2014 Fiscal Year Research-status Report
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26670391
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Research Institution | Chiba Cancer Center (Research Institute) |
Principal Investigator |
筆宝 義隆 千葉県がんセンター(研究所), 発がん制御研究部, 部長 (30359632)
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Project Period (FY) |
2014-04-01 – 2016-03-31
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Keywords | 発がん / 幹細胞 / 3次元培養 |
Outline of Annual Research Achievements |
膵がんは難治がんであり、発がん機構の解明および革新的な早期診断・治療法の確立が喫緊の課題である。膵がんで頻度の高い遺伝子異常を膵臓特異的に再現した遺伝子改変マウスが疾患モデルとしてこれまで汎用されてきており、これまでに、膵がんモデルとして膵臓特異的なKras変異マウスが多数作成されている。Kras変異は、単独の場合は先天的に誘導されたものでも腫瘍形成には時間を要すること、しかしp53やp16などの主要ながん抑制遺伝子のノックアウトマウスと交配することで腫瘍化が大幅に促進化されること、などが明らかにされてきた。しかし、これら動物モデルを用いた解析は生理的な環境における発がんを忠実に再現する利点がある一方で、上皮と間質に含まれる複数の細胞腫間の複雑な相互作用を分離して解析することが技術的に困難な点、またマウスの作成に時間と労力を要する点などが問題とされてきた。 本研究では、より単純な方法、すなわちマウスの膵管上皮初代培養細胞とレンチウイルスによる遺伝子導入のみにより、短期間で発がん過程が再現可能であることを明らかにした。上皮細胞への体細胞変異をin vitroで模倣した場合でも発がん性に関しては個体レベルでの解析と同様の結果が得られたことから、上皮細胞における遺伝子変異の蓄積が膵臓がんの発がん過程を促進する主要な要素であることが強く示唆されると同時に、細胞レベルの簡便かつ迅速な膵管発がんモデルとして本モデルは有用な実験系になると考えられる。 本研究で作成された細胞レベルの膵発がんモデルは、従来技術的に困難とされた早期病変の詳細な解析に道を開くものであり、発がん機構の解明のみならず早期診断マーカーの開発にも資する成果と考えられる。また、任意の遺伝子異常を擁する膵がん細胞株を短期間で作成可能なことから、治療標的の探索や分子標的治療薬候補物質の評価系としての利用にも応用が期待される。
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Current Status of Research Progress |
Current Status of Research Progress
2: Research has progressed on the whole more than it was originally planned.
Reason
本年度は研究開始後数ヶ月で所属機関が変更になったために若干の研究の中断があったが、幸い移籍先での立ち上げも順調に進んだ。マウス膵臓上皮細胞の3次元初代培養を最小限の因子で安定的に実行可能な実験条件を見出し、LSL-KrasG12Dマウスを用いた細胞レベルの膵がんモデルを作成し、個体レベルでの膵がんモデルと同様の結果が得られた事から、本研究は順調に進展していると言える。さらに、得られた膵がん細胞株はヌードマウスの皮下への移植を繰り返す過程で悪性化を顕著に示すことから、Krasをドライバーとする膵発がんに関して悪性化も含めて再現されていると考えられる。 ただし、3次元培養においてオルガノイドを維持する祭の培養条件や期間によっては、Kras活性化のみでも発がんが見られてしまい追加で導入したshRNAの効果が判然としない場合がある。そのため、多段階発がんの再現や遺伝子間の相互作用の検出に関しては、実験条件の更なる最適化を行なう必要がある。特に、Kras活性化のみで膵がんの初期病変や前がん病変と同等の組織学的変化が誘導されることを期待しているものの、正常に近い組織像かがんに近い組織像の両極端に分かれた結果となることが多いため、今後初期病変を効率よく再現できるかどうかを指標として条件検討をしていく必要がある。
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Strategy for Future Research Activity |
本モデルの最大の特徴は、遺伝子改変マウスの作成を経ることなく当該遺伝子異常の膵発がんへの寄与度を簡便に検証可能な点である。そこで、膵がんで変異が報告されていながら遺伝子改変マウスが未作成の遺伝子なために発がんへの関与が未検証である遺伝子異常に関して、積極的かつ迅速に、Kras変異と協調的に発がんを誘導するか検証を今後進めて行く。 初年度の成果により、膵発がんがin vitroで再現可能であること、組織学的にも繊維化が強い腺がんの組織型を示すことなどは確認済みであり、新規の膵がんモデルを確立したと考えられる。そこで、得られた腫瘍由来のオルガノイドを用いて多段階発がんの各ステップにおけるシグナル経路の活性化がどのように変化していくかなど追跡していくことにより、膵発がんの分子機構を明らかにしていく。また、本モデルのもう一つの特徴である、上皮のみの集団の解析が容易である点を最大限に利用し、個体レベルのモデルではサンプルが採取しにくい初期小病変相当のオルガノイドの解析にも今後力を入れて行く。さらに、遺伝子異常を追加導入しない場合でも、Kras活性化後の時間経過にしたがい自動的に悪性化が進展しているように見える点については、転写制御におけるある種のポジティブフィードバックループが想定される。その詳細な分子機構を明らかにすべく詳細な解析を行なって行く予定である。
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Causes of Carryover |
年度の途中で所属機関を異動し、研究室を新たに立ち上げた。その結果、動物実験が開始できるまでの準備期間について動物の購入を行なわず、相当する費用の減少につながったため
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Expenditure Plan for Carryover Budget |
3次元培養に用いるマトリゲル1本とR-spondin1本でほぼ使い切ることになり、4月中に消耗品として使いきる予定である。
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Research Products
(2 results)