2014 Fiscal Year Research-status Report
ゲノムに潜む鎮痛ペプチド・エンドモルフィンは酸化ストレスのRNA編集で誕生する
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26670288
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Research Institution | Kyushu University |
Principal Investigator |
松島 綾美 九州大学, 理学(系)研究科(研究院), 准教授 (60404050)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 遺伝子 / ゲノム / 生体分子 / 脳・神経 / 生理活性 / ペプチド |
Outline of Annual Research Achievements |
1997年にエンドモルフィンという神経ペプチドが脳から単離された。これには強力な鎮痛作用があり、最近では、アトピー患者を苦しめる痒(かゆ)みとの関連も非常に注目されている。しかし、意外なことに、未だにエンドモルフィン遺伝子は不明のままなのである。こうしたなか、申請者は最近、エンドモルフィン類似の前駆体遺伝子の存在に気がついた。これより「ゲノム中に遺伝子が見つからないのは、酸化ストレスなど特殊条件の下で、mRNAが転写後の修飾、すなわちRNA編集を受けてエンドモルフィン遺伝子が完成するからだ」と思い至った。そこでこの証明に挑戦している。さらに、神経ペプチド遺伝子の特徴として未同定の神経ペプチドも同時にコードされる可能性が非常に高く、本研究の新規鎮痛薬および抗痒薬開発に対する影響は計り知れない。 本年度は、採択後すぐに次世代シークエンサーを用いた網羅的塩基配列解析のために、申請計画通りに「ゲノム支援」の「大規模ゲノム情報生産及び研究リソース構築支援活動」に応募した。この研究支援活動には、科研費の採択が応募条件になっている。応募の結果、無事に採択された。そこで、マウス新生仔の全脳よりmRNAを抽出し、網羅的RNAシークエンスに供出した。 また、エンドモルフィン様ペプチドをコードしていると考えられた遺伝子の断片をPCRにより増幅しクローンの取得に成功した。このペプチドを化学合成し、オピオイド受容体に対する結合試験を実施した。このペプチドは結合能が低いものの、オピオイド受容体に結合することが確認された。遺伝子構造の全容を解明するために、RACE法によりこのペプチド遺伝子のクローニングも試みた。現在のところ、RACE法によるクローンの取得には至っていない。現在、引き続きRACE法による全長のクローニングを実施中である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
2年計画の初年度である本課題研究は、概ね計画通り順調に進展している。今年度は次世代シークエンサーを用いた網羅的塩基配列解析のために、申請計画通りに「ゲノム支援」の「大規模ゲノム情報生産及び研究リソース構築支援活動」に応募した。これは、文部科学省科学研究費新学術領域研究(研究領域提案型)『生命科学系3分野支援活動』が終了後、科学技術学術審議会で継続した活動が認められている研究支援活動で、科研費の採択が応募条件になっている。そこで早速応募した結果、無事に採択された。計画ではラット脳を用いる予定であったが、実験の簡便性からマウス新生仔の全脳をシークエンスに用いた。これに関しては現在データの送付を待っている状況である。また、培養細胞を用いた酸化ストレス暴露で起こるRNA編集の解析を予定していた。これについては培養細胞をラット脳神経細胞PC12を用いる予定であったが、神経幹細胞分化のモデル系としてよく知られているヒト多能性胎生期癌NTERA-2 clone D1も用いることにし、現在、その培養など準備を行っている。 また、エンドモルフィン様ペプチドをコードしていると考えられた遺伝子の断片をPCRにより増幅しクローンの取得に成功した。このペプチドを化学合成し、オピオイド受容体に対する結合試験を実施した。このペプチドは結合能が低いものの、オピオイド受容体に結合することが確認された。遺伝子構造の全容を解明するために、RACE法によりこのペプチド遺伝子のクローニングも試みた。現在のところ、RACE法によるクローンの取得には至っていない。 このように本研究は順調に推移しており、現在のところ特に問題点はない。
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Strategy for Future Research Activity |
今後は、まず平成26年度にシークエンスが終了した塩基配列解析結果のゲノム上へのマッピングを行う。また、解析の際には神経ペプチドの前駆体に特有の、シグナル配列を持つか否かに留意する。こうした解析により、得られた配列が神経ペプチドに由来するかを同定する。これらを通じて、最終的にエンドモルフィン前駆体遺伝子であるか否かを同定する。エンドモルフィンをはじめとするペプチドは、一つの前駆体上に複数コードされている可能性がある。これにも留意し、新規ペプチドがあるかを念頭に入れて解析を進める。また、RACE法をもちいて全長の配列を3’-RACEおよび5’-RACE法により確定する。これまでの経験に基づき、完全長cDNAを取得しやすいGeneRacer法(invitrogen)を用いる。mRNAの5’側に存在するキャップ構造を利用した、アダプターの付加を実施する。こうして得られた新規ペプチド遺伝子にコードされる神経ペプチドを化学合成し、オピオイド受容体に対する結合試験および活性化試験を実施する。 塩基配列の解析結果のゲノム上へのマッピングを継続すると共に、前年度に得られたゲノム上のマッピングに基づき、神経ペプチドの存在パターンを類別化し、新規な神経ペプチド予測法の開発を行う。さらに、得られたアルゴリズムで、他の神経ペプチドが予測できるか精査する。さらに、平成26年度に購入したト多能性胎生期癌NTERA-2 clone D1を用いて、ストレスの暴露を受けてから転写翻訳系への影響が速いRNA酸化損傷などの影響が起きるかを解析する。こうして、最終的には今なお、発見されていないエンドモルフィン遺伝子の発見に迫る。
