2015 Fiscal Year Research-status Report
灌水量・灌水頻度・時間帯を考慮した散水灌漑による稲の高温登熟障害対策の効果の検証
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26660195
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Research Institution | National Agriculture and Food Research Organization |
Principal Investigator |
坂田 賢 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 中央農業研究センター 水田利用研究領域, 主任研究員 (00584327)
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Co-Investigator(Kenkyū-buntansha) |
北川 巌 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域, 上級研究員 (30462360)
谷本 岳 国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構, 農村工学研究部門・農地基盤工学研究領域, 主任研究員 (40414619)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 気候変動 / 高温登熟 / 適応策 / 水管理 / 散水灌漑 / 外観品質 |
Outline of Annual Research Achievements |
申請者が所属する研究機関内(新潟県上越市および茨城県つくば市)の実験圃場に移動式スプリンクラーを設置し,出穂期にあたる8月に散水灌漑を実施して温度等を測定した.また,対照区として地表灌漑を実施する圃場を設けた. 新潟県上越市の圃場では,前年度の結果を踏まえて灌漑による温度低下効果の最も高い夕方(15~18時)に灌漑を行い,灌漑水量の多寡による温度低下を比較した.具体的には,晴天(無降雨)が連続した8月3日から8日まで毎日同時刻に灌漑を行った.1回あたりの灌漑水量は多い圃場から順に,37.4mm,21.3mm,16.1mmとなった.地表面から高さ40cmおよび80cmで温度(以下,群落温度)を測定したところ,灌漑時には灌漑した全ての圃場および両方の高さにおいて対照区よりも有意に温度が低下したが,灌漑を行った圃場間の温度に有意差はみられなかった.灌漑を行っていない時間帯を含む分析期間全体の平均群落温度は,灌漑水量の最も多い処理区を除いて,対照区よりも有意に低下し温度差は約1℃となった.したがって,夕方の時間帯における灌漑水量は20mm程度が最適であり,灌漑水量を過度に増やすと灌漑を行っていない時間帯の温度低下効果が得られず,全体の温度低下効果を相殺する可能性が考えられる. 茨城県つくば市の圃場では,散水灌漑の気温低下効果は散水時の気温に比例して高くなり,時間帯では夕方がもっとも高いと考えられた.穂温は散水灌漑により特に昼に速やかに低下した.灌漑開始前後の穂温の比較から,散水灌漑による穂温低下の寄与は昼,夕ともに約1℃と推計された.また,平成27年のような平年並みの気温となった年では,草丈が増加する傾向がみられ倒伏の増加が懸念される.そのため,成熟期の全重,穂重,粗玄米重および精玄米重が対照区に比べ減少する傾向が見られた.なお,灌水時間の違いによる影響は判然としなかった.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
今年度の計画は,1)同時刻に異なる水量による灌漑が可能な圃場の設定,2)前年度に灌漑による温度低下が最も高かった時間帯を対象とした複数の水量による灌漑,3)灌漑水量の測定および群落内の温度観測,ならびに,4)生育途中および収穫物の生育状況等の測定を実施することであった.これらの項目については試験を実施した8月に全て実施することができ,一連のデータを収集することができた.また,「研究実績の概要」に記した通り,散水時の灌漑水量の違いによる温度変化の傾向が異なることを示すことができた.これは当初の研究計画で想定通りであり,次年度に向けて順調に研究を進めることができると考えられる. ただし,当課題の目的は散水灌漑が玄米の外観品質に及ぼす効果を示すことであるが,そのためには出穂期前後に晴天かつ高気温であることが求められる.しかしながら,前年度は試験期間中を通じて天候が不順であり,今年度は試験期間後半に気温が低い状態が続き,いずれも夏季の高温を原因とした品質低下が生じる条件とはならなかった. 成果公表については,昨年度の成果を中心に学会発表を行った.また,今年度の試験結果については次年度に公表できるよう準備を進めている.
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Strategy for Future Research Activity |
今年度に得られた結果に基づいて,灌漑により群落内の温度低下の効果が最も高かったと考えられる灌漑水量に設定して,昨年度および今年度と同様に,1)灌水試験,2)気象観測,3)収穫物の測定,4)結果の分析および取りまとめを行う.具体的な内容は以下の通りである. 1)灌水試験:研究目的である灌漑水量・灌水頻度・灌漑時間帯のうち,次年度は灌漑頻度を変化させる.灌水頻度の設定は,平成27年度に効果がみられた1回あたり20mmを基準に,散水頻度が異なる区を設定し散水試験を行う.対照区は,今年度と同様に,必要に応じて地表灌漑を行う.また,散水灌漑区,地表灌漑区とも湛水深を測定し,地表灌漑については灌漑水温測定を合わせて実施する.散水試験の期間は,穂ばらみ期から出穂後20日程度までの約1ヶ月間とする. 2)気象観測:圃場外部の気象要素(気温,湿度,日射,風速など)については,それぞれの試験地で実施している気象観測データを用いる.群落内の気象については,温度(穂の周辺,穂と地表面の中間,地表面など),湿度(穂の周辺)を測定する. 3)収穫物の測定:全ての圃場で坪刈りを行い,収量構成要素(1穂籾数,穂数,登熟歩合,千粒重)の測定および外観品質による分類を行う.なお,生育途中においても,散水試験の開始前を含み,必要に応じて生育調査(草丈,茎数,葉色など)を行う. 4)結果の分析および取りまとめ:灌漑水量の違いが群落内温度および玄米の外観品質に及ぼす影響について分析を行う.また,3か年の調査で得られた結果について詳細な分析を行った上で,散水灌漑を行う場合に最適な灌漑水量・灌水頻度・灌漑時間帯の提示を行う.
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Causes of Carryover |
計測のために必要と想定していた物品を安価に購入でき,研究費を効率的に使用したため残額が生じた.
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
次年度使用額は,圃場での灌漑時間帯を精密に設定するため電源のタイマー制御を行う物品を購入することを計画しており,研究計画遂行のために効率的に使用する.
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Research Products
(2 results)