2014 Fiscal Year Research-status Report
カタクチイワシの生息環境履歴データバンクの開発とその適用
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26660163
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Research Institution | Fisheries Research Agency |
Principal Investigator |
米田 道夫 独立行政法人水産総合研究センター, その他部局等, 研究員 (30450787)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | カタクチイワシ / 分布・回遊 / 個体群構造 |
Outline of Annual Research Achievements |
カタクチイワシの摂餌履歴を示す指標を開発することを目的として、炭素・窒素安定同位体比(SI)の異なる配合飼料を給餌しながら、仔魚~親魚に及ぶ飼育実験を予定通り終了した。各発育段階(稚魚期、未成魚期、親魚期1(初回産卵)、親魚期2(経産卵期))においてSIの高い配合飼料を給餌し、餌切替後から100~150日間における筋肉と卵巣のSIの変化を調べた。その結果、①体サイズの成長率と筋肉SIのターンオーバーには密接な関連性が認められ、発育が進むにつれて、日間成長率が減少すると伴に、SIの変化速度・濃縮係数が小さくなった。②初回産卵魚の卵巣SIの変化速度は筋肉に比べて約4倍の差異が認められた。一方、成長の停滞した経産卵魚における筋肉と卵巣のSI変化速度の差違は10~20倍に拡大した。これらのことから、親魚(春~初夏の経産卵魚)の筋肉は過去(成育期)の、卵巣は現在(産卵期)の生息環境を示す指標として有効であることが明らかとなった。 カタクチイワシの脊椎骨数に及ぼす水温の影響を調べるため、長崎県大村湾で採集されたカタクチイワシ(体長9-10cm;沿岸群)を成熟・産卵させ、受精卵を複数の水温処理区に収容した。各処理区の標本が変態~カエリ期になった時点で実験を終了し、それらの脊椎骨数を調べた。その結果、成長や発育に及ぼす水温の影響は明らかであり、稚魚期に到達したのは22-24℃区では孵化後50日であったが、14-16℃区では約90日を要した。各水温区の標本の脊椎骨数を計測したところ、低水温ほど脊椎骨数が少ない傾向が認められ、2℃の水温差でも脊椎骨数に有意な差違が認められた。一方、冬季に親潮域から房総海域へ来遊する大型カタクチイワシ(体長13-14cm;沖合群)の採集に成功し、餌条件、日長、水温を調整しながら催熟させている。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
生息環境履歴データバンク開発に必要となるSIおよび脊椎骨に関する実験を予定通り終了した。その結果、親の筋肉と卵巣のSIにより過去と現在の生息・分布域を比較することが可能であることが判明すると伴に、沿岸域のカタクチイワシの脊椎骨数は水温によって変化することを確認した。前者の結果については、日本水産学会秋季大会においてその成果の一部を発表するとともに、瀬戸内海周辺の関係府県の試験研究機関が参集するカタクチイワシ関連の会議においてもその取り組みを紹介し、当該海域における分布・回遊および個体群構造の解明において高い関心と期待が得られている。一方、日本周辺海域を来遊する大型カタクチイワシについて、近年その資源・漁獲量が急劇に低迷している中で、活魚標本を無事採取できたことは、最終年度に目標を達成する上でも大きなアドバンテージとなった。
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Strategy for Future Research Activity |
最終年度はまず大型カタクチイワシ(沖合群)を用いた脊椎骨に及ぼす水温影響の実験を遂行し、得られた成果を沿岸域のカタクチイワシの結果と照らし合わせ、脊椎骨数による系群や発生時期(水温)の判定法を検討する。SIの飼育実験結果について、さらに分析を進め、学会および学術論文を通じて成果を公表していく。また、SIに基づいた成熟・産卵とエネルギー摂取・配分の関係を沿岸群と沖合群で比較し、繁殖エネルギー戦略に関しての個体群特性(遺伝的影響)の有無を見いだす。一方、瀬戸内海周辺海域においてカタクチイワシ親魚標本の採集を進めると伴に、雌の筋肉と卵巣のSIを分析し、海域毎に標本の過去と現在の分布域の調査を予備的に進める。得られた研究開発技術を利用し、瀬戸内海周辺海域をモデルとしたカタクチイワシの分布・回遊、メタ個体群構造の解明に関する課題立てに向けた準備を進める予定である。
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Causes of Carryover |
本年度は実験を実施するための飼育設備および天然標本の採集・購入において主体的に経費を使用した。天然標本の採集・購入において、特に沖合性の大型カタクチイワシの漁獲量低迷が近年懸念されていたことから、その入手には複数回の実施が必要ではないかと考えられたが、幸いにも1度の採集において標本を確保することができたため、その経費が次年度使用額として生じた次第である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
目的とした標本が入手できたことから、次年度は沿岸性と沖合性のカタクチイワシを用いて、再生産に拘わる餌の利用履歴(SIに基づく)や脊椎骨-水温の関係などの比較試験を実施し、カタクチイワシの生息環境履歴を示す指標としての有効性や妥当性を高める計画である。また、これらの成果を学会や学術雑誌などを通じて早急に公表していく予定である。以上のことから、次年度使用額の経費に関しては、実験に使用するためのサンプル瓶や餌料費などの消耗品に充てる予定である。
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Research Products
(3 results)