2014 Fiscal Year Research-status Report
陽電子消滅の物理量計測による新規陽電子断層撮影法の研究
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26670304
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Research Institution | The Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
福地 知則 独立行政法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 研究員 (40376546)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 陽電子放射断層撮影 / イメージング / 陽電子寿命 / 対消滅ガンマ線 / 脱励起ガンマ線 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、陽電子放射断層撮影(PET : Positron Emission Tomography)により、プローブの分布のみではなく、陽電子消滅の寿命をパラメータとして、プローブの周辺環境の違いもイメージングすることである。パラメータとなる陽電子寿命は、陽電子消滅により生成する消滅ガンマ線と、陽電子の直後に放出される脱励起ガンマ線の検出時間差として計測する。したがって、計測した陽電子寿命を付加情報とするイメージング装置を構築することが必要である。平成26年度、簡易型のPET装置であるプラナー型ポジトロン・イメージング・システムに、脱励起ガンマ線検出用の検出器を追加したシステムを構築した。この装置では、陽電子消滅によるガンマ線をPET検出器であるBGOシンチレーション検出器で検出し、脱励起ガンマ線を追加検出器であるNaIシンチレーション検出器で検出する。それぞれの検出時刻の時間差を、Time-to-Digital Converter (TDC)を用いてデジタル数値化してパソコンに記録することより、陽電子の崩壊寿命を計測することが可能である。BGOシンチレーション検出器とNaIシンチレーション検出器の時間分解能は、どちらも数ナノ秒程度であり、陽電子寿命も同等の精度で計測することが可能であると考えられる。プローブの周辺環境により、陽電子寿命が数ナノ秒から数百ナノ秒の間で変化すると予想されることから、この計測精度は、本研究の目的に対して十分な精度である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本研究を遂行するにあたって、陽電子寿命を付加情報としてPETイメージングが可能な装置を構築することが技術上、最も肝要である。平成26年度、陽電子寿命を計測可能なイメージング装置を構築することができた。この装置は、通常のPETイメージングのための2重同時計測に加えて、追加検出器による3重同時計測が可能なように信号処理系が改造されており、PETイメージング用にBGOシンチレーション検出器、脱励起ガンマ線用の追加検出器としてNaIシンチレーション検出器を使用している。これらの検出器の基本性能から、数ナノ秒の精度で陽電子寿命が計測可能であると考えられる。したがって、平成27年度以降、装置の性能を検証するとともに、サンプルの計測を行い、陽電子寿命の変化を定量的に計測する次のステップに進むことが可能であり、研究は当初の計画通り進んでいると言える。また、実際の計測のための陽電子放出核種としては、半減期2.6年と長く市場で流通しているNa-22(1275 keVの脱励起ガンマ線を放出)を主に使用する予定であるが、同様に陽電子の直後に脱励起ガンマ線を放出するSc-44m(1157 keVの脱励起ガンマ線を放出)とI-124(603 keVの脱励起ガンマ線を放出)についての製造方法を確立しており、実験に使用する準備が整っている。
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Strategy for Future Research Activity |
平成26年度、陽電子寿命を付加情報とするPETイメージング装置を構築することができた。これにより、平成27年度以降は、まず、陽電子寿命が長くなる事が知られている多孔性のエアロゲル等の物資中における陽電子寿命を計測することにより装置の精度を検証する。装置の時間分解能は現時点のもので十分に陽電子寿命の変化を計測できると考えているが、時間分解能が高い程、微小な陽電子寿命の変化に対しても感度を持つことになるので、平成26年度に引き続き、時間分解能の向上のための開発を続ける。物質サンプルを用いた計測に続いて、細胞切片もしくは培養細胞中での陽電子寿命の計測を行い、最終的には、小動物のPETイメージングにおける陽電子の崩壊寿命計測を行う。具体的には、平成27年度中に複数種類の細胞切片および培養細胞における陽電子寿命の計測を行い、平成28年度中にマウス等の小動物による実験を行う計画である。これらの実験結果から、陽電子寿命の変化がどのような周辺環境の違いにより生じているかを調べて行く予定である。さらに、陽電子寿命が長くなるような薬剤を造影剤として同時に投与する手法も考えられるため、この手法についても必要に応じて適宜研究を進める予定である。また、一連の実験のための陽電子放出核種としては、市場で流通しているNa-22を主に使用する予定であるが、化学的にNa-22では薬剤の標識が困難であるため、すでに製造方法を確立している陽電子-脱励起ガンマ線放出核であるSc-44mとI-124についても使用して研究を推進して行く計画である。
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Causes of Carryover |
当初計画では、装置開発時の計測用にNa-22非密封線源を購入する予定であった。しかし、装置開発の段階では既に所有している検出器校正用のNa-22密封線源で十分に開発が進められることが分かった。したがって、放射性同位元素の半減期による減衰等を考慮した場合、なるべく使用直前に購入する方が望ましいため、次年度に購入を繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
実際のサンプルの計測には、Na-22非密封線源が必要であるため、繰り越し分は、当初の予定通りNa-22非密封線源の購入に使用する計画である。
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