2014 Fiscal Year Research-status Report
Project/Area Number |
26650164
|
Research Institution | Kyoto University |
Principal Investigator |
中野 伸一 京都大学, 生態学研究センター, 教授 (50270723)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
谷 幸則 静岡県立大学, 食品栄養科学部, 准教授 (10285190)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 食物網構造 / 佐鳴湖 / シネココッカス / 動物プランクトン / 微生物ループ |
Outline of Annual Research Achievements |
2014年9月7日および2015年2月6日に、静岡県浜松市の富栄養化湖沼・佐鳴湖において調査を行った。前者ではシアノバクテリアのSynechococcus属が、後者では渦鞭毛藻類のGymnodinium属およびKatodinium属が、それぞれ優占的であった。9月7日のSynechococcusの細胞密度は、1 ml当たり150万細胞であった。従属栄養細菌の細胞密度は1 ml当たり1200万細胞であった。 希釈法によるSynechococcusと鞭毛虫および繊毛虫の食物連鎖の定量的把握では、全Synechococcus細胞とこれらの原生生物との間に有意な食う-食われる関係が見られたが、生産された全Synechococcusが原生生物の摂食によって失われる割合は約半分に留まった。また、以下のように繊毛虫は佐鳴湖にはほとんど検出されないため、上記の関係は主に鞭毛虫によるものと考えられる。 次に、Synechococcusを摂食する可能性のある原生生物の繊毛虫とワムシ、甲殻類動物プランクトンの現存量も測定した。これらの動物プランクトンは、Synechococcusよりむしろ大きさが10から数十ミクロンの植物プランクトンを好んで摂食すると考えられている。2014年9月では、繊毛虫と甲殻類動物プランクトン(カイアシ類およびそのノープリウス幼生)がほとんど検出されず、ワムシ(Anuraeopsis spp.)の現存量は1 liter当たり90個体程度と富栄養化湖沼の平均から考えても極めて低い現存量に留まった。この原因は、これらの動物プランクトンにとってSynechococcusは栄養価値の低い餌資源であるためと考えられた。これに対して、2015年2月は、Gymnodiniumなど動物プランクトンに適した餌資源が豊富であったにも関わらず、ワムシも甲殻類動物プランクトンも一切検出されなかった。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
昨年度は、夏季のSynechococcusのブルーム時と、冬季の渦鞭毛藻類(GymnodiniumとKatodinium)ブルーム時の2回について、プランクトン食物網構造を把握することが目的であった。夏季のSynechococcusブルームは、それが起こっている時期にピンポイントで調査を行わねばならず、日程調整が厳しかったにも関わらず調査実施が成功したことは幸いであった。この限られた機会に、プランクトン食物網構造の把握および細菌・Synechococcusから鞭毛虫・繊毛虫への食物連鎖の定量把握の両方が実施でき、後者についてはそれ以前のデータとともに論文を作成し、国際学術誌への投稿も果たせた。 また、次年度の課題である安定同位体分析用サンプルも、これらの機会に採取した。
|
Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、引き続き、佐鳴湖のプランクトン食物網構造の把握に努める。ただし、平成26年度の結果およびそれ以前の予備的研究から、動物プランクトン以外のさらに大型の動物(魚類や水生昆虫)についてもSynechococcusから始まる有機物伝達のつながりを検討する必要が考えられた。このため、今年度はさらに大型の動物について、どの動物をどのように採取するか、検討する。平成26年度中は、このような事態を予想していなかったこともあり、平成26年度に採取した安定同位体分析用サンプルが本研究に有効なものであるか、検討を要する。 本挑戦的萌芽研究のさらに前の研究プロジェクトも含むこれまでの成果から、佐鳴湖では少なくとも細菌と鞭毛虫およびSynechococcusと鞭毛虫の食物連鎖は機能しており、かつこれらが重要な物質循環系であろうことが徐々に明らかとなってきたため、平成27年度にも引き続き、希釈法によるこれらの食物連鎖の定量的把握は行う。
|