2014 Fiscal Year Research-status Report
急激なメス化が生じている昆虫の地域集団における原因究明とその進化生態学的意義
Project/Area Number |
26650160
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Research Institution | Shinshu University |
Principal Investigator |
東城 幸治 信州大学, 学術研究院理学系, 准教授 (30377618)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 進化生態 / 発生 / 単為生殖 / 集団のメス化 / 分子系統 / 系統地理 / 受精 / 分散 |
Outline of Annual Research Achievements |
東アジア地域広域に生息するオオシロカゲロウのうち、日本列島の集団では、地域によって(1)オス・メスともに生息し両性生殖が行われている集団と、(2)メスのみからなり単為生殖している集団があり、また(3)性比がメスに偏った集団も含め、これら3タイプの集団がモザイク的に分布している。本研究では、これらの地域集団に、アジア大陸の両性生殖集団を加え、分子系統地理学的研究を展開し、単為生殖集団の起源などを明らかにした(2編の論文として国際誌へ投稿し、1編は受理、もう1編は審査中)。また、両性生殖集団内に単為生殖系統のメスが進入した場合、単為生殖系統のメスと両性生殖系統のオス間での交雑が生じるかどうかについて、分子マーカーを用いた解析からアプローチし、仮にこの組み合わせでの交尾が行われたとしても、受精することなく、単位発生卵のみが産下されることを明らかにした(前述のものとはまた別の論文として国際誌へ投稿し、受理された)。
また、福島県の阿武隈川水系の集団に関しては、1990年代に実施された調査ではオス・メスが検出される両性生殖集団であったが、わずか20年間の間で性比がメスに偏ってきていることを明らかにした。水系の下流側にあたる福島市内の集団では99-100%をメス個体が占めており、二本松、郡山と少しずつ上流へ向かうにつれて、オスの割合が多くなる傾向が認められ、最上流に設定した調査地点では、オス・メスがほぼ1:1に近い性比であることが明らかとなった。
先に挙げた研究により、単為生殖系統に特有の遺伝子配列が検出されるか否かを指標として、調査地点内における両性生殖系統と単為生殖系統が占める割合を調査したところ、やはり下流域ほど単為生殖系統が占める割合が高いことを明らかにし、阿武隈川では、まず下流域に単為生殖系統が進入し、徐々に遡上しながら、集団をメス化していることが明らかとなった。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
ほぼ計画通りに、フィールド調査、サンプリング、データ解析ができており、早期に得ることができたデータから随時、論文投稿を進めている。
論文投稿後の審査も予想以上に順調であり、これまでに3編の関連論文としていずれも国際誌への投稿を済ませ、European Journal of Entomology 誌, Entomological Research 誌に受理され、Royal Society Open Science 誌へ投稿した論文に関しても、minor revision の審査結果を受け、指摘事項を修正の上、改訂原稿の提出を済ませている。
以上のように、調査・実験・解析などの研究の進展に関してはほぼ計画通りであるとともに、成果の公表の面においては当初の計画以上に順調に進展している。
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Strategy for Future Research Activity |
今後、性比がメスへと急激に偏りつつある阿武隈川水系内の集団において、現在進行形で起こっている現象を詳細に究明することを中心に研究を展開する計画である。とくに、両性生殖系統と単為生殖系統間での受精の有無に関し、分子マーカーを用いた解析で判断できるような研究手法を確立できたことから、これらのマーカーによる個体レベルでの系統を把握した上での繁殖生態学的な研究を展開したいと考えている。
また、本研究で対象とするオオシロカゲロウではないものの、海外の大学研究室にポスドクとして在籍している研究協力者により、モデル昆虫を利用した発生遺伝・実験発生学的研究の展開で、単為生殖において極めて重要な機能を担う分子マーカー boule 遺伝子のスクリーニングに成功した。そして、本研究で対象とするオオシロカゲロウにおいても、この boule 遺伝子の配列そのもののスクリーニングに成功し、本遺伝子を効率的に増幅・配列解読する手法を確立した。現段階では、断片的ではあるものの、この遺伝子には種内多型が存在することも明らかであり、今後、オオシロカゲロウの単為発生に重要であると考えられる本遺伝子をはじめとする遺伝的基盤の究明といった、より発展的な研究課題についても挑戦してゆきたいと考えている。
地理的単為生殖昆虫を対象とした、これら一連の研究の展開により、単為生殖系統の起源プロセスに関する詳細な追究を行うとともに、「両性生殖の意義」といった究極の課題にも迫るようなアプローチをしてゆきたいと考えている。
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Causes of Carryover |
前年度の研究費使用計画の通りに執行してきたが、年度末に予定していた遺伝子解析におけるDNA合成オリゴの発注(1件)を直前になって配列の再検討を実施し、実験の成功率が高いと判断される別の合成オリゴ配列で解析をすることとなり、経費的にも安価な手法で目的を達成することができたため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
当初計画よりも研究が進展しているため、平成27年度は当初計画よりもより進展した研究の執行が可能となると考えられ、平成27年度請求額と合わせて、これらの研究経費に使用したいと考えている。
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