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Causes of Carryover |
本研究は順調に計画通りに進んだ。しかしながら次年度使用金額が生じた理由の1つは、単純に3月に注文した試薬の国内在庫が無く、取り寄せに時間がかかったため、3月中の納品ができなかったためである。また、研究状況の進展により、本年度に購入予定であった試薬のいくつかを次年度に購入することにしたため、次年度使用額が生じた。 こうした理由につき、次年度使用額が生じたが、本研究は順調に進んでおり、特に問題は生じていない。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
3月に注文した試薬で、国内在庫が無く取り寄せに時間がかかったものについては、4月中の納品が見込まれているため、それの支払いに使用する。また、研究状況の進展により前年度に購入する予定であったが、次年度に購入することにした試薬については、これらを購入する。このように、助成金は当初計画と大きな変更は無く、問題なく使用予定である。
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Research Products
(13 results)
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[Journal Article] An in silico genomic search of endomorphin-like opioid peptides2015
Author(s)
Matsushima, A., Koyanagi, O.K., Nishimura, H., Inamine, S., Motomatsu, Y., and Shimohigashi. Y.
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Journal Title
Peptide Science 2014
Volume: -
Pages: 201-202
Peer Reviewed / Acknowledgement Compliant
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[Journal Article] Tritium-Labelled isovaleryl-RYYRIK-NH2 as potential antagonist probe for ORL1 nociceptin receptor2014
Author(s)
Inamine, S., Nishimura, N., Li, J., Isozaki, K., Matsushima, A., Costa , T., and Shimohigashi, Y.
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Journal Title
Bioorg. Med. Chem.
Volume: 22
Pages: 5902-5909
DOI
Peer Reviewed
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[Journal Article] Structure-activity Studies on the Halogenated Phe-containing Neuropeptide Substance P Analogs2014
Author(s)
Kuramitsu, Y., Nishimura, H., Nakamura, R., Suyama, K., Matsushima, A., Nose, T., and Shimohigashi, Y.
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Journal Title
Peptide Science 2013
Volume: -
Pages: 319-320
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[Journal Article] Specific Role of Phe Residues in Opioid Peptide Met-enkephalin- Arg-Phe in Binding to All Three Opioid Receptors2014
Author(s)
Motomatsu, Y., Nishimura, H., Matsumoto, Y., Inamine, S., Kuramitsu, Y., Matsushima, A., and Shimohigashi, Y.
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Journal Title
Peptide Science 2013
Volume: -
Pages: 317-318
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