武庫川女子大学短期大学部, 食生活学科, 教授 (00378952)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
福尾 惠介 武庫川女子大学, 生活環境学部, 教授 (40156758)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ガラス化 / 常温保存 / LEAペプチド / クリプトビオシス / アガロースゲル |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究のコンセプトは、極限環境生物が示すクリプトビオシス(乾眠)で起こっている生物学的現象を、アガロースゲルモデル系で再現することにより、この現象を引き起こす要因を理解することにある。即ち、様々な糖質やタンパク質を添加したアガロースゲルを作成し、減圧乾燥によって水分を適切に除去したあと、熱分析によってガラス化達成のための条件を調べていく。また、この研究によって得られた知見を利用し、組織や細胞の長期常温保存へ応用する基礎技術の開発に繋げていくことを最終的な研究目的としている。
昨年度(1年目)の研究により、本研究で用いるアガロースゲルモデル系でのガラス化を達成させたことを受け、本年度(2年目)は添加する糖質やタンパク質によるガラス化条件の詳細な検討や、アガロースゲルのガラス化と水分子の挙動に注目し、ガラス化達成に必要な脱水程度などを中心に調べた。これにより、本研究が目指す常温ガラス化保存実現に向けた具体的な条件を見当づけることが可能となり、減圧乾燥によってアガロースゲルを常温ガラス化状態で長期間安定に保存できることが示唆された。また本年度より、クリプトビオシスで重要な役割をしている乾燥耐性タンパク質(LEAペプチド)をアガロースゲルモデル系に添加することで、減圧乾燥温度をなるべく常温に近づけ、食品成分を変性させないままガラス化が可能な条件の探索を開始している。本年度に得られたLEAペプチドの添加データについては解析中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
アガロースゲルは、一定口径のガラスリングで1.5%低融点アガロースゲルを作成し、0.1Mあるいは0.6Mのトレハロースを添加した。また、3種の主要なタンパク質、ゼラチン、卵白アルブミン、カゼインをそれぞれ一定濃度で混和し成型した。固化させたゲルは、減圧乾燥器内(~0.4kPa)で常温もしくは100℃に保ちながら、一定時間静置した。その後、一部の乾燥ゲルは赤外線微量水分計によって、ゲルに含まれる水分量を正確に測定し、残りの乾燥ゲルを示差走査熱量測定(DSC)によって、アガロースゲル内部の物質状態の熱分析を行った。減圧乾燥させたゲルは別途、走査型電子顕微鏡(SEM)によって、ゲル表面の観察も行った。
本年度の研究計画に基づいて、様々な糖質やタンパク質添加による影響、異なる減圧乾燥条件による影響、特にトレハロース濃度によるガラス化効果などを網羅的に調査することができた。また、SEMによる観察では、DSCによってガラス転移点を測定できたゲルの表面が極めて平滑な状態(ガラス状)であることを確認した。以上より、トレハロース濃度とガラス化との関係、水分含量とガラス化との関係をある程度明確にすることができた。これらの基礎データは、今後、LEAペプチドを添加していく際、モル比の決定等に必要な情報となる。しかしながら、本年度に実施したLEAペプチド添加実験では、LEAペプチドの濃度によるガラス化温度の変化に一定の成果が得られたものの、明確なガラス化の判断については結論が得られていない状況である。このため、本来の研究計画と比べて、やや遅れていると自己評価した。
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Strategy for Future Research Activity |
トレハロースによるガラス化条件の詳細を示すことができたことを受けて、今後は、常温ガラス化保存に関する実験を本格的に進めていき、将来への応用に向けた方向性を探っていく。また、トレハロースが高濃度で含まれているアガロースゲルにおけるガラス化への特異な役割についても考察していく。例えば、生体材料へ応用していく場合、トレハロースが水分子と置換することによって、細胞膜などの微細構造を破壊することなく、細胞内部をガラス化するスキームが考えられる。特に細胞膜の保護が重要であれば、トレハロースを細胞の外側に充填させることでもある程度の効果が期待できる可能性がある。また、本研究の要ともなるキー分子のLEAペプチドについては、トレハロースと協調してガラス化に関与することが従来より想定されていることから、LEAペプチドを添加したシミュレーションモデル実験を次年度の中心的研究課題としている。ただし、「現在までの進捗状況」に記載した通り、LEAペプチドによるガラス化寄与への判断は想定以上に難しいため、添加するLEAペプチドの精製グレードの検討や、従来のアガロース主体の基材だけでなくタンパク質基材のモデル系への変更を同時進行で進めていく予定である。
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Research Products
(2 results)