2014 Fiscal Year Research-status Report
畜産領域におけるギンナン廃棄果肉の利活用ポテンシャル
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26660207
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Research Institution | Hokkaido University |
Principal Investigator |
小林 泰男 北海道大学, (連合)農学研究科(研究院), 教授 (50153648)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | メタン低減 / ギンナン果肉 / アナカルド酸 / 飼料添加物 / サイレージ / ルーメン / 糞便 / 発酵 |
Outline of Annual Research Achievements |
畜産由来温暖化ガスの削減にあたり、有用なメタン低減剤が開発されているが、本研究では国内農業廃棄物であるギンナン果肉に着目する。果肉には抗菌性希少フェノール・アナカルド酸が含まれ、本成分はルーメンでのメタン低減をもたらすので、果肉は飼料素材と考えうるが、共存負因子(毒素など)も無視できない。そこで、①ギンナン品種や保存形態(サイレージ化など)を考慮し、アナカルド酸を安定保持し、負因子を最小化した素材を選抜する、②その素材を飼料に添加しルーメン液で培養またはヒツジに給与した際の反応(温暖化ガス発生量、その他の消化指標)をモニタリングする、③ルーメン微生物組成の変化を精査する、などを通して、消化を阻害せずに温暖化ガスを低減できる新飼料(ギンナン産業廃棄物を初めて利用)を提示する、などを目的とした一連の試験を実施する。 本年度は、果肉のエタノール抽出物を調製し、まずはルーメン液の閉鎖培養系で、ついで連続培養系(人工ルーメン)にて飼料消化・発酵への影響を査定した。ギンナン2大品種のうち「久寿」は「藤九郎」よりもメタン低減効果が高かった。また、久寿果肉抽出物の添加は添加量依存的にメタン生成を低減し、プロピオン酸増強をもたらした。同抽出物に含まれる主要フェノール物質の約95%がアナカルド酸であり、発酵改変をもたらす主要機能性成分と考えられた。同抽出物は劇的にルーメン菌叢を変えうることが各種菌種・菌群の定量結果に反映されていた。すなわち、メタンの基質となる水素やギ酸を生成する菌群(TreponemaやRuminococcusなど)が減少し、プロピオン酸生成関連菌群(SelenomonasやMegasphaera)が増加した。またアンモニア生成も抑制(約50%)されていたため、飼料タンパク質やアミノ酸の節約につながる可能性も示唆された。同様の検討を放置堆積糞で実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
国内最大のギンナン産地である愛知県祖父江町に存在するギンナン2大品種(他にも3品種あるが供給が量的にみこめないマイナーな品種のため除外)のうち、「久寿」が「藤九郎」よりもルーメンでのメタン低減およびプロピオン酸増強効果においてともに高いことをin vitro培養実験で明らかにできた。これにより、今後継続してさらに深く機能評価するギンナン品種を「久寿」に特定できた。 その作用機序は、ルーメン菌に対する選択的な抗菌効果であることを、ルーメンで代表的な各種菌種・菌群の定量系を駆使することで明らかにできた。この事実はバッチ培養系および連続培養系(人工ルーメン)双方の評価系で確認できたため、ヒツジへの給与実験への展開へ、本研究は順調に進展していると判断している。 一方で、栄養学的負因子と考えられるギンナン果肉含有の抗ビタミンB6因子(4-メトキシピリドキシン)や青酸配糖体(アミグダリン)への対応については、ギンナン果肉のサイレージ化を計画しており、とうもろこしサイレージ調製時のギンナン果肉の適正な混合比率、添加乳酸菌の選抜などの検討について準備をはじめたところである。動物の採食拒否などの理由で、飼料として活用がどうしても難しい場合を想定し、放置堆積糞への添加で期待できるメタン低減などについての検討を、バッチ培養評価系をもちいて開始したところである。
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Strategy for Future Research Activity |
ギンナン果肉に含まれる負因子(抗ビタミンB6因子および青酸配糖体)への対応として、サイレージ化によるビタミンB6生成と微生物学的分解を利用する。また調製したサイレージのメタン低減効果の保持については、随時ルーメン液のバッチ培養系で評価する。さらに飼料へのサイレージ混合比率は、バッチ培養結果を反映させて計算で決定するが、動物(ヒツジ)の嗜好性試験をあらかじめ実施し、動物の反応をみながら、採食拒否がおこらず、かつ有用効果の期待できる最大比率を設定し、給与試験を実施することとする。 放置糞への添加試験では、対象が糞便であるので、添加果肉はもっとも省力的、かつ最も大量に存在する形態のもの、すなわち、室温放置果肉を施用する。堆肥化は小型コンテナーに牛糞を充填し、異なるレベルで放置果肉を混合したものを、異なる温度条件下で一定時間培養する。ここから発生するガスはクローズドチャンバー法に準じて真空バイアルに採取し、発生する温暖化ガス(メタンおよび亜酸化窒素)を定量する。同時に糞便主成分(窒素、繊維質、非繊維炭水化物、脂質、灰分など)および微生物組成の変化を主にAOAC・デタージェント法およびReal-time PCR法で定量化する。 以上の分析をとおして、新しい飼料素材もしくは放置糞便発酵調整剤としてのギンナン果肉の有用性を科学的に評価し、適切な利用形態について提言できるような研究推進をはかっていくものとする。
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Causes of Carryover |
報告の対象となるのは平成27年3月31日支払い分までであるが、3月納品4月末支払い分が翌年度に継続された。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
3月納品4月末支払い分に当てられる
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[Journal Article] Effect of cashew nut shell liquid on metabolic hydrogen flow on bovine rumen fermentation.2014
Author(s)
Mitsumori, M., Enishi, O., Shinkai, T., Higuchi, K., Kobayashi, Y., Takenaka, A., Nagashima, K., Mochizuki, M. and Kobayashi, Y.
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Journal Title
Animal Science Journal
Volume: 85
Pages: 227-232
DOI
Peer Reviewed
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