2014 Fiscal Year Research-status Report
院内感染菌を対象に質量分析法を応用した菌株間の迅速な相同性解析手法の構築
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26670350
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Research Institution | International University of Health and Welfare |
Principal Investigator |
永沢 善三 国際医療福祉大学, 保健医療学部, 教授 (80706820)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 疫学解析 / MRSA / 緑膿菌 / MALDI-TOF MS / PFGE / POT法 / REP-PCR法 / リボゾーム蛋白 |
Outline of Annual Research Achievements |
近年、院内感染はMRSAを始め、腸球菌、緑膿菌、ESBL産生腸内細菌およびカルバペネム系薬耐性腸内細菌など多菌種の微生物が起炎菌となっている。院内感染の確定には同一菌株による蔓延の有無を解析する必要がある。申請者はマトリックス支援レーザー脱イオン化飛行時間質量分析法(以下、MALDI-TOF MSと略す)での波形データを応用し、迅速に菌株間の相同性の違いを鑑別する新しい解析手法の開発に取り組んだ。このMALDI-TOF MS法(MS法)での疫学解析が可能となれば、遺伝子技術で不可能であった菌株の疫学解析にも対応できる。さらに、MS法は分析も短時間で、かつ解析費用も安価なため、院内感染の疑わしい菌株が出現した場合には極めて有用な手法となる。 2014年はMRSAおよび緑膿菌の2菌種を対象にMS法での疫学解析の技術的な基礎検討および解析ソフトの開発に取り組んだ。2014年12月には開発した解析ソフトを使用し、MS法での疫学解析の有用性を評価する目的にて、MRSAおよび緑膿菌で院内感染が示唆された菌株を使用し、従来より疫学解析法として用いられている1)pulsed-field gel electrophoresis:PFGE法、2)Phage Open Reading Flame Typing:POT法、3)Repetitive. Extragenic Palindromic sequence :REP-PCR法での成績と比較解析を実施した。 その結果、MRSAに関しては極めて高い相同性の一致率が得られた。緑膿菌に関しては一部、解析手法により乖離の成績が認められたが、全体的には良好な相同性の一致率が認められた。2015年はMRSAおよび緑膿菌の解析菌株を増やし、詳細な疫学解析を実施する予定である。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
1、MALDI-TOF MSでの波形データを応用した解析ソフトの開発:初期段階でのMALDI-TOF MSの波形データ解析には、ClinPro Tools (Bruker Daltonik:Germany)を予定していた。ただし、このClinPro ToolsはMALDI-TOF MS装置に含まれているソフトではないこと、さらに波形データの収得には重複測定が必要になる問題点があった。そこで、菌種同定に利用されるflexAnalysis softwareを使用し、かつ単回測定で解析が可能なソフトを独自開発した。このソフトの開発により、MALDI Biotyper (Bruker Daltonik:Germany)を導入し菌種同定を実施されている施設はすべて疫学解析が可能となった。 2、Repetitive. Extragenic Palindromic sequence :REP-PCR法の追加:初期段階ではMS法による疫学解析の有用性を比較する解析法としてPFGE法、POT法の2種類を計画していたが、REP-PCR法を利用したDiversiLabシステムの借用が 可能となったため、比較対象の解析法を3種類に増やした。なお、このDiversiLabシステムはPFGE法およびPOT法に比べ疫学解析できる菌種の幅は広く、かつ鮮明な泳動像とシステム化された解析手法のため、世界的にも利用されている特徴がある。ただし、このREP-PCR法は試薬コストが極めて高額なために当初予定していた菌株数を減らす必要が生じた。 3、基礎的検討を実施したMRSAおよび緑膿菌に関する解析データ比較:MRSAに関しては極めて高い相同性の一致率が得られた。緑膿菌に関しては一部、解析手法により乖離の成績が認められたが、全体的には良好な相同性の一致率が認められた。
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Strategy for Future Research Activity |
1、MALDI-TOF MSでの波形データを応用した解析ソフトの改良:現在、flexAnalysis softwareを使用して独自開発した開発ソフトの更なる充実化を目指す。現状は菌株間での共通ピーク波形を解析者が除去し、異なる波形データでの疫学解析を実施してきた。そこで、ソフトの改良としては自動的に共有のピークを除去し、さらに異なる波形データを基準に自動的に系統樹解析ができるようする。このソフトが開発されれば、解析は格段に向上し、更に多菌種の疫学解析に結びつく。問題点としては菌株間での共通ピークを除去する時の設定値を検討する必要がある。 2、MRSAおよび緑膿菌を対象とした追加菌株間での検証法の追加:DiversiLabシステムはPFGE法およびPOT法に比べ疫学解析できる菌種の幅は広く、かつ鮮明な泳動像とシステム化された解析手法のため、世界的にも利用されている特徴が、試薬コストが極めて高額なために基礎的な菌株数を減らした。追加検討では予算の範囲内で菌株を追加し、さらに表現系による疫学解析結果との相同性についても検討を予定している。 3、現在、院内感染として注目されているClostridium difficileへの応用:C. difficile は抗菌薬下痢症の起炎菌であり、接触感染による院内感染として極めて早期の対策を必要とする細菌である。そこで、MRSAおよび緑膿菌以外の代表的な菌種として解析をREP-PCR法によるDiversiLabシステムでの成績を基準に相同性を検証する。この疫学解析の結果、高い相同性の一致率が得られた場合には、他菌種への応用の可能性も更に高くなることが予想される。
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Causes of Carryover |
試薬の定価と納入価さらには消費税を考慮し、次年度予算の前倒しを防ぐ目的で試薬・消耗品の購入を抑えて処理したため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
本年度の試薬購入費として使用する
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