2015 Fiscal Year Research-status Report
タンパク質飢餓への適応と生存維持における肝臓セリン合成を介した臓器相関の分子機構
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26660116
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
古屋 茂樹 九州大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (00222274)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 栄養学 / 食品 / タンパク質欠乏 / セリン / 肝機能 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究課題は, タンパク質栄養飢餓に適応し生存を維持する応答機構における肝臓セリン合成の必須性を,肝臓と腸管の機能連関を基軸に分子レベルで解明する事を目的としている。代表者は,肝実質細胞でセリン合成能を喪失した肝臓特異的系Phgdh KO(LKO)マウスを作製しており,タンパク質栄養低下により現れる表現型から肝臓と腸管間の機能連関の解明を目指している。平成27年度は,前年度明らかとなった通常給餌条件下の同マウス肝臓でセリン濃度が維持されていることを前提に,無タンパク質食摂取および一般表現型について解析を行った。
開始に先立ち,代表者所属機関に本課題に関連する動物実験として無タンパク質食摂取実験計画を申請した際,開始時体重から20%の減少が生じた段階を人道的エンドポイントと設定して実験中止することが承認条件とされた。申請時の予備検討では無タンパク質食給餌2週目以降から死亡する個体が出現し,3週間後に腸管機能異常を伴って生存率が劇的に低下した。そこで無タンパク質給餌下でLKOマウス体重測定と生存率を経時的に検討したところ,給餌後2週間で既に体重が20%近く低下しており,生存率や腸管機能に顕著な変化が現れる前に実験を中止しなくてはならないことが判明した。給餌後2週間経過した状態では,野生型マウス肝臓ではPhgdhが顕著に誘導されるが,LKO肝臓では全く誘導が起こらず,肝臓セリン合成能は大きく低下していることが示された。しかし今回設定された人道的エンドポイントにより,当初意図していた無タンパク質摂食による肝臓と腸管間の機能連関について申請時プロトコールにより解析を行うことが困難となった。そこで通常給餌条件下での表現型につても解析を行ったところ,LKOマウス肝臓においてインスリンシグナル経路の減弱が認められ,Phgdh不活性化がインスリン抵抗性を惹起している可能性が強く示唆された。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
3: Progress in research has been slightly delayed.
Reason
LKOマウス肝臓でのセリン含量が,当初の予想と異なりほぼ正常対照と同レベルに維持されていることが平成26年度の解析から明らかとなった。それは腎臓と筋肉による合成・供給により代償されていることに起因すると考えられた。その結果を踏まえ,予備的結果として得ていた無タンパク質食の長期給餌(3週間)による生存率低下と腸管機能低下の再現性確認を行ったが,給餌開始後約2週間で所属機関動物実験委員会により設定された人道的エンドポイント(体重20%減で実験中止)に抵触してしまった。そのため,生存率及び腸管機能の低下を観察出来る前に実験を停止せざるを得なかった。無タンパク質食給餌2週間後の実験停止の段階では,野生型肝臓でのPhgdh発現は顕著に誘導されていたが,LKOではそれが認められなかった。また,いずれの遺伝子型においても小腸幹細胞マーカーであるLgr5のmRNA発現量に有意な違いは認められなかった。一方で小腸でのPhgdh発現について組織化学的発現解析を行い,腸陰窩の極少数の細胞に抗体陽性シグナルを検出したことから,小腸でのセリン合成能は低いと推定した。 無タンパク質食摂取実験については予備的結果を得たものの,申請時に予定していた3週間継続する給餌実験の実施が不可能となったため,改変給餌プロトコールを策定中であり,平成28年度に実施の予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
無タンパク質食給餌実験における人道的エンドポイント(体重20%減で実験中止)抵触を避けるため,LKO及び対照群マウスに対し離乳直後から無タンパク質食ではなく,低タンパク質食(カゼインを通常食の1/2量である10%に減らす)の給餌を行い,成長と腸管機能への影響評価を試みる。10%カゼイン食の給餌は肝臓でのPhgdhを含む「リン酸化経路」セリン合成系酵素の誘導を導くことが報告されおり,同食給餌下のLKO肝臓での誘導不全とその結果としてのセリン欠乏による末梢臓器機能への影響が予想されるからである。この給餌条件により経時的に体重測定を行い,LKOマウスに成長遅滞表現型が認められた場合には,血液サンプルの生化学的解析及び末梢臓器の形態および生化学・分子生物学的解析を行うことで,最も影響を受けている生体成分と臓器の同定並びにその機序について解析を行う。 人道的エンドポイント抵触を避けるために上述の様に給餌プロトコールを変更せざるを得ないが,過去の論文報告された結果を踏まえると,この給餌条件によってもLKOマウスに明瞭な表現型の出現が期待できると考えている。この条件で誘発されるLKOマウスの表現型に最も寄与の大きい分子や臓器の同定と機序について,アミノ酸や脂質等の代謝物動態と遺伝子/タンパク質の発現解析から明らかにすることを目的とする。得られた結果を統合することにより,「栄養飢餓時の生命維持代謝機構としてのde novoセリン合成」との,非必須アミノ酸栄養機能に関する新規概念の実証を目指す。
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