2015 Fiscal Year Research-status Report
塩基ペプチドによる筋原線維加熱凝固阻止能に関する研究
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26660102
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Research Institution | Ibaraki University |
Principal Investigator |
宮口 右二 茨城大学, 農学部, 教授 (60250990)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 筋原線維 / 塩基性ペプチド / プロタミン / 加熱ゲル化阻害 / ミオシン / C-タンパク質 |
Outline of Annual Research Achievements |
昨年度、塩基性ペプチドのプロタミン(PRO)の筋原線維のゲル化阻害能に及ぼす酵素処理およびNaCl濃度の影響について検討したところ、トリプシンおよびプロナーゼ処理により、PROのブタ筋原線維加熱ゲル化阻害能が消失することを明らかにし、また0.5 M以下のNaCl存在下においても同阻害能が保持されていることを明らかにした。そこで本年度は、筋原線維ホモジネートの粘性に及ぼすPROの作用機序を明らかにするため、酵素処理条件を検討し、加水分解度(DH)の異なるPROと筋原線維との分子間相互作用を解析したところ、以下のことが明らかとなった。まず、プロナーゼ処理では、PROのDH 24%以下では、筋原線維ホモジネートの粘度低下がみられなかったが、DH 38%以上では、同阻害能が消失することが確認された。また、トリプシン処理では、PROのDH 12%以下では、同ホモジネートの粘度低下がみられず、DH 26%以上では、同阻害能の消失がみられることから、PPO中の特定のペプチド領域に筋原線維の物性に影響を及ぼす効果を有することが明らかとなった。そこで、トリプシン低分解PRO(LT-PRO、DH 8.6%)または高分解PRO(HT-PRO、DH 26%)の筋原線維との分子間相互作用をSDS-PAGE分析で解析したところ、筋原線維ホモジネートの粘度低下を示すLT-PRO共存下では、可溶性画分に存在したC-タンパク質と思われる150 kDa付近のタンパク質バンドが消失し、新たに200 kDa付近にタンパク質のバンドが出現することが明らかとなった。一方、無添加あるいはHT-PROを添加した筋原線維では、この変化は確認されなかった。以上のことから、筋原線維とPROとの分子間相互作用では、PROに含まれる特定のペプチド鎖がミオシンフィラメントと結合しているC-タンパク質と分子間相互作用を示し、その結果、筋原線維ホモジネートの粘度増加および加熱ゲル形成能の発現に必要なミオシン同士のネットワーク形成を阻害していることが示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
筋原線維タンパク質の物性改変に対してプロタミンのあるペプチド領域にその効果のあることがわかってきた。また、プロタミンの筋原線維タンパク質のC-タンパク質に作用していることが示唆され、昨年度よりも研究は進んだ。しかし、プロタミンペプチドはSDSなどの界面活性剤と反応させると、同ペプチドが不溶性の凝集体を形成し、分子間相互作用の解析で必要である実験手法(SDS-ポリアクリルアミド電気泳動)による実施ができなってしまった。そのため、当初の計画であった筋原線維タンパク質よりアクトミオシンを精製し、プロタミンペプチドがアクトミオシンに及ぼす効果を分子レベルで解析する実験が未達成となっており、研究の進捗が遅れている状況である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度は、計画していた種類の異なるプロテアーゼを用いて得られたプロタミンペプチドと筋原線維のゲル化阻害能との関係の一部をを明らかにすることができた。筋原線維側のその作用タンパク質としてC-タンパク質が示唆されていることから、同タンパク質がゲル化阻害に関与するタンパク質であるかをタンパク質の配列を調べることで同定する。また、昨年度の計画で未達成となっているアクトミオシンの調製および同タンパク質へのプロタミンペプチドの添加がアクトミオシンの物性に及ぼす影響について調べる。そのさい、実験の遂行の問題となっているタンパク質-タンパク質相互作用の解析のさいのプロタミンペプチドによる不溶性凝集体形成を抑制する条件(pHやSDS濃度など)を明らかにし、本研究の最終目標である筋原線維ゲル化阻害ペプチドの同定を行うことにしている。
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Causes of Carryover |
検討予定であった研究内容(プロタミンペプチドの相同性と筋原線維のゲル化阻害能との関係)を解明するさい、予期していない結果が起こり、予定の研究遂行が困難になったため、予算通りの執行ができなかった。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実験の遂行の問題となっているプロタミンペプチドの不溶性凝集体の形成を抑制する条件を検討し、筋原線維ゲル化阻害ペプチドの同定を行う。また、未達成の研究課題であるアクトミオシンの調製および同タンパク質へのプロタミンペプチドの添加がアクトミオシンの物性に及ぼす影響について明らかにする。これらの実験計画は、過不足なく補助金の範囲内で実施できると考えている。
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