2015 Fiscal Year Research-status Report
環境中のストロンチウムを極めて高度に生体濃縮する遺伝子組換え植物の作出と評価
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26660009
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Research Institution | Toho University |
Principal Investigator |
佐藤 浩之 東邦大学, 理学部, 教授 (80187228)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
藤崎 真吾 東邦大学, 理学部, 教授 (70190022)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 重金属高度生物濃縮 / ストロンチウム / 遺伝子組換え植物 |
Outline of Annual Research Achievements |
オオハネモのストロンチウム含量は極めて高く、この性質を解析・応用することで環境中のストロンチウム(Sr)を効率良く回収できる遺伝子組換え植物の作出を行うことを、本研究では最終目標としている。 当該年度は、オオハネモEST解析から得られた多数の金属結合モチーフを持つタンパク質のcDNAの有望なものについて詳細な機能解析を行った。このタンパク質cDNAの全長配列を決定したところ、データベース上の配列との相同性が極めて低く、また分子内に金属結合モチーフをもつユニットが9回反復されるという特異な構造をしていた。この組換えタンパク質を大腸菌中で可溶性画分として発現させることに成功し、そのストロンチウム結合能を85Srを用いて調べたところ、対照群と比較しておよそ5倍の放射能を示し、このタンパク質がSr結合能を有することが解った。この cDNAをシロイヌナズナへ導入するべく、DNA constructionを行った。 また、オオハネモ細胞膜に存在するタンパク質を転写したPVDF膜から、主要なタンパク質についてエドマン分解およびLC-MS/MS解析で配列を決定したが、得られた配列の全てがデータベース上の配列との相同性を示さず、未知の配列であった。このため現在までに金属原子のトランスポータ関連タンパク質を同定するに至っていない。 さらにオオハネモの細胞内液を透析して得た外液からSrに結合する低分子の精製を試みた。シリカゲルクロマトグラフィーによって、この分子が精製可能であることが示唆された。この結合分子が含まれていると思われる画分を高速液体クロマトグラフ質量分析計により分析したところm/z比606.5および782.5付近に強いシグナルが認められた。前記のピークを中心にm/z比の差2.0で対称にピークが7本分布しており、このことから分子中に臭素6個を含むことが同位体存在比から推定された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
オオハネモに存在するSrを結合する分子について、高分子物質(タンパク質)および低分子物質(臭素を含むと思われる未知物質)の同定を行っており、一定の成果が得られている。今回得られた新規 Sr結合タンパク質については、最終年度に遺伝子組換え植物を作出してSr含有量の変化を解析できる可能性が高い。また、低分子量物質については、天然物であることもあって精製法も未知であり、構造決定やその生合成経路の推定には相当な困難が予想される。 Srトランスポータの同定を目指した膜タンパク質の網羅的な配列解析の結果、得られた配列はデータベース上の配列との相同性がほとんど検出されない。このようにタンパク質やcDNAの配列決定の結果、当初の予想を大きく超えてオオハネモは極めて特異なタンパク質を多く持つ生物であることがわかり、常識的なアプローチが極めて難しいことが判明した。このことは挑戦的萌芽研究として、全く新しい予想だにしなかった画期的な研究成果を産むことに繋がる一方、研究の進行は手探りで困難であり、進捗速度としては当初の計画よりも遅延することは免れない。しかし、最終年度である28年度内に可能な限り研究を完遂できるよう全力で取り組む。
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Strategy for Future Research Activity |
28年度は、研究最終年度でもあり、研究開始当初の計画の完遂を目標として最大限の努力を継続する。具体的には、オオハネモEST解析から得られた金属結合モチーフを有するタンパク質cDNAをシロイヌナズナで発現させてそのストロンチウム取込能やストロンチウム含量の変化を詳細に解析して評価する。また、膜タンパク質のプロテオーム解析および、さらなるEST解析を進め、金属元素トランスポーターの特定を行ってcDNAを得ることを目標とする。トランスポータータンパク質遺伝子を実際にシロイヌナズナへ遺伝子導入することは28年度内には難しいと考えられるが、この研究を次年度以降も継続し、環境中のストロンチウムを高度に生物濃縮する遺伝子組換え植物を改良して行く。 低分子量のストロンチウム結合物質の同定に関しては、まず出発材料の量を増やして結合分子の精製を行う。これまでにCMセルロースカラムクロマトグラフィー、シリカゲルカラムクロマトグラフィーでの結合分子、結合分子-ストロンチウム複合体の挙動がわかっているので、試料にストロンチウムを加えて結合分子-ストロンチウム複合体を形成させる、結合分子-ストロンチウム複合体を遊離ストロンチウムとクロマトグラフィーにより分離して複合体を解離させることを繰り返すことにより、ストロンチウムに特異的に結合する分子の精製を進める。精製をすすめるために溶液中の結合分子を濃縮する条件を検討する。有機溶媒を加えることによる沈殿生成、有機溶媒による沈殿の再溶解などを試みる。精製品を得て質量分析、NMR分析などを行い結合分子の構造を決定する。
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