2015 Fiscal Year Research-status Report
陽電子消滅の物理量計測による新規陽電子断層撮影法の研究
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26670304
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Research Institution | Institute of Physical and Chemical Research |
Principal Investigator |
福地 知則 国立研究開発法人理化学研究所, ライフサイエンス技術基盤研究センター, 研究員 (40376546)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2017-03-31
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Keywords | 核医学 / イメージング / 陽電子放射断層撮影 / 放射線 / 陽電子寿命 |
Outline of Annual Research Achievements |
本研究の目的は、陽電子放射断層撮影(PET : Positron Emission Tomography)により、生体内でのプローブの分布のみではなく、陽電子消滅の寿命をもとにして、プローブの周辺環境の違いをイメージングすることである。また、この寿命の違いがどのような生命現象に起因するものであるか解明することである。 陽電子は電子と結びついて対消滅を起こす。その際、周辺の空間の大きさ等の環境により、消滅までの寿命が変化することが知られている。この性質は、材料工学分野において品質検査等に利用されているが、生体内での陽電子寿命についてはあまり知られていない。 陽電子の寿命を測定するためには、陽電子の対消滅により生成する消滅ガンマ線と、陽電子の直後に放出される脱励起ガンマ線の検出時間差を計測する。PETイメージングでは、陽電子の対消滅ガンマ線をイメージングのために計測しているので、これに加えて、脱励起ガンマ線を計測すれば、陽電子の寿命を計測可能となる。 現在、我々の研究室では、複数プローブ同時イメージングPET装置を開発中であるが、この装置は通常のPETイメージングである対消滅ガンマ線の計測に加えて、プローブを識別するために、追加検出器により脱励起ガンマ線を計測するものである。そこで、この装置において、対消滅ガンマ線計測から脱励起ガンマ線計測までの時間差をイベントデータに記録できるうに改良を加え、陽電子寿命の違いを反映させたイメージングが可能な装置を開発 した。この装置により陽電子寿命の異なる分布画像を得る事に成功した。今後、小動物を用いた実験を行い、生体内での陽電子寿命の測定を行う。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
我々の研究室では、複数のプローブの同時イメージングを目的として、新規の陽電子放射断層撮影(PET : Positron Emission Tomography)装置の開発を進めている。この装置は、通常のリング型のPET装置に、脱励起ガンマ線用の検出器を追加したもので、PETイメージングのための消滅ガンマ線計測に加えて脱励起ガンマ線も検出することによりプローブを識別して複数のプローブの同時イメージングを実現するものである。 平成27年度は、この装置をベースとして、陽電子の寿命の違いをパラメータとしてプローブ分布を画像化するシステムを構築した。PET検出器による対消滅ガンマ線計測から、追加検出器による脱励起ガンマ線計測までの時間差を陽電子の寿命として、その時間をイベントデータに記録するシステムとした。このイベントデータを陽電子寿命の違いにより分割し、それぞれを画像再構成することにより、陽電子寿命をパラメータとした複数の画像を得る事ができる。 この装置を用いて、Na-22核種によるファントムを用いたイメージング実験を行った。Na-22は陽電子放出直後に1275 keVの脱励起ガンマ線を放出する核種である。所得したイベントデータのうち、陽電子対消滅ガンマ線の2重同時計測に脱励起ガンマ線を加えた3重同時計測であるものについて、対消滅ガンマ線検出から脱励起ガンマ線検出までの時間差が異なるものを2つのグループに分けた。それぞれのイベントデータを別々に画像再構成することにより、陽電子寿命の違いに対応する画像を得た。これらの画像は、特にファントムの端の部分で放射能が異なっており、陽電子の崩壊した周辺環境の違いを反映したものであると推測できるが、物理的に予想される陽電子の寿命と比較して妥当であるかどうかは今後の検討課題である。
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Strategy for Future Research Activity |
平成27年度の研究により、PETプローブの分布を、陽電子の寿命をパラメータとしてその違いを画像化する装置を開発した。ファントムを用いたイメージング実験により、この装置から陽電子寿命の異なるプローブ分布画像を得られることを確認した。 材料工学分野の研究などにより、エアロゲル等の多孔性物質では、陽電子寿命が特に長くなることが知られており、他の物質についてもある程度陽電子寿命に関する知見がある。そこで今後、予想される陽電子の寿命と比較して、開発した装置から得られる陽電子寿命をパラメータとした画像が、妥当であるかどうか評価する。 また、平成27年度の研究では、検出器の時間応答の個体差など、細かい補正は行っていない。PET検出器および追加検出器はいずれもシンチレーション検出器であるが、これらの検出器は、時間応答について個体差があると考えられる。それぞれの検出器組み合わせでの時間スペクトルをつくり、すべての組み合わせについて時間軸を揃えることにより、より精確な陽電子寿命を得る事が可能となる。さらに、どの時間範囲の陽電子寿命を画像にするのが、最も効果的に時間差を画像化することができるかも、現時点では明らかではないため、この設定の最適化も行う。 これらの評価および設定を行った後、小動物実験を行い、生体内での陽電子寿命の分布画像を得る予定である。さらに、得られた分布画像から、生体内での陽電子寿命の違いのメカニズムを解明して行く。
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Causes of Carryover |
当初計画では、放射性同位体を購入予定であったが、他の研究で余った放射性同位体を使用することにより今年度の研究を進めることができたため、購入を次年度に繰り越すこととした。
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
プローブ用の放射性同位元素を購入する。
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