2014 Fiscal Year Research-status Report
光ピンセットとマイクロ流路の融合が拓く母性遺伝の分子機構
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26650111
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Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
西村 芳樹 京都大学, 理学(系)研究科(研究院), 助教 (70444099)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | ミトコンドリアDNA / 母性遺伝 / 光ピンセット / マイクロ流路 / クリプトコッカス |
Outline of Annual Research Achievements |
葉緑体(cp)やミトコンドリア(mt)DNA は、ヒトを含む動物から植物、藻類、原生生物など殆どの真核生物において母性遺伝する。しかしその普遍性にもかかわらず、母性遺伝の進化的意義、詳細な分子機構は今日に至るまで謎のままである。 母性遺伝の謎を解く上で重要なモデル生物として、酵母様菌類クリプトコッカスがある。クリプトコッカスはa とα という二つの性をもち、同型配偶子で生殖をおこなうにも関わらずmtDNA はa 親から片親遺伝する。これまでに我々は、クリプトコッカス接合子におけるmtDNA の挙動を顕微鏡で追跡し、α-mtDNA が積極的に破壊されることを明らかにしてきた。 しかしクリプトコッカスにおける接合の研究をおこなう上での問題点として、接合率が10%以下と極めて低いことがあげられる。そのため、現象を分子レベルに掘り下げて解析を行うためには、顕微鏡下で狙った細胞を試験管にあつめるための技術開発が必要である。このため我々は本年度、マイクロ流路の試作品を作製し、光ピンセットによる細胞回収作業をおこなった。現段階で、毛細管現象や乾燥などによる流体の攪乱、細胞のガラス面への非特異的接着など、1細胞をあつかう上での問題点が浮き彫りになってきた。それらを解決するため、次に注目しているのはプラスチックマイクロチャンバーである。底面が疎水性の超薄プラスチックで構成されており、細胞の非特定接着は最小限に抑えられる。この超薄プラスチックは光ピンセットの赤外線レーザーにも干渉することがないため、現在さらにマイクロチャンバー内から細胞を回収する技術の開発に取り組んでいるところである。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
光ピンセットによる細胞回収専用のマイクロ流路の開発にあたっては、現段階で毛細管現象や乾燥などによる流体の攪乱、細胞のガラス面への非特異的接着など、1細胞をあつかう上での問題点が浮き彫りになってきた。まず細胞の非特異的接着については、セルソーティングにもちいるバッファーの工夫が功を奏した。具体的には、細胞表面のブロッキング剤、界面活性剤を含む特殊バッファーを開発し、細胞のガラス面への非特異的接着を抑制することに成功した。さらに現在、疎水性の超薄プラスチック(0.17mm)を底面としたマイクロチャンバーに注目しており、これを用いるとさらに細胞の接着が抑えられ、さらに乾燥や毛細管現象による流体の攪乱も起きない。ひとつ心配されたこととして、プラスチックにより光ピンセットの赤外線レーザーが吸収、もしくは反射され、細胞のトラップを阻害するのではないかという点があったが、実際に作業をしてみるとそうした問題点もなく、理想的な光ピンセット操作環境が実現出来ることがわかった。 次の課題は、チャンバーから細胞を回収する方法の確立である。現在、シリコンチューブで作成したディスポーザブルチップをガラス管を介してマイクロピペットに接続し、これをチャンバーの末端に孔を開けて挿入し、ここから細胞を回収する方法について試行錯誤を続けている。 一方、クリプトコッカスにおけるミトコンドリアの片親遺伝については、これまでDNA修飾、ヌクレアーゼの活性化など、さまざまな可能性が考えられて来たが、最近の結果から、ミトコンドリアDNAに結合する核様体タンパク質が重要な役割をもっていることが明らかになり、片親遺伝の分子機構について、ついに遺伝子レベルで迫ることができるのではないかと期待している。
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Strategy for Future Research Activity |
光ピンセットとマイクロ流路と組み合わせた細胞回収チップの開発については、これまでに理想的な光ピンセット操作環境を実現するプラスチックチャンバーを得た。現在取り組んでいるのはチャンバー内部から細胞を回収する方法の確立である。シリコンチューブで作成したディスポーザブルチップをガラス管を介したマイクロピペットの作成などを進めて行きたい。この技術の開発を通し、狙った形状の細胞を1個~50個程度、速やかに回収することを目指している。回収した細胞の解析方法としては、高感度のnested-PCR/dCAPs primerの設計が既に完了しており、クリプトコッカスのミトコンドリアDNAの片親遺伝の解析はこれで十分である。しかしもし50個の細胞を自由に回収出来るようになった場合には、初期接合子のqRT-PCRや、将来的にはシングルセルのトランスクリプトーム解析などにも挑戦したいと考えている。 一方、ミトコンドリア片親遺伝の解析については、ミトコンドリア核様体を構築するタンパク質の重要性に注目している。核様体タンパク質の遺伝子やその修飾因子の破壊株と過剰発現株を作成し、その片親遺伝への影響を詳細に解析することで、ミトコンドリアDNAの片親遺伝における核様体タンパク質とその修飾の影響を明らかにしていきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
光ピンセットとマイクロ流路を組み合わせたセルソーター開発について、これまでにその基本的な素材や設計を固めることができたが、これからさらに多数の試作品をつくって改良を重ねる必要がある。また、細胞を回収するのに必要なマイクロインジェクター部位の改造について、ディスポーザブルなシリコンチップなどの開発に注力するためにも、予算を次年度に繰り越す必要が生じた。そして今年度は研究成果を論文発表するにあたり、十分な投稿費を準備しておく必要がある。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
シングルセルを効率よく回収できる光ピンセット用マイクロチャンバーの開発に向け、多くの試作品制作を重ね、改良をおこなう。また、マイクロピペットやシリコンチップについても十分に検討し、ロバストな細胞回収システムの構築を目指す。 一方、本研究成果について論文発表を目指す。そのために英文校閲、投稿費用などがどうしても必要となる。とりわけ、オンラインジャーナルやフリーアクセス費用等のため、投稿費用は非常に高額になりうる。投稿にあたってはその点についても慎重に吟味するように心掛ける。
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[Journal Article] lgae sense exact temperatures: small heat shock proteins are expressed at the survival threshold temperature in Cyanidioschyzon merolae and Chlamydomonas reinhardtii2014
Author(s)
Kobayashi, Y., Harada, N., Nishimura, Y., Saito, Y., Nakamura, M., Fujiwara, T., Kuroiwa, T., Misumi, O.
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Journal Title
Genome Biol. Evol.
Volume: 6
Pages: 2731-2740
DOI
Peer Reviewed
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