2014 Fiscal Year Research-status Report
大腸菌のサブポピュレーションの可視化に基づいたトランスクリプトームの解析
Project/Area Number |
26660078
|
Research Institution | National Institute of Advanced Industrial Science and Technology |
Principal Investigator |
陶山 哲志 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (10357311)
|
Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
水野 敬文 独立行政法人産業技術総合研究所, バイオメディカル研究部門, 主任研究員 (40344163)
|
Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
|
Keywords | 大腸菌 / 細胞分裂 / 極 / 光変換 / 蛍光蛋白質 / 融合蛋白質 / 標識 / 可視化 |
Outline of Annual Research Achievements |
大腸菌では分裂によって生じた細胞極が娘細胞に受け継がれるさい、受け継がれた細胞極の新旧がそれを保持する娘細胞の増殖速度やVBNC状態への移行のし易さに相関するという知見がある。即ち、分裂を繰り返すことで大腸菌の細胞極には分裂の回数と同じだけのバリエーションが生じ、細胞は異なったフェノタイプを伴うサブポピュレーションに分化してゆくことになる。この前提に基づき、本研究では細胞極の新旧を可視化して単一の細胞がいずれのサブポピュレーションに属するかを容易に見分けること、そして見分けた細胞を分取して生理・生化学および遺伝子発現レベルの違いを比較検討すること、そして増殖速度やVBNC状態への移行のメカニズムを探ることを目的としている。 研究に必要な細胞株の取得と、光変換条件の確立、および観察条件の確立が平成26年度の実績として挙げられる。具体的には、アスパラギン酸の走化性レセプターであるTarの遺伝子に光変換型蛍光型蛋白質であるkaedeの遺伝子をイン・フレームで連結し、大腸菌DH5α株およびW3110株に形質転換、細胞極に蛍光シグナルが局在し、培養の期間全体にわたって細胞極の蛍光が良好に観察出来る株(Tar-kaede株)を選別した。 前述のTar-kaede株に関して、共焦点レーザー顕微鏡下で未変換の緑色蛍光を観察する条件、特定波長のレーザーを照射して光変換ラベルを行う条件、および変換後の赤色蛍光を観察する条件を個別に検討し、良好に判別できる条件を見出した。また、液体振盪培養を行う際にブラックライトで全体を照射し、一度に大量の細胞の蛍光蛋白質を光変換ラベルする条件を検討し、良好な実験条件を見出した。 以上の内容については日本農芸化学会2015年大会に於いて「光変換型蛍光蛋白質Kaedeを用いた大腸菌の細胞分裂と極齢の観察」というタイトルで発表し、概ね良好な評価を得ることができた。
|
Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
平成26年度は本研究全体の道筋をつける意味で、1.細胞極に光変換蛍光蛋白質のラベルを付与した大腸菌株の構築(および最適株の選別)と、2.その光変換条件の最適化、3.異なった光変換ラベルで識別されるサブポピュレーションの分取方法の確立、4.生理生化学的解析およびトランスクリプトームの解析、5.データベースの整備の5つを同時並行的に進めた。 結果として前述の通り1.の大腸菌株の構築は申し分なく達成できた。また2.の光変換条件に関しても、得られた菌株について細胞を光変換ラベルし、培養の経時変化に対して光変換ラベルした細胞の極が追跡できること、即ち研究のアイデアそのものが有効であることを確認することが出来た。ただし、光照射による大腸菌の生育に対するダメージも否定できず、さらなる条件の最適化が望まれる。ここまでが一番重要な関門になると予想していたので、概ね研究は順調に達成できていると考えている。 一方、3.のサブポピュレーション分取の方法に関しては、当初予定していたセルソーターによる分別では十分な質・量を得ることができないことが分かり、Percollを用いた密度勾配遠心分離(細胞の新旧によって比重が変わるという洞察が得られている)による分画なども検討したが、現在のところ良好な分取条件は得られていない。そこで現在はマイクロ流路等を利用し、より正確で自動化した細胞分取方法を検討している。 分取の方法が確立していないことから、4.および5.のトランスクリプトームの解析への本格的な移行に関しては保留している。対照となる通常の大腸菌のトランスクリプトームに関してのみ、データベースの構築を進めている状況である。
|
Strategy for Future Research Activity |
光変換ラベル後の細胞の分取方法の確立を最優先の課題とする。現在のところマイクロ流路を利用して緑色蛍光のみを示す細胞と、光変換後の赤色蛍光のみを示す細胞、そして緑色蛍光と赤色蛍光の両方を示す細胞を自動的に選別して各サブポピュレーションに毎に分別・蒐集するシステムを試作している。 また、光変換ラベルのステップに関しては、インキュベーターの中でブラックライトを照射するという方法では光変換に時間がかかり過ぎることが問題点として挙げられる。また、ラベル後に暗所で培養を続けると、ラベルが無い(緑色蛍光のみ示す)細胞極が現れて、細胞分裂が継続していることが確認できる一方で、いつまでも両方の細胞極が赤色蛍光を示す(恐らく分裂していない)細胞も多く観察される。後者に関しては光照射によって細胞がダメージを受けた結果を反映しているという可能性も否定しきれない。この懸念を払拭するために、さらに温和かつ短時間の処理で光変換が可能な条件を見出したいと考えている。特定の狭い波長域の光だけを照射できる青色LEDの光源をブラックライトの代わりに光変換ラベル用の光源に使用することがひとつの解決策になると考え、検討を進めている。光照射後のコロニー形成能を評価する等の方法で、より細胞にダメージが少ない方法を選別して当該実験に適用したいと考えている。 以上の問題が解決、あるいは一定の改善がみられた時点で、なるべく早期に各サブポピュレーションの分取ならびにトランスクリプトームの解析に移行し、滞りなく全体の研究を推進したいと考えている。
|
Research Products
(1 results)