2014 Fiscal Year Research-status Report
高濃度塩水栽培が可能な培地と培地内における根の機能
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26660201
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Research Institution | Iwate University |
Principal Investigator |
松嶋 卯月 岩手大学, 農学部, 准教授 (70315464)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 塩ストレス / 水ストレス / 灌漑 |
Outline of Annual Research Achievements |
まず,塩水湛水栽培が可能かどうかの調査において,水耕栽培や土壌培地に比べてもみ殻培地を用い,かつ,湛水面から培地表面までの距離が20cm以上ある場合にコマツナの生存率が高いことを明らかにした.この栽培法では3 %の塩濃度で湛水栽培しても生存可能であり,通常根腐れを起こすとして推奨されない湛水栽培が塩ストレス対策に有効だという点で実用上の価値が高い.続いて,塩水湛水栽培下では,コマツナは,葉の気孔を閉じることで新葉を小さくして蒸散などによる水分損失を防ぎつつ,塩類を吸収し葉や葉柄に蓄積することで浸透圧を湛水溶液の浸透圧よりも高くし,根からの塩水吸収を可能にすることが明らかになった.すなわち,塩水湛水栽培中に植物葉の水ポテンシャルが,湛水栽培に用いる塩水より高し変化し,培地-根への水の拡散ではなく,培地-根へのエネルギーを使った水のフローが暗示され,画期的な事象が見出された. 根の役割分担を明らかにする調査では,培地底部を塩水に浸けた湛水栽培実験,毛管現象による培地内の水分上昇を排除した栽培実験を行った.その結果,コマツナの塩水湛水栽培においては,毛管上昇の起こりにくい培地を用いることにより,根系にかかる塩ストレスを軽減できることが示唆された.また,毛管現象を排除すると培地内の水分分布に勾配がみられ,根系自体にも水分を湿潤な場所から乾燥した場所へ輸送する働きがあることが確認された.すなわち,塩水湛水栽培をする際,培地としてもみ殻培地のような水分の毛管上昇が起こりにくい培地を選択することにより,根系にかかる塩ストレスや水ストレスを軽減できることが明らかになった.本結果は,これまで他の現象に隠されていた塩ストレスに対する植物応答のメカニズム,毛管現象を鍵とした土壌水分と根系の関係解明におけるブレークスルーに繋がる成果である.
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
1: Research has progressed more than it was originally planned.
Reason
まず,塩水湛水栽培によってコマツナ葉の浸透圧が上昇し,根による吸水のドライビングフォースとなれるかを検証する課題については,コマツナ葉の水ポテンシャルが低下し,根が吸水するに十分な浸透圧となったことを明らかにし,当初目的を達成することができた.「培地における毛管現象の起こりにくさ」が,高濃度塩水での湛水栽培を可能にするのか?の疑問を解く課題については,ポット中層に毛管現象が起きない空気層を置くことで根域を上部の非湛水域と下部の湛水域とに分ける方法(以下,半みず栽培法と呼ぶ)で,毛管上昇を削除した場合における水移動を調査し,毛管上昇により塩水が上昇しない層があることが塩水湛水栽培の成否に関わりが深いと推察され,課題の一部を達成し初年度として必要な知見を得た.塩水湛水栽培における植物の生存率と培地の水分・塩農度分布との関係を考察する課題は,研究実績の概要に記述したとおり達成することができた.塩水で湛水栽培した植物の根の形状を観察することで水中根や湿気中根の働きに相当する根が生じるか解明し,また,それらの機能について考察を行う課題は,栽培後における根系の写真を撮影し,培地下部と上部の形状の誓いについて観察を行い,来年度の調査にむけ一定の成果を得た.以上のことより,研究は当初の計画以上に推進していると自己評価する.
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Strategy for Future Research Activity |
まず,各試験培地の毛管現象の程度は,培地の毛管力と相関がある水分保持曲線を求めて評価する.その上で,毛管現象の程度が異なる培地である,砂,もみ殻培地,粉砕もみ殻培地について,培地の水分および塩濃度マッピングを行い,毛管現象の程度と水分布および塩類集積の程度を調査する.NaCl 2%溶液およびNaCl 3%溶液,対照区として水でコマツナを湛水栽培する.NaCl溶液を与えてから3週間後に,培地を5つの水平な層に分割し,各区画の含水率および電気伝導度を測定しマッピングを行う.また,根の役割を明らかにするために,各層における根の分布を調査する.また,prit root法を改良し,植物の2つに分けられた根の片方を水耕栽培で,もう片方を培地栽培で育てる手法を確立する.試料植物は不定根が発生しやすく,比較的sprit root法に向いているトマトを用いる.sprit rootの方法はVierheiligらがキュウリに用いた方法をトマト用に調整して行う.
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