2015 Fiscal Year Research-status Report
環境ゲノミクスによるシロアリ腸内ファージ群集解析と害虫防除への応用の可能性
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26650158
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Research Institution | Tokyo Institute of Technology |
Principal Investigator |
本郷 裕一 東京工業大学, 生命理工学研究科, 教授 (90392117)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 共生 / 腸内細菌 / ファージ / CRISPR / メタゲノム / 昆虫 / シロアリ / 害虫 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究は、シロアリ腸内共生細菌群集がファージの強い影響下にあるとの仮説を立て、シロアリ腸内ファージ・メタゲノム解析と、ファージと腸内細菌種の対応づけを行い、ファージを用いた特定の共生細菌種の操作やシロアリ駆除への応用の基盤とすることを目的としている。H26年度はシロアリ腸内の未培養細菌種のゲノム配列取得とCRISPR配列の探索を行った。CRISPR/Casシステムは細菌が持つ「免疫」機構で、ファージなどの侵入DNAを切断して細菌ゲノム上のCRISPRと呼ばれる領域に「スペーサー」として取り込む。この数十塩基対程度の配列をRNAとして転写し、同配列を持つファージDNAなどが侵入した際に相補的に結合・認識し、これを切断するものである。スペーサーは「リピート」と呼ばれる各CRISPR特有の数十塩基対の繰り返し配列に挟まれている。一つのCRISPR領域は数十以上の「リピート:スペーサー」の繰り返しを持つことが多い。 H27年度は、シロアリ腸内のウイルス・メタゲノム配列解析を行った。ゴキブリ腸を用いて試行し、最適化した手法によってシロアリでのメタゲノム配列取得を取得した。その結果、得られた約1万個のコンティグのうち、公共データーベースを用いた相同性検索により約7割がウイルス配列として同定された。その内の7割がファージに分類され、最大コンティグ長は183 kbであった。興味深いのは、H26年度に取得したシロアリ腸内細菌ゲノム上のCRIPSRのスペーサー配列との照合結果である。ある1種の腸内細菌のゲノム上に見出した4つのCRISPR領域のスペーサー合計283本のうち、231本がファージ・メタゲノム断片にヒットした。これは、同腸内細菌種が実際にファージの攻撃に高頻度に晒されていることの証拠である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
当初の計画では、H26年度にシロアリ腸内ファージ・メタゲノム解析、H27年度にシロアリ腸内細菌ゲノム配列取得とファージ/CRISPR領域の探索という予定であったが、サンプル入手の都合などにより、H26年度と27年度の研究内容の順序を逆にした。また、FACSによる1細胞ゲノム解析も行っているが、その解析は次年度に回し、そのかわりにマイクロマニピュレーションで取得した複数の原生生物細胞内共生細菌の完全長ゲノム配列の解析を優先してきた。その結果、同細菌種のCRISPR内のスペーサー配列とファージ・メタゲノム断片の配列が実際に一致することを確認し、シロアリ腸内においては、原生生物細胞内共生細菌であってもファージの攻撃を高頻度に受けていることを示すことができた。 このように、実際の実験・解析の順序や詳細な内容は適宜変更しながら、結果としては当初の想定以上の成果を上げている。
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Strategy for Future Research Activity |
H27年度に取得したシロアリ腸内ファージ・メタゲノム断片の情報解析をさらに進め、ファージの詳細な系統分類と機能推定を行う。また、H27年度には1種類の細菌のCRISPRのみに注目したが、同様に複数種の細菌ゲノム上にCRISPR領域を見出しており、それぞれの宿主シロアリのファージ・メタゲノム断片との照合も進める。
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Causes of Carryover |
当初の、FACSを用いて大規模な1細胞ドラフトゲノムのスクリーニングを行う予定を変更し、まずマイクロマニピュレーションで特定の数種類の細菌ゲノムの完全長を取得することにしたため、予定の半分ほどの額になった。変更理由は、ドラフトゲノムしか取得できない1細胞ゲノム解析よりも、まず完全長かそれに近い配列を数種の細菌について取得し、CRISPRが実際に活動していることなどを、確認することを優先するべきだと判断したためである。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
H27年度に行う予定であったFACSによる1細胞ゲノムのスクリーニングと(MiSeqによる配列解析)、電子顕微鏡観察、情報解析用大規模サーバーの維持費用などとして使用予定である。
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Research Products
(6 results)