2015 Fiscal Year Research-status Report
タバコ関連疾患のベクターとしてのタバコ業界についての研究
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26670253
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Research Institution | Teikyo University |
Principal Investigator |
矢野 栄二 帝京大学, 大学院公衆衛生学研究科, 教授 (50114690)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | タバコ / タバコ会社 / CSR / 喫煙率 / 受動喫煙 / 研究費 / 利益相反 |
Outline of Annual Research Achievements |
たばこ会社は直接に、あるいは研究団体等を通して研究費助成を行っている。たばこ対策を進めるうえで、これらたばこ会社から支給される直接・間接の研究費はどういう意味を持つのか、また研究者、学会はこれをどう考え、こうした研究費を受けた研究にどう対応すべきなのかを学術団体や学術誌での議論を通して検討した。 世界医師会は「たばこ産業からのいかなる資金または教材提供も固辞する」よう勧告している。1996年米国胸部疾患学会関連2誌はたばこ資金による研究論文掲載拒否を決めたが、これに対し英国医学会誌(BMJ)は反対し、2000年にも同じ立場を表明していた。しかし、2013年にこの方針を転換し、タバコ資金による研究を拒絶することとした。また日本衛生学会のたばこ資金による研究を拒絶する投稿規定の改定に対しパブコメで賛否が問われた。これらから代表的な意見を分析し論点を整理した。 たばこ業界から補助を受けた研究を、内容の評価抜きに掲載を拒絶するということは、予断を排して示された事実のみを公平に判断するという学術雑誌編集の原則に抵触するのではないかという批判がある。しかしそもそも人の命や健康を守るという医学研究や医学雑誌の目的と、人の命や健康を損なう製品の販売で存立しているたばこ会社とは根源的対立がある。加えてたばこ会社が科学を歪め続けてきたこと、それは査読による論文の吟味だけでは防げなかったという事実の蓄積を踏まえてBMJ誌も方針を変更したと考えられた。 医学研究の最終目的と、そのための手続きの対立としてこの問題は整理できよう。従来は目的達成のために必要十分な手続きと考えられてきたものが、ここ数十年のタバコ会社による真実歪曲の証拠蓄積から再考が求められている。当面の選択がいずれであれ、たばこ会社の研究資金供与の影響に注目し、その対処策について議論を深める必要がある。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
学会・論文発表を行い、年度を超えたが本研究が中心になったシンポジウムが開催の予定である。
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Strategy for Future Research Activity |
これまでの五輪開催都市では公共の建物での屋内喫煙を禁じる条例や法制度を整備してきたことを踏まえ、東京都でも受動喫煙防止条例を制定するよう検討会が開かれたが条例は作られず、対応をゆだねられた国での法律制定もいまだに見通しが立っていない。さらに国のがん対策の中で、2022年までに喫煙率の半減を掲げたにもかかわらず、喫煙率の減少傾向は足踏みを続け、目標達成は困難な状況である。一方タバコ産業は電子タバコなど新たなタバコ製品を市場に投入し、喫煙人口の維持拡大を図っている。このように我が国のタバコ対策は諸外国に比べ大きく後れ困難な状況にあり、これまでのタバコ対策の見直しが迫られている。そこで日本社会におけるタバコ問題の現状を把握し、対策を再構築して最終的な脱タバコ社会実現に何が必要かを学術的に整理・解明する研究が必要である。全体としてはWHOのたばこ規制枠組み条約に示されている各項目に従っての検討になるが、特にこれまでわが国では研究が非常に遅れていた供給側、すなわちタバコ企業の分析が重要である。それと学術界自身が直接かかわるという意味で、タバコ企業からの研究費のことから研究を開始したが、さらに広くタバコ企業の街のクリーンキャンペーン、ボランティア補助などCSR(企業の社会的責任)活動の分析を進めていく必要がある。
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Causes of Carryover |
2016年5月に行われる日本衛生学会で研究内容に直接かかわる討論があり、その場で発表するとともに、討論に参加し情報を収集するため。またこれまでの研究をさらに論文として発表するための経費が必要である。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
上記2016年5月の学会で発表のため、研究代表者、研究協力者の旅費、学会参加費、および論文の投稿料にあてる。
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